アナザーエデン ~soul~

@okyt

第1話

「オイシイ…」

頭の中で、何度も繰り返される言葉。

何も覚えていない。でも、確かに覚えている。

僕の記憶には、何が隠れているのだろうか。

光に満ちた記憶か、それとも…



とある村、住民たちは皆倒れている。

その中で、一人の男がふらふらと歩いていた。

「やっと自由になれた・・・」



ミグランス王に頼まれた魔物退治を終え、アルド・エイミ・サイラスは、帰り路を歩いていた。

アルド「なかなか強かったけど、無事に倒せたし、一件落着だな。」

エイミ「リイカも来てくれたら、もう少し楽に倒せたかもね。」

アルド「今日は、リイカはヘレナと別の用事があると言っていたから仕方ないさ。」

サイラス「疲れて、お腹がすいたでござる。帰ったら酒場に行くでござるよ。」

アルド「ああ、かなり時間もかかったし、お腹すいたな・・・ってあれ?あの人だかりは何だ?」

道の先が何やら騒がしい。近づいてみると、どうやら一人の料理人が道の途中で、料理を振舞っているようだ。

料理人「もうすぐ完成するから、皆待っててね。」

客A「どんどんいい匂いがしてきやがる。たまらねえぜ。」

客B「まさか、こんな外の道のど真ん中で、飯が食えるとはラッキーだぜ。」

アルド「まさかこんなところで料理してるのか?魔物が来たらどうするんだ・・・」

サイラス「しかし、とてもおいしそうな香りがするでござるよ。拙者我慢の限界でござる。」

エイミ「私もサイラスと同意見ね。ここで昼ご飯を食べましょ。」

アルド「確かに俺もこの匂いを嗅いだら、ますますお腹がすいてきたし、そうしようか。」

料理人がアルドたちに気づき、声をかけた。

料理人「おや、君たちも僕の料理を食べるかい?」

アルド「ああ。俺たちの分もお願いできるかな。」

料理人「うん、もちろん。料理もちょうど今完成したところだよ。」

客とアルドたちの前に、料理が配られる。

料理人「みんなおまたせ。楽しんで食べてくれ。」

客A「こりゃうまそうだ。」

客B「早速いただくとするぜ!」

アルド「本当に美味しそうだな。」

エイミ「これは食べるのが楽しみね。」

サイラス「では早速いただくでござる。」

全員が料理を口に運んだ。

アルド「こ、これは・・・」

エイミ「少し、いや、か、かなり・・・」

サイラス「まずいでござる!」

料理を食べたもの全員が飛び上がり、苦しみだした。

客A「く、口と・・・喉が焼けそうだ!!」

客B「何か、何か飲み物をくれ~!!」

アルド「体がとても熱い!焼けるような感覚だ!」

エイミ「でも、強烈な寒気も同時に感じるわ!」

サイラス「視界がゆらゆらしているでござるよ・・・」

料理人「はは。また失敗しちゃったかな。前回より調味料を152種類変えてみたんだけどなあ。」

料理人はさわやかに笑っており、何が悪いのかわかっていない様子だ。

客A「また失敗だと?じゃあお前は自分が料理下手だと知ってて、俺たちに飯をふるまっていたのか!?」

客B「なんて野郎だ!!料理人を名乗ってんじゃねえ!!」

ほかの客「そうだそうだ!!」

客A「みんな!俺たちを殺そうとしたこいつを、こらしめようぜ!」

いまにも客たちが料理人を襲い掛かりそうな雰囲気だ。

エイミ「何かまずい雰囲気になってきたわね。」

サイラス「味もまずかったでござるが・・・」

アルド「とりあえず、この料理人を客たちから離そう!」

アルドたちは料理人の腕を引っ張り、客たちを振り払い、街まで逃げた。


~王とユニガンの宿屋~

アルド「ハアハア・・・。ここまでくれば大丈夫だろ。」

エイミ「他のお客さん、みんな目が血走ってたわね。」

サイラス「やっと、視界が元通りになってきたでござるよ。」

料理人「ははは。ごめんね。実は料理人として、僕はまだまだ修行中なんだ。」

アルド「(いや、あの不味さは、修行中とかのレベルじゃないと思うんだが・・・)」

アルド「自己紹介がまだだったな。俺はアルド。よろしくな。」

エイミ「私はエイミ。よろしくね。」

サイラス「拙者はサイラス・・・ゴホッゴホッ、まだ喉の調子がおかしいでござる。」

料理人「僕の名前はソル。みんなよろしくね。」

アルド「ソルはどうしてあんな道の途中で料理してたんだ?」

ソル「僕は、この大きい街、ユニガンだったかな?ここを目指していたんだけど、

   途中でお腹を空かせている人を見かけてね。その人のために料理を作ってたんだけ

   ど、段々と人が集まってきちゃったんだ。」

アルド「料理の腕前はともかく、優しいんだな。どこから来たんだ?」

ソル「湿原の下の方の森から歩いてきたんだけど・・・僕、実は記憶がないんだ。」

サイラス「なんと!?それはまた奇怪でござるな。」

ソル「一週間くらい前かな。気が付いたら、森の中で倒れていて。何も覚えていなかった

から、とりあえず近くの立て看板に書いてあったユニガンの方向に歩いてきたんだ。」

エイミ「何も覚えていないなら、どうして料理人をしているの?」

ソル「どうしてだろうね。森で目覚めてから、ずっとお腹が空いていてご飯のことしか頭

になかったからかな。」

エイミ「(そんな理由で、あんな恐ろしい料理を生み出してしまったのね・・・)」

ソル「それと、唯一うっすらと覚えている記憶があるんだ。僕が何か食べて「おいしい

」って言ってる記憶なんだけど。」

アルド「そういえば自分の名前も忘れていなかったんだな。」

ソル「実は名前も覚えていなかったんだけど、名前はこの首飾りの裏に彫られていたんだ。」

アルド「そうだったのか。」

エイミ「ねえアルド。ソルの記憶を取り戻すために、協力してあげましょう。」

サイラス「そうでござるな。ここであったのも何かの縁でござる。」

アルド「ああ。そうだな!」

ソル「本当かい!ありがとう。君たちは優しいんだね。今度お礼に何かごちそうを振舞うよ。」

エイミ「き、気持ちだけ受け取っとくわ。」

アルド「でも、俺たち湿原の下の方は行ったことがないから、詳しいことは分からないな。」

サイラス「まずは町の人たちに聞き込みでござるな。」


~王都ユニガン~

アルド「中々情報が手に入らないなあ。エイミたちが何か情報を得られているといいけど・・・」

ソル「アルド君、僕のためにありがとう。お礼に今作った料理食べるかい?」

アルド「今はやめておくよ・・・」

エイミ「アルド。ソル。」

アルド「エイミ!どうだった?何かわかったか?」

エイミ「ううん。何もわからなかったわ。でも、行商人に話を聞いたんだけど、その人の知り合いが湿原より南の地域に良く行ってるらしくて、戻ってきたら、教えてくれるって。」

アルド「それは頼りになりそうだ。おっサイラスも戻ってきたようだな。」

サイラス「湿原より下の情報は何も得られなかったでござる。しかし、拙者が話しかけた人から、料理人ならば是非これを渡してくれと頼まれたでござる。」

ソル「えっと・・・第1回ユニガン料理大会開催のお知らせ?はは。とても楽しそうだね。」

アルド「料理大会!?ソルが!?」

サイラス「拙者も丁重にお断りしたのでござるが、一切聞いてもらえなかったでござる。」

エイミ「予選は今日で、決勝は明日みたいね。優勝賞品は魂の葉?聞いたことないわね。」

ソル「魂の葉?何か聞き覚えがあるような・・・」

アルド「本当か!?」

ソル「うん。記憶はないけど、絶対知っているっていう不思議な感覚だよ。」

サイラス「では、決まりでござるな。」

アルド「ああ。ソルが料理大会で優勝して、魂の葉を手に入れることができるように協力しよう!」

エイミ「うそでしょ!?ソルがユニガンで一番の罪人になってしまうわよ!?」

ソル「ははは。大丈夫だよエイミさん。調味料は600種類持ってるからね。」

エイミ「そういう問題じゃ・・・」

サイラス「予選は、今日午後の7時までに、お肉を使った料理を、ミグランス劇場前に設置したイベントスペースに提出と書いてあるでござる。」

ソル「じゃあまずは食材調達だね。アルド君サイラス君エイミさん、肉を取りに行こう。」

アルド「ああ。最高の獣の肉を用意しなきゃな!バルオキーの近くに美味しいと噂の獣が生息しているところがあるんだ。」

サイラス「いざ出陣でござる。」

エイミ「どうなることやら・・・」


~ヌアル平原~

アルド「このあたりだ。いたあいつだ!」

ソル「よし、捕まえた!」

サイラス「お見事でござる!」

エイミ「じゃあユニガンに戻って早速料理を作りましょう。」


~ユニガンの酒場~

ソル「よし、完成だよ。」

アルド「香りはとても良いんだけど・・・」

サイラス「前回も香りは良かったのに味が強烈でござったからな。」

エイミ「食べてみないと分からないわね・・・」

料理をみんな一斉に口へと運ぶ。

アルド、エイミ、サイラスは意識を失った。

ソル「ははは。あれおかしいな。今回は調味料を242種類使ったんだけど、美味しくなか

ったのかな。でももう時間もないしこの料理を出すしかないよね。」


~ミグランス劇場前~

イベントスペースで料理を渡す。

ソル「この料理でお願いします。」

スタッフA「とてもおいしそうな香りですね。では、予選の結果発表は2時間後ですの

で、楽しみにお待ちください。」

アルド「何とか奇跡が起こって決勝に行けないかな。」

エイミ「それよりもスタッフが死なないことを祈りましょう。」

サイラス「そうでござるな・・・」

ソル「ははは。結果発表が楽しみだね。」

3人はうつむいた。


2時間後

司会者「いよいよ第1回ユニガン料理大会の結果発表のお時間です。」

エイミ「スタッフが倒れてはいないみたいね。」

サイラス「何とか耐えたようでござるな。」

ソル「少しドキドキしてきたよ。」

司会者「予選参加者は50人で、ここから5人が決勝へと進出します

本日の予選の審査基準は、見た目と香りです!」

アルド「なんだって!?てことはもしかしたら・・・」

司会者「では、発表します。予選第1位は・・・ソルさんです!!おめでとうございま

す!!」

アルド「やっぱりか!!」

エイミ「確かに見た目と香りは一級品よね。」

サイラス「拙者たちも最初はそれで騙されたでござる。」

司会者「・・・以上5名が明日の決勝へと進みます。決勝は午後1時より開始としますの

で、皆さまよろしくお願いいたします。明日の決勝のお題はキノコです。」

アルド「こうなったら絶対優勝するぞ!」

サイラス「奇跡をもう一度起こすでござる。」

ソル「ははは。そうだね。うん、頑張ろう。」


~ユニガンの宿屋~

アルド「じゃあ明日に備えて今日は寝ようか。」

エイミ「おやすみ。」

サイラス「おやすみでござる。」

ソル「みんな今日はありがとう。おやすみ。」


その日ソルは夢を見た。

ぼんやりとしているが、おいしいと言っている自分の前には、男の子がいた。

その子は自分に向かって、お兄ちゃんと呼んでいる。この子は僕の弟か

これは弟と一緒に食事をしている記憶なのか・・・

もしそうなら、早く会いたいな・・・


第一話終了












第2話

~ユニガンの宿屋~

アルド「おはよう。ソル。」

ソル「アルド君。おはよう。」

アルド「決勝はキノコ料理だったな。キノコを採りに行こうか。」

エイミ「キノコはもう買ってあるわ。ソルに必要なのは、食材を採る時間じゃなく、料理を練習する時間よ!!」

アルド「そうだな!よし、早速練習しよう!」

ソル「ははは。よし。いっぱい作るから味見してね。」

サイラス「任せるでござる。味見はアルド殿がするでござるよ。」

アルド「サイラス・・・」


ソルはたくさんの料理を作り、アルドは何度も苦しみ、意識を失った。


ソル「もう12時だから、これが最後の料理だね。アルド君食べてくれるかい?」

アルド「う、うん・・・もちろん。」

一口食べるとアルドは意識を失い、更に今回は悪夢も見た。

真っ暗な部屋で、ギルドナ、ガリアード、ヴァレス、幻視胎等、今まで戦った強者がにじり寄ってくる。

ギルドナ「アルドく~ん。アルドく~ん。一緒にもふもふしようよ~」

ガリアード「アルドく~ん。アルドく~ん。アルドく~ん。アルドく~ん。」

アルド「なんだこれは!!怖すぎる!来るな!こっちに来るな!」


戦闘


アルド「何とか追い払ったか・・・」

パルシファル王「アルドく~ん。アルドく~ん。アルドく~ん。」

合成鬼竜「アルドく~ん。アルドく~ん。アルドく~ん。アルドく~ん。」

人数は更に増え、アルドに近づいてくる。

アルド「うわああああああああ!!!」


アルドは目を覚ました。

エイミ「アルド大丈夫?」

アルド「よかった・・・夢か。」

エイミ「ずっとうなされていたのよ。もふもふがどうとか・・・」

アルド「ソルとサイラスは?」

エイミ「さっきの料理を持って、決勝に向かったわ。丁度今頃審査してるんじゃない。」


ソルたちが帰ってきた。


サイラス「ただいまでござる。」

アルド「おかえり。結果はどうだった?」

ソル「決勝の審査基準は味だったんだ。それで、僕の料理を食べたら審査員が全員気を失って失格になっちゃった。ははは。」

エイミ「そ、それは気の毒ね・・・」

アルド「じゃあ魂の葉は手に入らないのか。せっかく記憶を取り戻すきっかけになりそうだったのに・・・」

ソル「みんなありがとう。他の方法でがんばってみるよ。」


行商人がエイミを訪ねてきた。

湿原の南の地域に行った商人が帰ってきたようだ。


~ユニガンの酒場~

商人の話で、湿原の南にある小さな村の住民が皆倒れて亡くなっていたこと、

そして、その村特有の紋章が、ソルの首飾りに彫られていることも知る。

また、魂の葉を見つけたのはその商人で、1週間前に、ソルが倒れていた森近くで見つけたらしい。


ソル「明日、その村に行ってみることにするよ。僕はそこから逃げてきたのかも知れない。」

アルド「俺たちも一緒に行くよ。」


~ユニガンの宿屋~

またソルは夢を見た。

昨日と同じ記憶。だが、昨日より鮮明な光景だ。

目の前で、泣きながら「お兄ちゃん助けて」と言う弟。

その弟を掴み、弟から魂を吸い、食べている異形の自分。

「オイシイ」この言葉は、弟のそして、村の人々の魂の味に向けられた言葉だった。


ソル「全部思い出した。弟を、村のみんなを殺したのは・・・僕だ。」


第2話終了




第3話


アルドたちが朝起きると、ソルの姿がない。

アルドたちは湿原の南にある村へと向かうことにした。


~ニムル村~

雨の中、村には100人近くの村人が横たわっている。その中心にはソルがいた。

ソル「アルド・・・全部思い出したんだ。」

ソルは過去を語る。


この村の名はニムル村。100人ほどの住民の小さな村。その村の人々は皆、昔から特殊な力を使えた。それは魂の力。魔法とは異なり、魔法以上の強大な力を持っている。魂の力は人によって大きさが違う。その村は外の世界とほとんど交流することがない。何故なら、その力が外の世界に漏れると、大変なことになるから。でも、邪悪な魂を持つ村の者も当然現れる。その度に、村の人々が力を合わせ、その者を殺した。邪悪な魂を持つ者の死体は村の外れの祭壇に埋葬され、村長が代々封印してきた。しかし、ある日、ある邪悪な魂を持った者が殺され、埋葬された。名はヘブル。その者の持つ魂の力はとても強大で、死してなお、魂は祭壇の中で生き続けた。年月が経ち、やがてヘブルの魂は、今まで死んだ者の魂も目覚めさせ、自分の中に取り込んでいった。そして力をましたヘブルの魂の力で、祭壇の封印は壊れた。魂だけでは、動くことができない。なので、ヘブルの魂は同じくらいの魂の力を持つ者に取りつく必要があった。そこで、ヘブルの魂は村の人々に提案した。全員死ぬか、魂の力が一番強い者を俺に差し出すか。村の人々は後者を選んだ。それは、ソルの弟ウル。ソルだけが村の意見に反抗し、ウルのために、ヘブルの魂を逆に取り込もうと考えた。村のご神木の葉、魂の葉の力で、自分の魂の力を一時的に強くして。しかし、結果ソルが体を乗っ取られることになってしまった。ソルはへブルに勝てなかった。ヘブルは約束を違えた村の人々に怒り、ソルの体で、村の人々全員の魂を抜き、取り込んだ。一度に大量の力を使い、魂を取り込んだヘブルは一度休む必要があり、ソルはショックで記憶を失い、森の中で倒れた。そして今に至る。






食べても食べてもお腹が空くのは、ヘブルの魂のせいで、魂が食べたいと感じるから。

そしてお腹が空いてきたことは、ヘブルがもうすぐ目覚めることを指している。


ソルは絶望に包まれていた。

何の気力も湧かない。

そして、そのままアルドたちのまえで、ヘブルが復活し、ソルの体は異形なものとなった。


戦闘1


ずっと無意識にヘブルの魂に取り込まれることにあらがっていたソルの魂が徐々にヘブルに取り込まれていく。

すると、ソルに声が聞こえた。弟の声。そして村の人々の声だ。

ヘブルの魂の中で、まだ完全には取り込まれておらず、皆あらがっていた。

村の皆と弟の残り少ないがこのときのために残していた力、そしてソル自身の魂の力を合わせれば、ヘブルの魂を消滅させられる。


戦闘2


アルドの戦闘で弱ったヘブルの魂を、ソルと皆の魂の力で消滅させた。ソルは弟と村の人々に別れを告げた。




ソルは料理を続け、店を開く。

何故なら、あの戦いの後に思い出したふとした記憶。

おいしいと言いながら、弟と笑いあって食事をする記憶があったから。

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