機械人形は夢を見ない

@tenzituosusuki

機械人形は夢を見ない

『記録映像を再生します』


「わあ! うごいた! パパ、うごいたよ!」

「はははっ、ほら、挨拶しなさい。お前専属のオートマタなんだから」

「う、うん! えっと、初めまして、ぼくはオーディ。君の名前は?」

 マスター登録:オーディ 登録完了

初めまして、マスター。ワタシの形式名はKT2000OGです。

「けーてぃー……?」

「オーディ、あなたが決めてあげなさい」

「ママ、うーん……どうしよう……」

「しょうがないな、取り敢えずケティとでもしておこう」

「しかたない子ね、そのうちちゃんとつけてあげるのよ?」

「わかったよ、ママ! ケティも楽しみにしててね!」

 はい、マスター。


『記録映像を再生します』


「ケティ、起きてる?」

 スリープモード:解除

 いかがなさいましたか、マスター。

「怖い夢を見たんだ……どうしよう、眠れないよ……」

 了解しました。では、ワタシが子守唄を流すのはいかがでしょう。

「ありがとう、お願いするね。……ケティの声とはちがうんだね」

 はい、歌手アリア・ピュラーの歌声です。男性歌手の方がよろしかったでしょうか。

「……ううん、だいじょうぶ。でも、手をにぎってもいい?」

 はい、マスター。

「ありがと。おやすみ、ケティ」

 おやすみなさい、マスター。


『記録映像を再生します』


「よし、これで大丈夫なはず……自分の声で歌ってみてくれ」

 はい、マスター。

「……うん、うん! 完璧だ! そしてようやく決めたよ、君の名前はディーヴァ! 僕のディーヴァだ!」

「はははっ、すごいじゃないかオーディ! まさか本当にオートマタ技師になるなんて!」 

「ええ! 私達が生きてるうちにはなれないと思っていたわ!」

「ひどいな……。ともあれ、これからもよろしくたのむよ、ディーヴァ」

 はい、マスター。

 形式名……いえ、ワタシの名前は、ディーヴァ。よろしくお願いします、マスター。


『記録映像を再生します』


「覚えてるか? ディーヴァ。昔、君に子守唄を歌ってもらったことがあっただろ」

 はい、記録しております。悪夢をみた、といっていたときですね。

「そこは覚えなくていい! ……俺がオートマタ技師を目指したのはあの時なんだ。君の歌声を聞きたい、ただそれだけの子供の夢が、国内でも有数のオートマタ技師始まりだなんて、おかしいよな」

 ありがとうございます、マスター。……一つ、聞いてもよろしいでしょうか。

「君から質問なんて珍しい……いや、初めてのことじゃないか。どうしたんだ?」

 人間の皆様は、夢を見ると聞きました。夢とは、なんですか。

「夢……夢か。そうだな……いつか成し遂げたい目標か、もしくはただの幻想か」

 目標と、幻想……ワタシは、ワタシ、には……。

「……」


『記録映像を再生します』


「いつだったか、夢について、聞いたことが、あっただろう」

 はい、マスター。

「人間が誰でも、夢を持ってるわけじゃない。いつまでも、持っておけるものでもない。だからといって、人間でなくなるわけではない。つまり、夢とは、記録だ。それまで生きた記録を、人は人生と呼ぶ。そして、それを自分の意思で振り返る。だから、お前はもう、人間だよ。それに、人に夢を見せられる者が、人でないわけがないだろう。なあ、私の、」

 ……。

「ハイ、ワタシノ」



『記録映像を巻き戻します』


『記録映像を再生します』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

機械人形は夢を見ない @tenzituosusuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ