冷たい彼氏と思っていたけど、めっちゃ私のことが好きだったみたい

ひとりごはん

第1話

「ああいうのどう思う?」

通り過ぎた腕を組んでいるカップルを見ながら藤白は訊いた。

「どうって、どうも思わないけど」

「自分もしてみたいなぁ、て憧れないの?」

「ちょっとあり得ないね。恥ずかしい」

「ほらぁ、バカにしてるじゃん」

「他人がしている分には別に。自分に置き換えると、人前でできる行為じゃないね」

「じゃあ私ともできないね……」

「あ、えと、佳奈ちゃんはしたいの?」

「いいえ、結構です」

本当のところは少し藤白には憧れがあるのだった。

高校から十分に離れたので、パーカーを被る。こうしないと落ち着かない。

「田上、私たち、付き合ってるんだよね?」

「そうだと思う」

田上は藤白をちらりと見て、背筋を伸ばしながら言う。

「佳奈ちゃんが望むなら……そう要請があれば、応えていく準備はできております」

「なんだぁ!」

「恥をかく練習と思って」

「おい」

「佳奈ちゃんは全く恥ずかしくないの?」

「そんなの気にならない。手を繋げるだけで、しあ」

幸せだもの、と続けようとした。藤白は顔が火を吹きそうだった。

田上にボディブローを連続で食らわせる。

「見るな!」

「見てない、霧で見えないって!」

真偽不明だったため、意識を刈り取るまで止めてやるものか!と藤白は手を止めなかった。


いつまでも霧が立ち込める町、荒岡。この町ではしばしば人が消える。

この町の行方不明者数は他の地域に比べて、圧倒的に高い数字が出ている。神隠し、なんて言葉もよく耳にする。

近くの山にある噴気孔から水蒸気が出ており、この谷沿いの町に霧が供給されているらしい。

雨も降っていないのにいつも湿っぽい。太陽をなかなか地面に通そうとしない。

幻想的な町だと言われることもあるが、いつまでも霞んで見通しの悪い光景に藤白はうんざりしていた。

この町のことを好きにはなれない。

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