真実の旅

@funyuusa

リナの想い


その日の午後は陽だまりが心地よく、思わずうたた寝をしてしまうような暖かさだった。エイミは最果ての島の波打ち際を歩いていた。足元まで波が寄せ、彼女のブーツの底を湿らせる。


エイミ「ここにいると今どの時代にいるのか分からなくなる。相変わらず不思議な場所だわ。」


海岸から離れようとした時、


アルド「おーい!エイミ!」


彼女を追いかけてきたのはアルドだった。


アルド「ここにいたのか。そろそろエルジオンに戻ろうかと思うんだけど、エイミは何かやり残したことがあるのか?」


エイミは我に返ったように首を横に振る。


エイミ「アルド、何でもないのよ。ここの景色が好きで少しぼーっとしていたの。」


アルド「そうか、良かった。確かにここの景色はきれいだよな。俺も好きだよ。」


アルドはそう言うと、エイミから視線を逸らし海の向こう側を見つめた。


アルド「この景色を見てると、時が止まったような、なんとも言えない穏やかな気持ちになるんだよな。」


エイミ「うん、分かる。このままずっと平和に時が流れていくのかなって。」


ドサッーーーーーーー


二人の後ろで砂の鈍い音がした。驚いて振り返るとまだ10歳にもならないような小さな女の子がひっくり返っている。


アルド「大丈夫か!?」


慌てて駆け寄るアルド。それを追うように駆け寄ったエイミは足元になにかキラリと光るものを見つけた。彼女はそれを拾う。


エイミ「大丈夫?」


女の子はぴょんっと立ち上がるとエイミの手から光り物を受け取った。


女の子「ありがとう、お姉ちゃん、お兄ちゃん。」


アルド「それは君のものなのか?ネックレスみたいに見えるけど。」


エイミ「確かにあなたのものにしては大きいし、なんだか禍々しいデザインよね。」


そのネックレスは黒光りする石が数珠つなぎになっており、中央に赤く光る水晶のような大きい石が印象的だった。


女の子「私のだよ!」


少女は食い気味に叫んだ。


女の子「これはお守りみたいなものなの。私のものじゃないけど、私のものなのー!」


アルドとエイミはどう言うことだ?と顔をしかめる。すると少女が走ってきた方からものすごい勢いで老婆が走ってきた。


「リナ!!」


老婆はまさに鬼の形相をして息を切らしている。リナというのがこの少女の名前のようだ。


「おばあちゃん、、、。」


「リナ!まさかおまえそれを他の人間に見せびらかしていたのかい!」


「ちがうよ!私はおばあちゃんがなかなか見せてくれないからー」


老婆はリナが言い終わるのも待たず、黒い石の首飾りを奪い取った。老婆は体をわなわなと震わせ、反り返すように大きく開いた手のひらを高く振り上げた。


アルド「おっおい!ちょっと待てって!」


アルドが老婆を止めに入ろうとした時、リナの前に1匹の黒猫が立ちはだかった。


「にゃーー!!!にゃーーーー!!!」


黒猫は毛を逆立てて老婆に対して威嚇している。その姿を見て、彼女は少し冷静さを取り戻したようだ。


「この子は、、、この前拾ってきた猫かい。ずいぶん懐いてるようだね。まさかおまえをやってるんじゃないのかい?」


「えさくらいあげてもいいじゃない!おばあちゃんが飼っちゃいけないっていったんだから。」


俯いていたリナが大きな声で言い返した。


「飼えないからこそ、無駄な優しさは残酷なんだよ。さぁ、家に帰るんだ。」


老婆はリナの腕を掴むと無理矢理引っ張って海岸沿いを遠ざかっていった。しばらく呆気に取られていたアルドとエイミだが、黒猫が走り去るのを見て顔を見合わせた。


アルド「あの子、心配だな。俺たちも追いかけよう」


2人は頷きあって、走って後を追った。



海岸から離れ、高くそびえる珊瑚を奥に奥に進むと、潮風で錆びた一軒家にたどり着いた。


エイミ「あそこにいるの、さっきの女の子と猫じゃない?こんなとこにおうちがあったのね。」


エイミはうずくまっている彼女の背中を見て、駆け寄った。


エイミ「えーっと、リナちゃん?さっきは大丈夫だった?」


リナはエイミを見上げたあと、猫の顎下を一度撫でてから立ち上がった。


リナ「さっきのお姉ちゃんたち、、、。びっくりさせちゃったね。ごめんなさい。」


リナは頭を下げた。


アルド「謝る必要はないさ。俺たちで良ければ相談に乗るよ。おばあちゃんと何かあったのかい?」


リナは家の方を一度振り返り、息を大きく吐いた。


リナ「おばあちゃんにはこの話、内緒にしておいてくれる?」


アルド「あぁ。約束するよ。」


リナ「わたし、小さい頃から体が弱くて、ママとパパはエルジオンで働いているんだけど、そこでの生活に慣れなくておばあちゃんがいる最果ての島に1年前から住んでるんだ。ここに来てから体調はとても良くなったんだけど、1ヶ月くらい前、あの首飾りを見つけてからおばあちゃんが私にすぐ怒るようになって。」


エイミ「首飾りって、さっきの黒い石がついてるやつ?」


リナ「そうだよ。ここに来てからおばあちゃんが毎日夜中にタンスの奥を確かめてることに気づいてたの。そんなに大切なものなら見てみたいと思ってしまって、1ヶ月前おばあちゃんが留守の時にその首飾りを見つけたの。」


リナはその夜を回想した。


ずっと気になっていたタンスの奥から出てきたのは、なんとも不思議で力強い魅力を放つ黒い首飾り。


リナ「うわぁ。すっごーい、、、」


首飾りをつけようとしていたその時、


「お前!!何をしているんだ!」


帰ってきた祖母はすごい剣幕でリナに迫り、ばちん!!と頬をぶった。


リナ「痛い!!ご、、ごめんなさい。おばあちゃんが大切そうにいつも見てたから、何か気になってて、、、」


老婆「大切だって!!??そんな忌々しいもの大切なわけがない!!お前も呪われたいのかい??それをよこしな!!でてけ!!夜まで帰ってくるんじゃないよ!!!」


リナはあまりの祖母の怖さに走って逃げ出したのだった。


リナ「それからおばあちゃん、いつも私のこと見張るようになって、、、。」


アルド「呪われるか、、、どういうことだろう。」


アルドは腕を組んで考え込んだ。


エイミ「呪いの首飾りってことかしら。確かに綺麗っていうよりか、怖いくらい美しいって感じだったよね。」


アルド「あぁ、リナが身につけるにしては男っぽい感じしたな。」


エイミ「え?アルドってメンズアクセサリーに興味ある感じ?意外だなぁ。」


エイミはにやにやしながらアルドにちらちら目線を送った。


アルド「ちがうって!俺はそういうの付けないけど、バルオキーの祭りで踊る男衆がああいうの付けてるからさ、魔除けとかの意味を込めて。」


リナ「お兄ちゃんたちはあの首飾り、そういうイメージなんだ。」


アルド「リナはちがうのか?」


彼女は少し首を傾げながら答える。


リナ「うーん、、、確かに言いたいことは分かるけど。私はなんかあったかい感じがするんだよね。だからどうしてももう一度触りたくて今日こっそり持ち出したんだけど。」


エイミ「おばあちゃんにバレちゃったのね。」


ようやく事の次第を飲み込んだ2人は新たな疑問に面した。


アルド「でもどうしておばあさんはリナにその首飾りを触らせないんだろう。よっぽど高価なものなのか、大切なものなのか。でも大切だったら呪いなんて言わないよな。」


エイミ「直接おばあちゃんに聞いてみない?」


エイミはウインクして意気揚々と提案する。


エイミ「リナも何も理由を知らされずにこのままじゃ納得できないだろうし。ちょっと呪いっていうのも気になるし。」


アルド「リナがいいなら俺はエイミに付き合うよ。」


リナは数秒間考えたが、すでに迷いはないように見える。


リナ「このままおばあちゃんとギクシャクするのは嫌だ。お兄ちゃんたちといっしょなら私言いたいこと言えると思う!」


アルド「よし!いっしょに話を聞きに行こう。」


アルドたちはリナの家に入る様子を黒猫はそっと見守ったあと、どこかへ歩いて行った。


リナ「おばあちゃん。さっきのことでお話があるの。」


リナの祖母は怪訝そうな顔でこちらを見たが、アルドとエイミの姿を見ると怯えたような表情を見せた。


祖母「なんだ、、、お前たち、こんなとこまで来て、何をしにきた!」


エイミ「落ち着いてください、おばあさん。私たちその首飾りのことが気になって、リナちゃんに連れてきてもらったんです。」


祖母「リナ、お前。赤の他人に首飾りのことを話したのか。あれは決して外に出してはいけない呪いの首飾りなのだぞ!」


リナ「ちがうもん!!」


リナは涙目で声を張り上げた。


リナ「おばあちゃんは勘違いしてる!あの首飾りは呪いなんかじゃない!初めて見た時からあったかくて優しい感じがしたんだから!」


祖母「リナ、、、何も知らずにお前は、、、。」


沈黙する二人を見てアルドは口を開いた。


アルド「なぁ、おばあさん。呪いのことリナに話してやってくれないか。ただ叱るばかりじゃこの子も分からないだろうし。それに俺たち世界中を旅してて、呪いとかそういう類のことには人より慣れてるんだ。何か役に立てるかもしれない。」


祖母はアルドをじっと見つめ、長いため息をついた。


祖母「待っていなさい。」


奥の部屋に入った祖母はしばらくして戻ってきた。その手にはあの首飾りが握られている。


祖母「聞き分けのない子たちだ。旅の者ならこんな話を聞いても、よくあることだと思うだろうさ。」


祖母はそう言って話を切り出した。


祖母「この首飾りは気が遠くなるほど昔から私たちの血筋に引き継がれてきたもの。私が知っているのはこの首飾りは我が先祖が魔物と契約した証拠であるということだけだ。」


エイミ「魔物?どういうこと?」


祖母「詳しいことは分からんよ。なんせ遠い遠い昔のことだからね。この首飾りと一緒に私の母から預かった言葉がこれさ。」


祖母はずいぶんと古びた黄土色の紙をアルドに差し出した。力強く握ると粉々になってしまいそうな紙には薄れた字でこう記されていた。


"我が子孫よ。この呪いの首飾りの守護者となって、何人たりともこれに触れることを許すな。さもなければ我が一族は後世にわたって迫害され、滅びるだろう。"


エイミ「迫害、、、?よく分からないけど、こっそり処分したりできないのかしら。」


祖母「私の母がその母から聞いたことじゃが、これは我が先祖が魔物と契約をし、過ちをおこした証拠、枷なのだ。代々背負っていく義務があり、その罪から逃れることは許されないと。」


エイミ「そんな、、、おばあさんとリナちゃんは何も悪いことしてないのに。おかしいよ!」


リナは何も言わずに俯いている。


祖母「分かったのならもう出て行っておくれ。これは我が一族に害しか及ぼさないものなんだ。リナもこれからこの呪いの首飾りを見張っていくのはお前なんだ。まだ話すのは早いと思っていたが、知ったからには軽率な行動は許さないよ。」


リナ「嘘!!嘘だよ!!」


リナは走って家を出て行ってしまった。


エイミ「待って!リナちゃん!」


アルド「おい二人とも!ばあさん、お邪魔して悪かった。話を聞かせてもらった分、リナのことは任せてくれ。」


アルドは手紙を祖母に返すと、リナの後を追って家を出た。


祖母「私だって、そんなはずないと思っていたさ。」


彼女は優しい目をして首飾りを握りしめ、部屋の奥に入って行った。


エイミ「リナ!待って!」


エイミは家を出てすぐにリナに追いつき、肩を掴んだ。


エイミ「話は残念だったけど、ちゃんと話してくれたおばあさんに向き合わないと。」


リナは肩を落として言った。


リナ「分かってる。分かってるけど、私どうしても納得できないの。あの首飾りが呪いっていわれるたびに、悔しくて悲しい、、、。」


エイミ「リナ、、、。」


アルドはリナの反対側の肩に優しく手を置いた。


アルド「俺はリナの直感を信じる。でもばあさんが嘘を言ってるようにも見えなかったよ。だから俺たちに任せて、真実を確かめさせてくれないか。」


リナ「え、、、お兄ちゃんたちが?」


エイミ「アルド。」


エイミの不安そうな目を見て、アルドは優しく笑い頷いた。


アルド「あぁ。俺たちは世界中に知り合いがいる。必ずあの首飾りが本当に呪いの首飾りなのかつきとめるよ。」


リナの顔はキラキラと輝き、期待の眼差しを向けた。


リナ「ありがとう!」


アルド「よし!後のことは俺たちに任せて、ばあさんに謝って仲直りしておいで。それがリナの役目だよ。」


リナ「わかった!お兄ちゃん!」


そう言ってリナは一目散に家へと走っていった。


エイミ「アルド、、、ほんとにお人好しね。真実を突き止めるってまさか。」


アルド「あぁ。」


彼はリナが走っていった後に目をやりながら言った。


アルド「俺の時代へ行こう。」


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