光の速さで

王生らてぃ

本文

 あの子はチケットがあたった。

 わたしははずれた。

 それだけの違いなのに、わたしたちはもう二度と会えなくなる。距離も、時間も隔たって、二度と……






「見送りに来てくれたんだ」



 みすぼらしい凛子は、みすぼらしいなりにめいっぱいのおめかしをしていた。スーツケースにはたくさんの洋服が詰め込まれて、服装は学生時代の制服だった。



「うちにある中で、これがいちばんきれいな服だったの。どうかな。痛くないかな」

「べつに……」



 凛子のほかにも、宇宙港にはたくさんの乗客と、その見送り客が来ていた。

 二十年に一度、無作為に選ばれる「宇宙開拓移民」。亜光速の移民船に乗って、太陽系のさまざまな星に向かう人々。毎回応募しているわたしは今回も外れて、なけなしのお金で記念にと応募した凛子は受かった。



「その……」



 凛子はおずおずと視線を逸らした。



「残念だったね。くじ、はずれて」

「は……?」

「ごめん、わたしは、代わってあげたかったの。ほんとうは。宇宙に行くつもりなんてなかったし……友だちも、あなたの他にはいないし……」



 わたしは気がついたら、凛子の頬を張っていた。冬の寒空の下で、手がじんと痛んだ。凛子は信じられないものを見るような顔でわたしを見ていた。わたしは泣き出しそうになるのを必死にこらえながら、



「あんたなんて大嫌い。タイタンでもパンドラでもどこでも行けばいいじゃない」







 これでいいのだ。帰りの道すがらでわたしはそう思った。

 亜光速ロケットのなかでは、地球上とは時間の流れが異なる。それに、ロケットは地球への帰還を考慮していない。もう二度と凛子には会えないのだ。身分も階級も越えて、仲良しだったあの頃のふたりは、もう思い出の中だけの存在だ。凛子にとっても、わたしにとっても、その方がきっと幸せだ。



 冬の星空は、昔は澄んできれいだったらしい。

 今はポリスの光にかき消されて、星なのか何なのかわからないくらい、空は眩しい。

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光の速さで 王生らてぃ @lathi_ikurumi

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