BAR〝シッキシヴェド〟
自粛ばかりですが自分の小説を呼んで少しでも喜んでくれる人がいれば幸いです。
感想などで好きなキャラ呟いてくれるのも励みになります。
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…
「───で。バルちゃんが教えてくれた通りに来たけど……ここで合っている…のか?」
二階建ての暗褐色をしたウッドハウスの頂点に真っ黒な天幕を被せたような、あたかも怪しげで普通ではない建造物。
ぼわりと入り口に着けられた赤紫色のランプはこれまた怪しげに光り、その奇妙な様子をさらに醸し出していた。
「うはー…どんより不気味だなぁ。怪しいお店かよ……ん、なんかデジャヴ感が?」
ぬ、この見覚えのある感じはまさしくデジャヴ。
バルちゃんのお店を始めて見た時もこんな事を言っていた気がする。
「昼間なのに……真っ黒…あれ?なんか同じ事をまた言ったような……?」
「ふにゅ……にゅ?」
肩車から降ろしたルギ君が、俺の鷲掴みから解放されたシラタマを頭に乗せながら自分達の放った言葉に疑問を浮かべた。
そのクエスチョンマークが浮かんでそうな顔可愛いぞ。
「えーと?【シッキシヴェド】……【アーモイ語】で〝悪魔の口付け〟…ね。悪魔…んー悪魔ね。そういえばバルちゃんの種族って何なんだろ?知ってるルギくん?」
すっかり聞くのを忘れていたけどバルちゃんの種族が分からないままだった。
白磁のように真っ白な肌に───〝妖しく輝く紫色の瞳〟以外は特に他の人達と変わりないように見えたけどなんなのだろか。
と思い、僅かな希望を頼りに俺より付き合いが長いであろうルギくんへと聞いてみる。
すると、んーと小さく唸った後の言葉はこうだった。
「確か【悪魔族】って言ってたような…でもあんまり知られたくないって」
「そか。ならあまり触れないようにしよう」
アルと言語を勉強していた時にも習ったが、【悪魔族】はこの世界ではあまり良く思われてはいない。
その理由はかつて【聖戦】と呼ばれた戦に現れ、人類の前に脅威として立ち塞がったからだ。
今現在では人類との共存を選び、友好的な者達もいるが、彼等を心良く思っていない人々もいるのも事実。
【人族】よりも強靭な身体、優れた能力、そして【亜人族】よりも遥かに長い生命力。
それらを経験している者達の溝はそう簡単に埋められはしないだろう。
バルちゃんが知られたくないのもそう言う事だろう。
一応彼等【悪魔族】にも【英雄】のような者達がいる───とアルから教わっている。
詳しくはあえて聞いていない。自分で調べるのも一興だ。
この国にも図書館みたいな所はあるだろうからその時にでも詳しく見てみよう。
「とりあえず入るべ。バルちゃんの名前出せば大丈夫って言ったしな」
「またご飯食べにいこー」
「ふにゅー」
脳内にばちこーんとウインクをするイケメンバルちゃんが浮かぶ。
はっ、いかん。お金の工面(くめん)と宿も取らないと野宿になってしまう。
ファウストさんのギルドにでも寄って何か売ろう、そうしよう。
「そんじゃ入店ー」
かちゃり、と心地よい外開きのドアの音が俺達の耳へと響いた。
…
ドアを開けて最初に漂ってくるのは───匂い。
甘ったるいようで、それ程強く無く、優しくは無い匂い。
落ち着くというより、これは酔いそうな…そんな匂いがした。
店内の様子は黒と白が見事に織りなすゴシック調というような洋風。
落ち着いた雰囲気が溢れ、その外とはガラリと違う様子はまるで違う世界のように錯覚してしまうようだ。
「いらっしゃいませ」
そんなキョロキョロしている俺達に左側、暗褐色のカウンター席でグラスを拭く男性が声を歓迎の声掛けた。
うお、イケメン───と、無地の白いワイシャツの上に黒いベスト、そして黒いネクタイをした少し長めの銀髪の男性を見てそう思った。
グラスを拭く、捲(まく)り上げたその腕は程よく鍛えられ、癖の無い長めの銀髪はきちんと後ろで束ねられており、その整えられた顔に浮かぶ柔和な笑顔がまた彼の印象を良くしている。
アレだ、どこぞの国の王子様がバーテンダー始めたらこんな感じかと。
そして彼の後ろに並ぶ、形やラベルが様々な瓶を見てここはその通りバーである事に気付いた。
酔いそうな匂いがしてるのはそれも関係しているのだろう。
「えーとバルちゃん───バルムさんからここなら能力(ちから)を見て貰えるって聞いて来たんですけどー……」
「おや、予想通りのようですよルーイン。貴女の方に久しぶりのお客様です」
なんだと、予想通りとな?
そのバーテンダーの声に俺達の右側……つまりカウンター席の反対側の方から女性が答えた。
「予想通りで嬉しいわ。それにバルムを〝ちゃん〟付けで呼ぶ人なんて久しぶりよ?」
うわどエロい格好の美女。なんだ此処は俺は来ては行けない場所に居るのではないか。
そんな事を思っていると美女がこちらへと近づいて来る。
雪のように白く透き通るような肩をがっつりと出したファー付きの黒い艶のあるドレス、がばりと空いた胸元と、そこへと伸びる艶やかで癖のないサラサラの黒髪は豊満な胸の白をも強調。
また、スリットのある所からもその芸術品のような足が伸び、妖艶な姿をさらに強めていた。
顔はどちらと言えば可愛いさが勝つ方だが、感情によってそれはガラリと変わるだろう。
「あ、あ……」
「あら?ごめんなさいね坊や。少しアナタには〝強すぎ〟たかしら……」
「おお、ルギくん大丈夫か。どうした震えてるぞ」
顔を僅かに高潮させながらルギくんが口をぽかんと開けている事に気付いて声を掛けるが、反応は返って来ない。
足下を見てみると小さく震えてもいる。
「これを飲みなさい。そう、落ち着いて……」
「……んぐ……ふはぁ……」
そのルギくんの様子にバーテンダーの人が何かを飲ませてくれた。
それを飲むとルギくんの様子が戻っていく。
まだ頬がほんのり赤いが大丈夫のようだ。
「ふにゅー?」
「ん、大丈夫だよシラタマ」
心配をしたのか、シラタマがルギくんのおでこをぺむぺむと叩いていた。
「すみませんね、彼女はサキュバスと黒魔術師なので〝チャーム〟が掛かってしまったようです」
来ました男性共歓喜のサキュバス。通りで少しくらくらする感じがある訳だ。
バルちゃんが───
───カナタちゃんなら性格的に〝乱暴しない〟と思うし大丈夫だと思うわよ───
と、言ってたのはそういう事か、性的思考だだ漏れのちんこ野郎共が〝チャーム〟にかかって欲望爆発したんだろうな。
お店の中にはこの二人しか居ないようだから行けるとでも思ったのか……呆れるな。
「貴方は大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫ですよ。少しくらくらはしましたけど」
ヒャッハー女だーっ!…なんて事はしない。
何故好きでもない女性にそんな事をしなければならないのか。
「……へぇ。それじゃあこっちにいらっしゃい。調べてあげるわ。タロン、飲み物をお願い、アルコール抜きでね」
「かしこまりました」
小さく声を溢した後に、彼女がゆっくりと先ほどまで自分がいたであろう水晶が中央に鎮座するテーブルの方へと向かった。
彼女の言葉にバーテンダー…タロンと呼ばれた男性が右腕を胸元へと折り、丁寧にお辞儀をする。
彼女の溢した一声が気にはなるがとりあえず今は置いておくとしよう。
さて、俺の能力は───なんなのだろか?
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カナタ
「クソイケメンとどエロい美女のいるってBARもはや亜空間だな。……一体何人の哀れな男共が〝ソッチの道〟に行ったのか……考えないようにしとこ」
ルギ
「…すぅ…ふぅ……よし!!おぶ、シラタマ大丈夫だってば」
シラタマ
「ふにゅう……」
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