それじゃあ、一旦…

「ルールはあるのか?怪我を負った場合はどうなるんだ?」




「勝敗は降参、または意識が無くなった場合に審判が判断する。相手の生死に関わる、または故意に重傷を負わせ、さらに攻撃をした場合は即失格…ってところぐらいのなんでもアリのルールだな」




 その鍛えられた両腕を組みながら俺の質問につらつらとルールを説明してくれるゼーベックの言葉をしっかりと噛み砕きながら頭へと入れる。


 なんでもアリっていう割にはしっかりと審判もいるのか。


 そりゃそうか、この国の隊長のラデンさんやギルドマスターのファウストさんみたいなしっかりした人が居る訳だしその点は大丈夫か。


 生死に関わる───って所があるって所は……まぁあれか、格闘技だし仕方ない。


 故意に───って所も命を掛けている訳では無いし、この世界にとってのスポーツみたいな娯楽の一つと考えてもいいだろう。


 さて怪我を負った場合は……?




「大会には国王よりすぐりの医療関係者も居るしそこん所は心配いらねぇ……その言葉が出るって事は……?」




 説明の途中で閉じた眼の片方を開け、チラリと俺の方をゼーベックが見る。


 良かった、それなら心配は───無いな。




「ああ、参加させて貰おうか」




「おお!!マジか!?」




 俺のその言葉に目をおっ広げながら、ゼーベックが歓喜の声を挙げる。


 待ち望んでいた言葉なのだろう、その眼には確かに喜びの色が伺(うかが)えた。




「自分の力がどんくらいなのか知りたいし、〝試してみたい事〟もあるしな。ま、腕試しって事で宜しく頼むよ」




 医療関係がしっかりしてるなら参加しても大丈夫だろう。


 色んな能力を持った様々な人が参加するのも丁度良い。戦闘の場数を熟(こな)す為にも参加しておいた方が良さそうだからな。


 俺には───戦闘の経験が足りなさすぎる。




「ありがとう!!───おっとそうだ。連絡先を教えておかねぇとな。【ベッセル】はあるかい?」




「ああ、あるよ。まだ起動はしてないけど」




 左腕に付けたアル特製時計型【ベッセル】をぐいと見せる。


 早く起動させて操作覚えないとな。




「オレの連絡先も入れとくよ。───おし、それじゃあまた後でな!アイツ等にも伝えてくるわ!」




 何やら右手をすぱぱっと【ベッセル】の上で動かし、良い笑顔をしながらゼーベックは仲間の元へと戻って行った。


 そんな簡単なの?連絡先入れんの。




「ほほう、これは見事な造形……最新式かの?拙僧の連絡先も入れておこう」




「お、ありがとうございます」




 毛艶の良い真っ黒なもふもふおててをぽふりと触るように【ベッセル】へと連絡先を入れながらソウコさんはそう言った。


 うお、もふもふと肉球のぽにぷにの感触が一瞬だけだけど俺の腕に。




「「アーツカッチア」までまだ猶予はあるからの。一度模擬戦でも今度しようぞ。もう一人の仲間も紹介したい」




「最近同じ修行仲間になった者じゃよー。何やらギルドで不運にも一悶着(ひともんちゃく)あったみたいでのー。お主と同じ異世界人かつ、同じ常識人で助かっておる」




「アイツなかなか、面白い技を使う。お前の実力も楽しみだ」




 ほう、同じ異世界人か。


 ようやくか……最初に会った異世界人が最悪だったからなぁ……アイツ等とも戦うかも知れない、強くならないと。




「そん時は是非よろしくお願いします。おっし!おら!シラタマ!ルギくん!そろそろ───」




 軽く柏手一つぱちんと打って彼等が居る方向を見ると……おーのーおーいえ……




「にゅにゅにゅにゅ…ッ」




「ああ〜…この肌触り、このもちふに感……なんなのこの生物は……ずっと触っていたいわ…」




「おお、伸びる。長く生きてきたがこのような肌触りの生物は初めてだな」




「おうライズ、見てみろよ、良い毛並みしてやがるぜコイツ。お前より良いぞ」




「言うな。そして熊のワシに毛並みを求めんな」




 紫と青のツートン髪の女性と、きりりとした顔の金髪エルフの女性にふんにょりもんにょりとされ、オリーブグリーンのボロ帽子と同じ色のスカーフをした斥候のような地味目の暗い格好をした男がケラケラとぽふぽふとし、それをライズと呼ばれた熊の獣人が腕組みをして答えた。


 もはや飯を食えない程に弄(もてあそ)ばれたシラタマは彼女等の怒涛のこねくり回しと言える寵愛にわたわたとしている。


 そしてルギくんはと言うと───




「その角気になる」




「願わくば」




「「触ってもよいか?」」




「ちょ…ッ。怖い怖い」




「無表情双子ショタに迫られる反応の良いルギくん……」




「ずいずいと来る勢いに圧倒されるその顔……」




「「たまりませんな!!」」




 角が気になる双子がルギくんに詰め寄り、その戸惑う反応を見てぶかぶかローブの鼬鼠(いたち)の獣人と、青肌銀髪の目隠れ女性が両手の拳を胸元でぐあしと握り、興奮気味にムッハーと鼻息荒くしている。


 あ、これはアカンやつ。シラタマの方は大丈夫だろうけどルギくんはアカン。


 特にあのショタコンから早急に引き離さねば。




「はい、しつれーしやーす。そろそろお店出るんですいませーん」




「ぷぎゅ」




「うわ」




 すたたっとシラタマを鷲掴み、そしてルギくんをひょいと肩車ポジションに乗せて回収。




「「あら〜」」




「「「「あー」」」」




「お、飼い主登場か。また顔見せろよ」




「今度はワシ等とも話そうや」




 名残り惜しそうにする女性二人とすこぶる悲しそうにする双子と女性二人が居たが前半はすまんと思うが後半は仕方ないと思う。許せ、ルギくんは助けねばあかんと思った。




「是非是非。バルちゃん、ランさんまた来るねー!今度はお金がっつり持ってくるわー!!皆さんもまた今度ー!!」




「〝あの子〟によろしくねー。いつでもいらっしゃい」




「お気をつけて〜」




 バルちゃんとランさんの言葉を皮切りに、お店のお客さん達が様々な反応と共に手を振ってくれた。


 中には涙ぐみながらハンカチを噛む人達も居たがそこは見なかった事にする。




「また後でな!」




 そう短く返してくれるのはゼーベック含む三人組も、ソウコさん達も手を振ってくれていた。




「またねー」




 きちんと手を振るルギくんの反応に女性数名がぶっ倒れていたが気にしない事にする。


 俺は何も見ていない、聞こえない。


 引いた入り口のドアに付いてる呼び鈴の綺麗な音しか聞こえない。


 「ルギくん…はぁはぁ……」とかいう言葉なんて全く聞こえないさ、はっはっは。


 シラタマ、鷲掴みに抵抗するように掌をぺろぺろするのやめて。出たら離してやるからやめて。






「あら……」




「どうしました」




 薄暗い、怪しげな雰囲気がする所で、ひとりの女性が艶やかな声と共にその目の前の水晶玉へと声が出た。


 それに反応するのはグラスを磨く一人の男。


 久しぶりに水晶玉を見てみるや否や言葉を漏らす事が気になった。




「ええ、なんだかお客さんが来るような気がして……どうやらもうすぐ来るらしいわ」




「おや、珍しいですね。マナーの無いお客をバルムに突き出してからここ最近はこちら以外ぱったりだったというのに」




 拭き終えたグラスを棚へと並べ、男はその作業をまた新たに取って続ける。


 長年の付き合いである彼女の予想は当たる。


 だからこそ〝その商売〟が出来るのだが。




「今度はちゃんとした〝理性〟がある人なら良いけどね」




「ははは、一般人にそれは酷な話しですよルーイン。何故なら貴女は───」




 その声同様、がばりと空いた露出の多い黒いドレスへと艶やかに伸びる真っ黒な髪を弄る彼女に、長い銀髪したバーテン姿の男性はこう続けた。




「〝サキュバス〟と〝黒魔術師〟のハーフなんですから」




「あら?〝狼王〟の力を組み伏せた貴方に言われたく無いわよタロン。また荒くれ者だったらよろしくね」




「ははは、これは一本取られたようで」




────────────

カナタ


「ちょっとまて。シラタマうぇいと。ぺろぺろすとっぷ!!こそばい!」




ルギ


「うぇいと?すとっぷってなんだ兄ちゃん。こそばいはなんとなく分かるけど」




シラタマ


「にゅれれれれれれれれれれ」

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