一件落ちゃ…それは怖い

人外ぼろぼろ出しますよ。


亜人ぼろぼろ出しますよ。


ありえないを書きますよ。


だって俺がそう書きたいんだもの。


そんな話が好きな人が楽しんでくれたら嬉しい。

────────────




「「すみませんでしたッ!!」」




 ごすん───良く磨かれた木目美しいフローリングに叩きつけられる二つの頭。



 両手を頭の両端に置いて突っ伏す二人……つまりは土下座をするのは先ほどの騒ぎの原因となるモノを作ってしまった三人組のうちの二人だ。


 俺以外の誰一人も怪我を負う事もなかったがルギくんの糸の処理や食器などの類(たぐ)いはバルちゃんの指示の下、店員、協力的なお客さんのお陰で元の綺麗なお店へと戻ったのでとりあえずは一安心。


 ルギくんを手伝ってくれた鼬鼠(いたち)の獣人と青肌銀髪の目隠れ女性ははぁはぁ興奮気味になにやら聞いていたようだが危険は無さそうなのでスルーしたのは御一興と言う事で。


 俺はむさ苦しい、酒臭い男共にやんややんやされてたので許せ。


 シラタマ?ひたすら飯食ってる姿が癒されたようで手の空いた他の女性陣(店員含む)達に餌付けされておった。


 そこ代われ。いや、俺も褒められてるから良いんだけどよ。そこ代われ。気持ち的に。




「いやぁ〜悪りぃ悪りぃ。つい調子乗っちまって」




「お前も頭下げるんだよ!」




「ふごがっ!!」




 両隣で頭を下げる二人を尻目にへらへらと右手で頭を掻きながら笑う赤髪の男───ゼーベックは右で頭を下げたままの長髪の男───ロスに後頭部を掴まれては床へと叩き付けられた。


 ごすんという衝撃音の後に続く、放り出された両手がべちっと床を叩く。




「全く。ほぉんとに勘弁してくれる?今回は初回だし許してあげるけど」




「「すみません!すみません!」」




「ふごっ!んがっ!」




 むふーっとため息を吐きながら腕組みをするバルちゃんが土下座をする三人を見下ろした。


 バルちゃんの寛大なお心にぺこぺこと頭を下げるロスとバンダナほんわかの男───ダグ。


 そしてそれに合わせてロスの右腕も上げ下げされ、餅つきのようにゼーベックの顔面がひどい音色を奏でた。


 ああ、床が汚れるからその辺にしといてあげて。止めないけど。




「まぁ、ウチの子達に何かあったら常連達が容赦しないと思うけどね」




 ちらりと後ろに居る常連客の方にバルちゃんが目配せすると反応が湧く。




「おう、店長任しとけ。ベアナックルかましてやるよ」




「こっちは毎回美味い飯食わせてもらってんだ。麻痺やら毒やら使ってでも逃がさねぇぜ。ま、今回は使わなくて良かったがな」




 ごきりごきりと手を鳴らす熊の獣人とナイフをクルクルと回す斥候のような男性。


 月の輪熊の獣人なのかな?がっしりとした上半身にかけられたオリーブ色のオーバーオールには見事な月の模様が見える。


 ナイフ回しうっま。ペン回しかよ。俺ペン回しも出来ないわ。




「今回はお役ごめんだったが守りは任せなぁ。酔っ払っててもこの盾は手足のように動かせるからよぉ」




「ワシ等は酒入っとる時が多いからなぁ…?コキっとやっちまうかもしれんなぁ…?」




「「ぶははははははッ!」」




 厳つい盾を器用に人差し指の上でくるくると回す、黒髪短髪で顔の薄ら赤い男性と、同じく顔の薄ら赤い、縮れた長めの髪に、立派に蓄えた髪と同じこげ茶色の髭を終わりを三つ編みで纏めたドワーフ。


 黒髪単発の男の背中をすっぽりと多い隠す程のカイトシールドだが全くふらつく事なく指の上で回るその様はまさに手足といっても過言ではなさそうだ。


 ジョッキの酒を煽るドワーフの腕は極太で、筋肉のカットまでしっかり見える程の筋密度の力でぶん殴られたらひとたまりもないだろう。


 というかまだ呑むのか、さすがドワーフ…いやまて盾の人あんたもかい。うぇーいって乾杯する酒何杯目だよあんたら。




「セイス、デザートタイムを邪魔する者は?」




「万死に値する……!───が、今回は店長も言っているし目を瞑ろう」




 ギラギラと悪い笑みを浮かべる紫と青のツートンカラーをしたウェーブの髪の女性が腰に両手を当てる。


 ぴたりと身体のラインが分かるような深い藍色の縦セーターにはとても魅力的な二つのお山、ワインレッドの色合いのプリーツスカートに黒のタイツは彼女の曲線美が更に映えていた。


 それに対して腕組みをする目をクワッと見開き、金色のストレートの髪を腰まで垂らしたエルフの女性はそう自己完結すると静かにその瞼を降ろした。


 低めの、ハスキー掛かった声に皮のジャケットには僅かな膨らみ、黒の装飾の少ないシンプルなパンツには黄金比とでもいうかのような均整のとれた曲線美があった。


 あの?その声で後ろから店員さんがおかわりのタワーパフェ来てますけど?お二人さん?


───まてまてさっきの剣幕はどうした二人そろって「おいふぃー♪」じゃねぇよ食いつくのはえぇなおい、可愛いかよ。




「何事なくて良かった」




「然り、我等も今回は許してもよいと思う」




「「次は無い。我等もそう思う」」




 本を小脇に抱えながらダボダボのゆるーい白い服を着た双子がびしぃと声を重ねながら胸を張った。


 本人達としては威厳たっぷりに言ってるようだがそのぴょいんぴょいんとアホ毛飛び交う茶色い癖っ毛とゆるーい見た目。


 そして「むふー」と鼻息をだしている事が非常に癒される。


 なんだこの双子、見た目と口調がとても合わん。学者見習いとかなのか?ダボダボ上着に緑の短パンて。一部の人等には需要がありそ───いや、もうあったわ、〝最初に見たわ〟そういう事か。




「というか店長、大丈夫と確信していた気がするが?」




「うむ。まぁ店長の【能力】なら万が一も起きる筈もありませぬがな」




 スクエアノンフレームの眼鏡をくいと掛け直すスーツを着た金髪ショートぱっつんのエルフの男性と、同じくスーツ姿に見事な角を生やしたカモシカの獣人がしぶーい声で顎をさする。


 ジェントルマンですか?スーツもこの世界にあるのか……まぁ俺がこんな服着てても全然へんな目で見られなかったしもうなんでもアリか。




「なんじゃいつまらんのー。火炙りにでもせんのかー」




「やめい。狐火を出すでない。お主も馬鹿な事───」




「あいつ強そうだな。戦ってくれっかな?」




「やめんか馬鹿もん」




 物騒な事を考える狐の獣人とそれを止める狸の獣人。


 そして俺の事を見る猿の獣人。


 三人同じ様な法衣……つまりはお坊さんのような服を着ていた。


 狐の獣人は女性のようでその法衣には見事に実ったたわわな果実が指からぽっと出す青い炎の動作によってたゆんたゆんしており、俺はそっと顔を背ける事にした。


 狸と猿の獣人は男という事以外はその服装のせいもあってあまり体格が分からない。


 懐かしい服だ。そういや〝アイツ〟元気してるかな?───でさ、標的俺なん?あいつらそっちのけ?




「まぁ、本当にウチの子達にオイタするようだったら女性に興味向かないように〝そっち〟の友人達に頼むからよろしくね♪」




「「「本当にすいませんでしたッ!!!!」」」




 ばちこーんとウインク一つに重なる音が三つ。


 バルちゃんの言葉にとても綺麗な土下座が三つ並びましたとさ。


 うん───それは俺でも怖い。良かったね三人とも無事に帰れるよ。




「はいッ。この件は終わり終わり!さぁーみんな手伝ってくれてありがとう!お詫びにデザートをみんなに用意するわ!」




「「「「イェーーーーイ!!」」」」




 ぱちん、と柏手一つしてそう場の雰囲気を切り替えるバルちゃんの言葉に客のみんなが歓喜の声をあげた。


 女性陣は言わずもがな、なんと男性陣や酒を飲んでるドワーフすらも喜んでいる事に驚いた。


 余程美味いらしい。




「あんた達も。いつまでもそこで突っ伏してないでデザート食っていきなさい。ウチの店出るなら笑顔になってくれないとアタシのプライドが許さないわ。知りたい事なら今のうたに常連に聞いときなさい!」




「バルちゃんかっくいぃ」




「やだカナタちゃんありがと♪」




 さすがバルちゃん。人間が出来てる。


 さーて俺もデザートデザート。待て───シラタマ…キサマ俺とルギくんの飯を全部食ったな?げふぅじゃないこの食いしん坊め。


 あぁ、後でバルちゃんに宿屋も教えて貰わねば。




────────────

カナタ


「まだ腹半分なのにおにょれシラタマ。ルギくんほっぺた引っ張ってヨシ」




ルギ


「シラタマ〜、オ〜レ〜の〜ぶ〜ん」




シラタマ


「ふにゅぅうう〜〜〜ぅ!?!?」

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