アルの正体
お ま た せ 。
────────────
…
「アルが【英雄】の一人ぃ!?」
「なんだ知らんかったのか?あんなに立派な銅像も立てているというのに」
凛々しく太い眉毛をキョトンとさせ、国王ことハウィさんが長い鼻を下げた。
対照的に俺の口はその衝撃の事実にがばーとマヌケな口を開くばかりである。
待て、待て待て待て待て!
そう言えばここに来る間になーんか見た事あるような〝白衣姿の銅像〟あるなぁと思ったけど……えぇ!?
いや、確かにとんでもねぇ実力してんなぁとは思ったけど……えぇ!?
「兄ちゃん…流石にあんなに立派な銅像もあるのにそれは無いんじゃ……」
呆れ口調でルギくんがへはぁ、と小さくため息を吐く。
おにょれ、小生意気な。
無言でヘッドロック、そしてぐりぐりしてやる。こやつめこやつめ。
「んぁああ」と小さな悲鳴出してるが知らぬ。
こやつめこやつめ。あ、ラデンさんが俺の様子に腹抱えて笑ってる。ちくせう。
「…っくく。アル先生はこの国の研究者で教授でもあったんだ」
「アイツは教え方は上手いがその常人なら発狂する程のスパルタでな。誰もがそれに耐えられずに寝込む鬼教師でもあったんだ。ウチのギルド員も何人病院送りにされたか分かりゃしねぇ」
目尻の涙を拭くラデンさんの言葉に続いてファウストさんがため息と共に付け加えた。
だから〝先生〟と呼ばれてるし白衣を着ているのね。
そんで…うん。知ってる。アレは鬼よ、悪魔よ、マッドサイエンティストよ。
「だから私も驚いたぞ。まさかあの〝石鏃(せきぞく)の奇人〟アルメスが弟子を取ったとはな!ぷぁっはっはっはっは!!」
意味深な二つ名を挙げてハウィさんが豪快に笑い飛ばした。
まぁ…確かに〝奇人〟だわな。こんな俺に興味持った挙句にとんでも素材の料理ぽいぽい出すしこの毛玉の面倒観てた訳だし……〝石鏃〟ってなんぞや?
「あの、〝石鏃〟ってなんですか?」
小さく手を挙げてハウィさんに聞いてみる。
ルギくんがぐりぐりから開放されて「あーぅ…」とか言ってるけど気にしない。
「ん?ああ、確か〝石の矢じり〟と意味だったか。〝矢じり〟とはその名の通り、矢を射す為の物だ。また、〝矢〟は〝道を切り開く架け橋〟でもある。その『能力(ちから)』はお前も教わったであろう?」
「いえいえ、俺はそんな大それた物は教わって無いですよ?魔力の使い方と拷問のような、いや寧ろ拷問の人体実験受けたぐらいで……」
うん、思い出してもあれは拷問だ。アイアンメイデンに突っ込まれたし。
あと何かあったか?ううん、分からない。
『拷問か?』
『拷問でしたね』
《何をされたのだ?》
《拷問器具(アイアンメイデン)に突っ込まれました……》
いやぁ、あれはひでぇよなぁ…この身体が成長を遂げてくれなきゃお陀仏だったからなぁ……
「に、兄ちゃん……途中……〝なんて言ってた〟の?」
俺とハウィさんの会話にルギくんが固まっていた。
ああ、そういやこの言葉はルギくんには───あっ!?
「そう、それだ。【全ての言語】が話せるのはアルを含め、お前と二人しか居ないのだ。それが『能力』で無くてなんという」
「国王、【アーモイ語】も話せたんだな」
「なぁに少しだけだ。この国のギルドを預かるお前程達者じゃないがな」
ファウストさんの言葉にぷはは、とハウィさんが小さく笑う。
そうか───自然に返してしまっていたけど〝普通はあり得ない〟んだこれは。
頭の焼けつくような膨大な量の言語の取得。
希少な素材を使ったドーピングマシマシの勉強法。
巧みな教え方とそれに耐え得る強靭な精神と身体。
改めて俺はアルに〝唯一無二〟の能力を教わっていたのだと。
武器にも、架け橋にもなる能力を教わっていたのだと。
「ルギくんと言ったな?彼に付けている言語を翻訳してくれる魔道具はとても希少でな。我が国にも数が限られている。あー、それは返さなくても良い。ラデンから話しは聞いているしこの先必要だろうからな」
希少と聞いてはっとしたルギくんがいそいそと右耳のイヤリング型魔道具を外そうとしていたがハウィさんが手で制した。
良い子や……ほんと良い子や……
「他に聞きたい事はあるか?」
「あー……そうですね。王様は【創造者】に至ったとかを聞きましたが……」
医療グループの女性の一人から聞いたこの言葉。
あの時は衛兵さんに遮られてしまったが本人に聞いた方が詳しく知れるだろう。
「ああ、それは能力の段階(クラス)だな。かいつまんで説明をすると───」
・能力を研ぎ澄ませたある一定の者達は【創造者】などと呼ばれる段階に至る。
・能力の系統によっては道の険しさは違う。稀(まれ)にだが気付かずにその段階に至っている者もいる。
・【創造者】【支配者】【破壊者】等、種類は人によって様々。
と、ざっくり簡単に教えてもらった。
やだ【破壊者】とかカッコいい。
「段階に至ってる簡単な見分け方は能力の〝範囲〟だ。私で言うならこの国〝全て〟が私の能力の思うままに形造られる」
「全てぇ!?」
「うむ。相変わらず良い反応をしてくれるなカナタ殿は!ぷぁっはっはっはっは!!」
俺の反応に豪快に笑いで返すハウィさん。
いやいやいやいや待て待て待て待て。
この馬鹿でけぇ〝国〟の〝全て〟が王様の射程範囲だってのか!?
「ちなみに───」
───ズ……とハウィさんが見上げた虚空に右手を翳(かざ)すなり、擦り合うような重い音が上空から聞こえて来る。
「て、天井が…!」
「ふにゅー」
音の正体に気付いたルギくんとシラタマが上を見上げて声を漏らす。
天井にぽっかりと空いた丸い風穴。
ああ、なるほど。
そんな感想に合わせて、見上げた俺の顔に温かな〝陽の光〟が降り注いだ。
「───私の能力は【石属性】、能力の種類では下位に位置している【付与系】だ。夢があるであろう?」
「【身体系】、【無属性】でも行けますかね?その段階へは」
「行けるとも。諦めなければ必ずな。この世界は夢が叶う世界だ」
「ありがとうございます」
にこりと笑う王様のその言葉に、頭が自然に下がった。
身体に降り注ぐ太陽光がとても暖かく感じたのは恐らく気のせいだろう。
「さて、顔を上げてくれ。そろそろお昼時だ。腹も減っているだろうしここまでとしておこう。すまんな」
「いえいえ、ありがとうございました」
ハウィさんの言葉に顔をあげる。
シラタマの「にゅやっ!」と言う鳴き声が聞こえる通り、俺の腹も空っぽだった。
「暫(しばら)くこの国に留(とど)まるのだろう?」
「はい、そうさせて貰います。お祭りのようですし」
「うむ。ゆっくりと楽しんでいってくれ」
「あっ!そういえばコレってなんですか?」
ふと、思い出した物をポーチから〝アレ〟を取り出してハウィさんに見せる。
「む?それは……ぷははは、小型の【ベッセル】ではないか。なるほど、それなら身分の証明にもなる。奴め、余程お主を気に入ってるらしいぞ」
その言葉にまた目ん玉がおっ広げ。
でええ!欲しかったやつぅ!
「そういうデザインをした物はアルしか作れん。それは着けて居ると良い。どれ、少し見せてくれ……これを…こうして…と、よし。私に連絡出来るようにしておいた。何かあったら連絡してくると良い」
「ありがとうございます。ええと使い方は…」
ささっとハウィさんが設定した腕時計みたいな【ベッセル】を受け取って思わず呟く。
普通の腕時計とは違って秒針も数字も無く、数字の代わりあるのは12個の宝珠と右側のダイヤルのみ。
流石に説明書も無いと扱いに困ってしまう。
「なぁに魔力を通せば説明が出てくる。心配するな」
に、と笑うハウィさんの言葉に胸を撫で下ろした。
良かったー、流石アル。安心設計ありがとー。
「それじゃあ俺等はコイツ等を飯屋に連れてく」
「〝あの店〟か?ファウスト」
「この国で一番うめぇのは事実だからな。ちょいと〝初見にゃあきちぃかも〟知れんが大丈夫だろ」
え、何その不穏な言葉。やめて?
「ぷぁっはっはっは、奥さんによろしくな?」
「やかましい。おら、いくぞお前等」
「王様その話し詳しく」
奥さんがいるだとちょいと王様詳しく細かく教えてくだせぇ。
「あーあー行くぞラデン。着いて来なかったら置いてけ」
「あははは」
面倒くさそうにファウストさんがラデンさんに促す。
ずいと身を乗り出してハウィさんに聞こうとしている俺は、くいくいと後ろの服を引っ張られていた。
「行こう兄ちゃん」
「ルギくんに頼まれては仕方ない」
「にゅ〜〜〜〜〜」
「ぷぁっはっはっはっは!またな」
ルギくんの頼みとあっちゃあ仕方ない。
流石に諦めよう。これこれ、シラタマ俺のアホ毛さんと引っ張るな。
…
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カナタ
「一体…どんな方なのだろうか……同じく獣人?それとも…ぬぅ……」
ルギ
「行くよー兄ちゃん」
シラタマ
「にゅ〜〜〜〜〜」
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