でかい
…
「でかい」
そびえ立つ、灰色のレンガによって連なる2本の巨塔。
守護されるように目の前にあるのは見事なダークブラウンの木で作り出された大きな両開きの扉だった。
国の壁のような外を確認する穴は無い。
何か別の手段があるのだろうか?
「太くて硬そうだなコレ」
「ルギくん、俺の言葉に続いてのそいつは危険(あうとわーど)だ」
「へ?」
「にゅ?」
「いや、気にするな。世の中には知らなくて良い事もある」
俺の言葉にほけっとする無垢な少年と一匹。
汚れてはいけないぞ君達。どうか純粋なままでいるのだよ。
「お疲れ様ですギルドマスター!!」
「お疲れ様です隊長!!」
「ああ、ご苦労様」
「開門を頼む」
そんな俺等の行動はいざ知らず、顔だけを出した銀色の鎧姿をした牛と馬の獣人にラデンさんとファウストさんが返事を返す。
見事な体格、そして敬礼。
なるほど、この城を守る衛兵なのだと肯(うなず)ける統率が見て取れた。
「開門!!」
馬の衛兵さんの一言に、ゆっくりと、静かにがばりと扉が外開きに中を見せていく。
これもまた滑らかな開き方。国の門の技術もこちらに流用されているらしい。
「ご苦労。それじゃあ引き続き見張りを頼む」
「「了解しました」」
「おお……」
そのギルドマスターと衛兵のやり取りに、思わずカッコいいと思ってしまったのは仕方ないだろう。
それ程見事な敬礼だったから。
「じゃあ中へ行こうか。中は広いから逸(はぐ)れないようにね」
「うぃっす。行こかルギくん」
「ん。行こ兄ちゃん」
少し感動している俺にラデンさんが声をかけた。
軽く返事をして俺もルギ君に声を掛けると、同じく軽い返事が返って来た。
外見のまんま広いんだろうな、逸(はぐ)れないようにせねば。
俺方向音痴だし、迷ったら恥ずかしいし、困るし、申し訳無い。
いざ、城内へーぃ。
…
城内を彩る王城らしく豪華な、それでいて象徴し過ぎない様々な装飾や家具に感動しながら、俺等はまた目ん玉をおっ広げる事になった。
「ぷぁっはっはっはっは!!良くぞ参られた!」
口の両脇から反り返った見事な牙が、ダイナミックな笑いと共に上下する。
それに加えて映えるのは長ーい〝鼻〟と大きな〝耳〟。
王様は象の獣人だった。
薄灰色の彫刻のように鍛えあげられた筋肉質の肌に、肩がけの群青色のマントに光る豪華に彩られた牙を交差させ、鼻を円に見立てたシンボルが輝いている。
下半身は蜂の巣のような優しいクリーム色のカーゴパンツとモカ色のハイカットブーツが、どかりと座った白く、気品ある王座にとても良く映(は)えていた。
ここまでは分かる。「なるほどー、王様は象の獣人なのかー」で納得出来る。
驚いたのはその───
「で、で、デカい───!?」
半端なくデカいガタイだった。
この世界に来て大体190ほど体格になったがそんなもんとはケタが違う。
ざっと見て3メートルは軽くある、それも〝座ったまま〟の状態でた。
立場軽く5メートルは超えるだろう。
なるほど、〝今までの扉のデカさ〟はそういう事か。
「ぷははは!すまんな、程良く身体が育ってしまってな!許せ!我が国へようこそ!私の名はハウィ・ロクソドンタと言う。改めて其方等(そなたら)の名を聞かせてくれんか?あぁ、あぁ、跪(ひざまず)いたりする必要は無いぞ、楽にしていい」
両手を広げ、俺たちに歓迎の意を示してくれる国王〝ハウィ〟さん。
失言かと思い気やこの王様はとても器の広い方のようらしい。
「ええと、異世界人のカナタです。アルに進められて王都に来ました」
あがり症の俺良く言い切った。いんや心臓ばくばくだけどさ。
「え、え、え、えと、あの、鬼人族のルギです!じ、じいちゃんからの言いつけでカナタ兄ちゃんに同行してます!!」
びしぃ!と気を付けをしながらがっちがちのルギくんの健気さよ。
良く言い切ったぞ。俺とは大違いだ。あ、いけね、コイツも紹介しとかな。
「あ、この毛玉の魔物は俺のペット兼相棒のシラタマです」
「ふにゅー」
石像のように固まってるルギくんの頭から毛玉を取り上げると「よろしゅー」と言わんばかりにシラタマがおててをはためかせた。
こやつ、見た目と同じく心臓にも毛が生えてるのではないか?いやまてそもそも心臓どこじゃいお前。
「ぷははは!中々面白いパーティではないか!…さて?ここまで来るのに何か質問があるのではないか?存分に申してみるが良い」
おお、こりゃあ丁度良い。それじゃあ早速───
「アルって何者ですか?」
───まぁ、この質問に尽きるわけで……シラタマをこのまま俺の頭の上に乗せて、と……返答は如何(いか)に。
「何?あいつは───」
そのハウィさんの言葉に俺はまた目ん玉をおっ広げる事になった。
…
「お嬢さん、食事を頼めるかい?肉を多めで頼む」
「はい、大丈夫ですよ。今はまだ混んで無いのですぐに出来ますよ。お酒はお持ちしましょうか?」
「それは有難い。なら強めのを一つ頼もう」
「強めですね。畏まりました。直ぐにお持ちしますね」
リザードマンの従業員に客であろう、黒いトレンチコートを羽織った白髪の老人が口を交わす。
人の賑わいも少ない時間帯の店の会話。
一つ違うとしたら……その老人には角が生えていると言う事だろうか。
しかしこの店は外見など関係無く受け入れる。
それはこの店の掲げる信条だからだ。
「さて、ふらりと来てみたが……何やら楽しそうなイベントが起きそうだ。少ない時間だが偶(たま)には良いだろう」
くつくつと老人は手を合わせて静かに笑った。
その笑いは今にくる料理の味か、それとも今に起こるであろうイベントへの期待か。
答えは老人しか知らない。
…
────────────
カナタ
「すごく、大きいです」
シラタマ
「にゃ?」
ルギ
「知ってるよ兄ちゃん」
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