第2章 王都〜ミーション〜
ギルドマスター登場
新章突入!ほれ!みんな大好きギルドマスターだよ!
────────────
…
「はぁー…」
「ふにゅー…」
「ふぁー…」
がばりと口を開いて行くとんでもなく巨大な〝黒岩(こくがん)の門〟。
馬車の中、口をぽけーっと開けながら、その門に釘付けになっている俺達から出た言葉は感嘆の声だった。
ちなみにシラタマはもふもふを堪能した医療グループからやっとこ解放されて定位置(あたまのうえ)へ。
凄く医療グループの人が血色が良いのは気にしない。
「そうか。貴方達は王都は初めてなのね。驚いたでしょう?国王が〝作り出した〟岩の門は」
そんな俺達にギルドの医療グループの一人である女性の一人がはにかみながら声をかけてくる。
白い清潔そうなロングローブから覗くサラサラの少し眺めの金髪と健康そうで綺麗な指先はまさに医療グループといった感じがした。
彼女だけでは無く医療グループは基本的に白いロングローブを身に付けている。
男性も居るが荒々しい印象のヴィレット(人化)などとは違い、ぬいぐるみとデザートが似合いそうな優しげで細い体格である。
おかしい、俺もぬいぐるみもデザートも好きなんだがなんだこの差は。いや、別にいいんだが。
「いやぁ…すげぇっすね。こんなデカい門はそうとこのデカい岩自体が初め───え?〝作り出した〟?」
「そうよ。【地属性】、【付与系】の力を持った国王がこの外壁や門を作り出したのよ」
「はーっ…すっげぇなぁ……」
女性の説明にまたもや感嘆の声を上げながら突き進む馬車にゆらゆらと身体が揺れる。
そう、門のデカさも去る事ながら、それを支える外壁もとてつもなく巨大だった。
所々に一定の間隔で丸穴が空いていた独特の外壁だがまぁ、一種の飾り付けだろう。
こんなにも巨大なのにこの門の開閉は至ってスムーズで滑らかだった。
まるで油でも引いてあるかのように。
「まぁ、国王は〝【創造者】〟に至った数少ない人だからね。〝普通の人〟はこんな事出来ないわよ」
「【創造者】?至ったってのはどういう───」
「失礼、この馬車に【異世界人】が居ると聞いたんだが居られるかな?」
「アッハイ、俺です」
聞こうとしたその刹那、衛兵さんであろう武装した男性に話しをぶった斬られた。
そんで条件反射のように返事をした俺よ。
衛兵さんはラデンさんとあったあの門兵の…誰だっけ…まぁあのおっさんよりもしっかりした武装と鎧を着ていた。
ぶっちゃけラデンさん寄りの武装、というかラデンさんが王都の隊長だからそら似てるわな。
かしゃりと顔部分の鎧を上げたその顔は、整えられた口髭と顎髭が醸し出すダンディズムも去る事ながら、「すまんね」と言うような柔和(にゅうわ)な印象も伺える。
あれだ、日曜大工をサラッとこなして子どもとも一緒に遊ぶようなおじさんだ。俺の勝手な印象。
「長身で筋肉質、そして毛玉のような魔物を手懐けていて……ううむ、ここまでは合ってるんだが……何か証明になるような物はありますかな?」
「しょ、証明…?」
衛兵のおじさんから聞かれたその言葉に冷や汗が浮かぶ。
まてまて、俺にそんなもんがあったっけか?
一応連絡はいってるみたいだけど…証明証明……あ。
『困った時に見てみるといいよ。大丈夫、きっと役に立つ物だから』
ふと、アルから手渡されたポーチを思い出す。
灰色の白の迷彩がされた小さなポーチ。
確か『証拠は必要だからね』とも言ってた気がする。
どれどれ、見てみよう。
「ええと…ん、コレか?」
ポーチから出てきたのは時計にそっくりな物。
黒い金属のようなボディにダイヤルがあるまではまさに頑丈な時計だ。
違うのは盤面(ばんめん)に秒針や、文字などは無く、半透明に覗かせる小さな歯車達が見えるだけ。
本来なら数字などがある12箇所には真っ黒な宝珠が飾られているだけだった。
「ええとコレで大丈夫ですか?」
困惑しながらもそれを衛兵のおじさんに見せる。
果たしてコレで大丈夫なのだろうか。
ダメです、とか言われたら牢屋(ろうや)行きとかヤダよ俺。
「───!これは!」
見せたその腕時計モドキに衛兵のおじさんが驚愕の顔を浮かべた。
ダメ?ダメです?どうなんですかおじさん。
「……ええ、大丈夫ですよ。ようこそ、亜人混成国【ミーション】へ。さぁ、ギルドマスターがお待ちです」
大丈夫だった。良かった。牢屋行きは免れたようで何よりでございます。
…
ギルドの人達、医療グループの人達はそのままギルドに報告しに行くようで一旦門の前で別れる事になった。
名残り惜しそうにしていたのはシラタマのもちふわの性であろう。
なんて恐ろしい子。
「ああ、こっちこっち。ようこそカナタ」
手を振って俺達を呼ぶのはラデンさん───と?頭の上にサングラスかけたネズミがいるのだが?
「ああどうもラデンさん。衛兵の人からギルドマスターが待ってると聞いたんですが」
ラデンさんの頭上はスルーする事にして……辺りを見渡してもそれらしき人は見当たらない。
まだ来て居ないのかな?
「おう、お前が〝例の異世界人〟か。〝俺がギルドマスター〟のファウストだ」
でぇえええ!!マジで!?つーか声ひっく!しっぶ!!なんちゅう低音してんだこのネズミギルドマスター!?
きらりと太陽光を反射させるフォックス型のサングラスがその渋さをさらに強調させていた。
僅かに金の装飾が施された群青色の上着を一枚だけ羽織り、腕組みをして仁王立ちするその姿はまさに威風堂々。
姐御のギャップ以来のとんでもショックに思わず口がぱくぱくと声に出ない声を漏らす。
いや、この反応はきっと俺だけじゃないはずだ。
「んん?なんだ。【異世界人】に漏れずみんなその反応だな。そんなに変か?俺の声は」
「いえ、ギルドマスター。低音響く良い声ですよ。僕もそのギャップに最初驚きましたから」
あ、良かった。俺だけじゃなくラデンさんもか。
ルギくんも目を白黒させながらその小さな口を開けて「はぁああ…」と震えてた。
だよな。だよな?そうだよな?良かった、正常だった。
「そうか。まぁ良い。───なるほど、確かにアルの奴が気にかける訳だ。〝身体とは反対〟だな」
俺の方を見ながらギルドマスターこと、ファウストさんが呟く。
ぬ?アルのお知り合いでもあるのか。
ほんとに何もんだよアイツ。
「ええと、ラデンさんは何となく分かるんですがギルドマスターのような上役が何故ここに?」
「ああ、〝警護〟だよ。お前のような〝人畜無害なお人好し〟が厄介毎(かつあげ)にでも会わないようにな」
ぐさっ。その通り過ぎて鋭いダメージが心に!
いやまぁ、否定しようも無い事実なんですがね?
「───ほら、言った側から来やがったぞ」
ギルドマスターがその言葉を言い切る前に、何か───不審な気配が辺りを囲んでいた。
「おう兄ちゃん。良い服着てんじゃねぇの?」
「珍しい魔物だなぁ?高く売れそうじゃんか」
「おい!珍しい鬼人族の子どももいるぞ!こりゃあ大当たりだ!」
「なんだぁ?この甲冑姿の男に…ネズミ!?ハァッハ!こりゃあ面白れぇや!」
わっるい顔した黒の短髪マッチョ、汚ねぇ笑いの金髪に赤いバンダナ巻いたナイフ使い、太ったスキンヘッドの棍棒使い、ガリガリで痩せこけた灰色髪の鍵爪使い。
多種多様な服装に武装だがどうやら狙いは俺達らしい。
わぁ、こんなお約束のようなシチュエーションに合うなんて思わなかったぞー?あははははー?
「てめーら見ねぇ顔だな。大方、〝大会〟の参加希望者か?生憎だが辞めときな。てめーら如きじゃあ予選すら勝ち抜けねぇよ」
彼等を見渡してずばりと言うのはギルドマスター。
あの、そんな事言ったらあかんでは、多分切れる単細胞居ますよ。
「んだとこのネズミぃ?丁度良い、〝大会〟前の腕慣らしに付き合ってもらうぜぇ!お前等かかれぇ!!」
「「「おう!」」」
金髪に赤いバンダナをした男の声に彼等が武器を構え、飛び出す。
やばい、ルギくんは守らねば!
「───だから、無理だって」
俺が行動をしようとした、その時、鋭い〝何か〟が飛んだ気がした。
─────ッ!!!!
重なるような破裂音。
軽快で、小気味の良いような音が〝4回連続〟。
気付けば彼等は───砕けた武器と共に吹き飛んでいた。
「な…!何が…!?」
辺りを見渡せど、手助けしてくれたような人物は見当たらなかった。
それどころか見物客よろしく、盛大な歓声が口を合わせて聞こえて来た。
「〝流石、ギルドマスター〟」と。
そのギルドマスターを見てみるとその小さな右拳から湯気のような物が立ち上がっていた。
まさか───あの一瞬でぶん殴った?
「相手の技量も見れねぇ、礼儀もねぇバカ共にゃ言葉は必要ねぇな。おう!おめぇら!このバカ共をぶち込んどけ!!」
「「了解しました!ギルドマスター!!」」
その良く通る低音に、近くに居たであろうギルド員らしき人が続けて敬礼をした。
「ええ……つっよ」
「おら行くぞ。とりあえず着いてきな」
「まぁ、こんな感じだから僕達が警護するよ。着いて来てくれ」
「アッハイ。行こかルギくん」
「はば、はばばば」
あ、ルギくんが突然の出来事のラッシュにやられてる。
とりあえず引きずってこう。ずりずりとな。
────────────
カナタ
「とりあえず着いてくけど腹減ったなー。なーシラタマよ。ルギくんは……ダメだ、ほっとこう」
シラタマ
「にゅ〜…」
ルギ
「ぎ、ギルドマスターが低音で…武器もった人が吹っ飛んで…はばばば」
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