お前は強いよ




 ヴィレット率いる牙狼族の支援と、それに続いて来たギルドの人々による救助によって鬼人族の村の人々の状態は良好になりつつあった。


 クズ野郎がやったであろう負傷した鬼人族は、牙狼族の医療班とギルドからやって来てくれた医療グループによって瞬く間に治療されていた。


 その中でやたらと見覚えのある牙狼族が一人いるのに治療されて気付いた。


 手袋状に白い両腕と鼻先から首元辺りまで白い、翡翠色と白のツートンカラーがチャームポイントの牙狼族の一人、ヴェイールである。


 付与系の能力(ちから)を持つ彼は、ヴィレットによって鍛えられた戦闘能力を買われ、こちらに出向いてくれたらしい。


 まさか会えるとは思わなかった俺は久しぶりの顔とその治療の能力に喜んでいた。


 そんでギルドから来た人達なんだが───




「あ゛り゛がど〜!!来゛でぐれ゛であ゛り゛がど〜!!」




「ええい!離せナギナ!!鬱陶しいわ!!」




 ヴィレットにぐりぐりと顔を押し付けようとするが敬遠されるないすばでーの鬼人族の美人が一人。


 なお、現在俺はルギくん含め、そのじいちゃんと野外のテーブルでお茶中である。


 ちなみにルギくんはラデンさんの計らいでギルドの人からイヤリング型の翻訳の魔道具を頂いた。


 こりゃあ頭が上がらんね。




「誰」




「……従姉妹(いとこ)のナギナ姉ちゃん…」




 少し赤くなった顔に手をぺちーんと当てて「お恥ずかしい」と身内の失態を嘆くルギくん。


 どうやら二人は幼なじみでこの光景はいつもの事らしい。


 鬼人族の村の戦士長であり、王都のギルド員でもある彼女は連絡を受けて出稼ぎからすっ飛んで来たらしい。


 俺と初めて会った時に食ったあの魚の魔物もヴィレットに良く食わせて貰ってたりしてたとか。


 なるほど、とりあえず末長く爆発しろ。




「いやぁありがとうカナタ殿、助かったわい。まさかそんな事態になっていようとはな。孫を救って貰った上に薬まで……これでまた友(とも)、ヴァサーゴにも会えるわい」




 目を細めながらそう言う大柄で逞しいご老体とは思えない肉体を持つ鬼人族の長、そしてルギくんの祖父である老人ことタナさんがそうしみじみと語った。


 聞けばヴァサーゴさんは戦友であり、古くからの馴染みらしい。


 通りでヴィレットを〝レト〟と呼んだ訳だ。世間せめーなおい。




「所でカナタ殿……ルギを君の旅に連れて行ってはくれんか?」




「え」




 タナさんの突然の言葉にルギくんが固まった。




「一応聞きますがどうしてです」




「うむ、ルギも良く聞け。それは───」




 タナさんは真っ直ぐ俺を見ながらこう言って来た。




・村の改革をする為にも、孫の安全の為にもここには居ない方が良い。


・世界を知り、村の馬鹿共をぶちのめす強さと心を学ばせてほしい。




 と。




「───無茶を言っているのも分かっておる。お主の不安もな」




 確かに無茶な頼みだ。だがこの頼みが〝最善〟なのだろうと言うのも分かる。


 この場所を含め、至る所に〝差別〟の目がある。


 〝忌み子〟とされ、珍しい能力を持つルギくんは格好の的だろう。


 それに───あの奴隷商等も蔓延(はびこ)っている。




「ナギナに頼もうとも思ったがギルドは今忙しいらしくてな。レトの友であり、我が友ヴァサーゴの弟子の君しか頼めん。もちろん君次第だが───」




「───良いですよ」




「ほう?」




 不思議と返事は決まっていた。もちろん軽い気持ちで決めた訳じゃない。




「俺もこの毛玉も〝普通〟じゃないっぽいんでね。何より強くなりたいのは俺もです」




「にゅ」




 ほよんと頭の上で弾む毛玉をさておき、右手をぎゅうと胸元で握り締めて見つめた。




 いつの間にか〝安心〟をしてた俺が居た。


 いつの間にか〝大丈夫〟だと気を抜いてた俺が居た。


 いつの間にか〝死ぬ事はない〟と過信してた俺が居た。




 ここは〝あの世界〟じゃない、〝油断〟した奴から死んで行く。


 今回の出来事は良い教訓だ。


 俺はまだ強くなれる。




「じいちゃん、オレ───兄ちゃんに着いてくよ。オレも強くなりたいんだ」




 ルギくんのその言葉に俺は内心驚いた。そしてこう思った。




───〝強いな〟───と。




「うむ。すまんなルギ……それにしてもずいぶんと心を許したな。もう〝兄ちゃん〟と呼んどるのか」




「…別に良いだろじいちゃん。ほっとけ」




 タナさんの言葉に顔をぽんっ、と赤くしてルギくんがそっぽを向く。


 なにこれ可愛い。







───王都に向かうならギルドの馬車に乗せてもらうと良い───




 というタナさんの助言に従って現在ギルドの馬車に乗せて貰っておりやす。


 もちろん中は定員オーバーなので馬車後ろのへりに乗っている訳だが。


 馬車に乗るのは初めてだし、なんなら揺れが心地良いし景色も良いから不満と言う不満は無かった。


 ちなみに頭上(いつもの場所)にシラタマは居ない。


 何故か?そんなもん決まってる。


 交渉材料(癒しのもふもふ)として差し出した。


 今現在俺の後ろ、馬車の中で絶賛もふられ中である。


 この馬車、医療グループの馬車で女性中心の為予想通り大人気、癒しの毛玉大繁盛。


 これはまさか商売になるのでは……まぁ、お金にしんどくなったら考えておくか……




「ほんで従姉妹はどったの?」




「レト兄ちゃんと村に残ったよ。もうすぐ〝大会〟だからじゃないかな」




「〝大会〟とな。なんとなく予想つくけど」




 ヴィレットが関係してるとなると血生臭い気がする。




「〝英雄の一人〟がいる町で定期的にやってる力試しの大会に習ったものだよ。王都に着けばいやでも分かるよ兄ちゃん」




「合ってた」




 まんま血生臭かったわ。あの戦闘狂なら見逃す筈もないか。




「兄ちゃんも出てみれば?兄ちゃんなら良い所まで行くかもよ?」




「パス。痛いのやだし」




 そんな物より美味しいご飯あるかな。


 あ、バルちゃんの店行かねばな。後は俺の能力も調べて貰わにゃ。




「それより腹減った。流石にもう空っぽだわ。力がでん。バルちゃんの店行きたい」




「バルちゃん?」




「バルムって言う料理上手なおねぇ口調の男前」




「ああ、あの人か。オレも久しぶりにあの人の料理食べたいや」




「着いたら飯だな。決定」




「うん、そうしよう兄ちゃん。あっ───」




 くぅ、と小さく可愛いらしい腹の虫に俺とルギくんは笑った。


 うん、腹減ったわ。はっはっは。








「おう、久しぶりだな。ヴィレット」




「お久しぶりです」




「おうおう、硬くなんなよ似合わねぇって。俺みてぇな歳の近ぇ兄弟子に気を使うなって。───で。どうだ?」




「……ふー…我が着いた時には既に居なかったが───間違い無い、〝居る〟ぞ、王都に」




「この〝時期〟に……か。やれやれ、お前の鼻がそう確信してるならそうなんだろうな」




「より気を付けた方が良いだろうな。マンティコアには更に〝別の〟臭いもあった」




「何?」




「〝黒い臭い〟だ。我がかつて幼少の頃に嗅いだ物に似ている。【悪魔】が関与しているかもしれん」




「……了解。注意しておこう。ま、とりあえずはお疲れさん。王都にはすぐ来るのか?」




「暫くは無理だな。この村の馬鹿共をシメるのもあるしな」




「ははは、使い物にならなくするなよ。それじゃあな」




「ああ、またな。〝稲妻のバルロ〟よ」




────────────

カナタ&ルギ


「腹減ったなぁ〜」




医療グループの方たち


「「ああ…癒し…」」




シラタマ


「にゅあああぁぅ……」

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