邂逅(かいこう)

邂逅かいこうとは思いがけず出会うこと、めぐり合い、という意味です。


げろう、とかかいろう、とかに読み間違えてたのはきっといるはず……←作者はばっちり読み間違えてた人

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「…ん…あ?…ッグッ!なんだこれ…どうなってやがる…!!」




 身体の違和感と、続け様に走る身体の痛みに男は目を覚ました。


 目は空いてるのに視界が狭いのは、目が腫れているからだと痛みで知った。


 狭い視界に目を凝らしてみると、家の柱に縛りつけられているようで、身体を動かそうとしてもびくともしない。


 辛うじて動かせるのは地面に放り出されるように伸びた足だけだが無駄な足掻きと知る。




「…くそっ…ガチガチに縛られてやがる……あの野郎……今度あったら必ず殺してやる……!!」




 呪詛のように悪態をつくがこのままだと彼がギルドの奴に連行されるのは誰が見ても確かだろう。


 その場の〝次元が揺らぐ〟までは───




───何をしている───




「ッ!?」




 底冷えするような〝多重に重なる声〟に男は息を飲んだ。


 汗が…吹き出る。こんなにも日が出ているのに、男は〝冷や汗〟をかいた。




「ボ…ボス……!」




 次元が───歪んだ。




 気付けば───居る。




 青い、深海の如く真っ青なローブに身を包んだ人物が……目の前に。




「コールは…送ったはずだが……なるほど、そういう事か」



 男性とも女性とも取れない多重の声がその場に響いた。


 辺りの様子と、顔面から身体までボコボコの男の様子を見て〝ボス〟と呼ばれた人物は状況を知る。


 向こうから聞こえてくる騒がしさからも……把握。




「酷くやられたな。ジャン。お前がそうなるほどの相手か」




「…すんませんボス。どうかご慈悲を」




 不思議な、多重の声から確かに感じる重圧に、ジャンと呼ばれた男は頭(こうべ)を垂れながら、それに加え冷や汗をも垂れ流した。


 彼は、身体は知っている。この人物の恐ろしさを。


 スキンヘッドの男には浮かべていたへらへらとした下卑た笑みなどは既に無い。出せる訳が無い。


 この男とて───絶対に逆らえない程の実力の差は分かっていた。




「…まぁいい。その姿に免じて奴隷達への態度はチャラにしてやる。…いつまでその場にいるつもりだ。行くぞ」




「ボ、ボス!この縄を───もう解(ほど)けている!?」




 真っ青なローブを翻(ひるがえ)し、村の中央へ向かおうとするボスに問いかけようとすると、既に己が身を縛る縄が解けている事に気付く。


 あんなにも、がっちりと縛られていた縄が。




「…時間は有限だ。ギルドの連中がもうすぐ来る。さっさと来い。それとも───今ここで死ぬか?」




 大気が───止まった気がした。


 そして、ジャンの身体に……ずるりとした重苦しい〝死〟の感覚が襲い掛かった。




「……ッ…!お、お供しますッ…!」




 ずきりと響く身体を無理矢理起こし、ボスの後を追う。


 ボスは───冗談を言わない。







「…ぐっ!!!!!」




 爆ぜるような重低音。


 重量物が何か堅い壁にでもぶつかったかのような苛烈(かれつ)な衝撃と共に奴隷商が吹き飛ぶ。




「…ッ!!何という威力だ。貴様…何者だ」




 確かに防御はした。


 それでいて己が腕はその衝撃に痺れを感じた。


 奴隷商は───その男に興味を持った。




「言う必要はねぇな。強いて言うならその毛玉の飼い主で少年のダチだこの野郎」




 両の拳を無造作に構えながらカナタは関節を鳴らし、奴隷商を見据えた。


 そして触れる事によって改めて分かった。


 この奴隷商の…強さに。




(瞬動経由の渾身の蹴りで喋れんのかよ……あのクズ野郎とは格が違うって事か)




 様子を見るなんて事はしない。出来ない。


 仲間がやられそうな時にそんな余裕なんて無かった。




「…なるほど。面白い。お前に興味が沸いた。俺を満足させる程の実力があれば見逃してやろう」




「あ?」




「兄ちゃん!!油断すんなよ!!そいつは格が違う!!」




「ふにゅにゅにゅにゅ!!!」




「ああ、分かってる。お前等は離れてろよ」




 突然の提案にカナタは疑問を感じた。


 そしてそれと共にあらゆる思考が脳内を駆け巡る。




(何言ってんだコイツ。どういう事だ?俺に興味が沸いた?貞操の危機的ないやまてまてこんな緊迫した状況でそれは無い。戦闘狂?それとも単純に───ああ!!なんなんじゃい!!)




「名は何という」




 ぐちゃぐちゃの思考をさておき、奴隷商はカナタにそう尋ねた。




(よし、本人同意なら思う存分本気でぶん殴る事にしよう。やべ、普通ならサイコパスな考えだな俺)




 そして、めんどくさいのでぶん殴る事にした。


 つくづくここが異世界という常識が常識にならない世界で良かったとカナタは小さく心の中で呟いた。





「カナタだ。カンナギ・カナタ。こっちだとカナタ・カンナギか?」




「…やはり異世界人か。俺の名はアブドル。アブドル・G───いやフルネームはやめておこう。これでも結構上役なもんでな」




(フルネームを渋った?足がつくからか?まぁいいや)




 浮かんだ疑問を少し考え、すぐに破棄。


 油断をするな。こいつは───強い!!




「では始めよう。……行くぞ───!!!!」




(───早い!!)




 アブドルがそう言い放ったその刹那。


 迫りくる拳打を左の掌を虎爪の形にし、包むように受け止める。




「…ッ!!」




 衝撃波が服をはためかす。


 受け止めた左腕から伝わる衝撃はそれ以上に───強い。




(なんつぅ重さだ。威力はヴィレット以上か!このッ───)




「がぁあああああッ!!!」




 後ろへ溜めるように構えていた右腕の掌底を脇腹目掛けねじ込む。


 弾丸…もとい、砲弾のように回転を得たカナタの掌底がアブドルの右脇腹へと撃ち込まれた。




「グッ!!───ぬぅえいッ!!!」




 躱(かわ)す事も無く、身体で受け止めたアブドルはその勢いを利用し、右足を軸に後ろ回し蹴りをカナタの後頭部目掛け、繰り出した。




「ガッ!!───だりゃあああ!!」




 頭に衝撃が走る。


 ならばと、カナタは衝撃をそのまま利用し上半身を倒しながら左脚の蹴りを腹目掛けねじ込んだ。




「ッぬぅうううううっ!!」




 両足に力を込め、地面を削りながらアブドルはそのカナタの一撃を堪えた。


 そして改めて分かる───〝俺には〟この速さは躱せないのだと。




(なんだ…この違和感は?何故躱せない?確かに見えているのに?)




 速さはヴィレットには及ばない。だが何故か躱す事が出来ない。


 疑問も解決出来ないまま、つぅ、と垂れてくる血を左腕で拭った。




(マジかよ……久しぶりに血を見たぜ)




「ッくっくっく……良いぞカナタ。そして気付いたか。俺の攻撃が躱せない事に」




「てめぇ…やっぱりなんか〝やってやがった〟な?久しぶりに血なんて流したぞこら」




「俺が殴って血すら出ない人間なんて久しぶりだ。余程の鍛錬、努力、精神が無ければそんな鉛(なまり)のような身体にはなるまい」




「そらこっちのセリフだ。なんつーかてぇ身体してやがる、奴隷商に褒められてもうれしかねーわ」




 ヴィレット以上の一撃、重機のタイヤのように重く、堅い身体にカナタはため息が出た。


 そしてまだ…余力があるのが目に見て取れる。




「普通ならば使わないんだが能力(ちから)を使わせて貰った。まさかそこまで頑丈な人間がいるとは思わなかったからな。さぁ、行くぞッ……と思ったがすまんな。───時間(タイムリミット)が来たようだ」




「何?」




 ぱきり。



 その刹那───二人の間の次元が歪んだ。




───珍しいな。アブドル。お前が戦闘を楽しむとはな───




「…ッ…はッ…!?」




 その声にカナタは思わず身体の震えを抑えるように心臓を右手で押さえた。




 心臓を掴まれるかのような。


 前身の毛が逆立つような。


 男性とも女性とも取れない。


 多重の声を発する青いローブの人物がその場に居た。




「───時間だ。アブドル」




 例えようのない、権化(ごんげ)が目の前に存在していた。




────────────

カナタ


「ギャグシーン無し…だと!?」




ルギ


「出番ちょっとかー」




シラタマ


「ふにゅ〜」

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