良い目覚めである




 はてさてヴァサーゴさん等が人種と同じ姿になっている理由が意外と単純な物だったのはさておき、風呂から上がった俺とシラタマは寝室にて寝る手前である。


 なお、浴衣もお借りした。ありがたや。


 シラタマ?もうすぐで堕ちる寝る




「ふにゃにゃにゃにゃ〜…ぅ」




「こやつめ変わった欠伸(あくび)をしおって。…俺も寝るとするかな。さぁ、シラタマよ、快眠抱き枕になるのだ」




 ひょーいと毛玉を持ち上げながら己の身体と共に布団へと収納。


 うむ。今宵もよく寝れそうだ。




 明日の事を考えそうだが切り放そう。今は身体を休めて万全にすべきだ。


 いざ行かん、安らぎの彼方へ。








 声が聞こえた。


 掠れるような、辛うじて出したような声。




 音が聞こえた。


 液体の流れる音と、工場のような機会音。




 匂いがした。


 ツンとする、鉄錆のような匂い。




 何かが手に触れた。


 ザラザラする、冷たく、硬い感触。




 誰かが言ったのが聞こえた。


 「─────────」




 ああ、そうだ。────。オレは絶対に──────!








「…知らない天井だ」




 それはそうだ。ここは異世界だもの。かなお。


 そんでなんだあの夢は?やたらリアルだったようで不確かな……やめやめ、予知夢でもあるまいし、すぐ忘れんべ。




「ふにゅ!」




 すぱーん、と音を立てながら布団から顔を出すのはもちろん毛玉ことシラタマである。


 もふもふ大明神、万歳をしながら出現。




「うむ、おはようシラタマ。半熟状態から完全復活したな。風呂は良かっただろ」




「ふにゅっ!」




 手のようなもので万歳しながらほよんとひと跳ね。


 うむうむ。満足出来たようで何よりだ。


 とろとろの半熟卵状態だったからな、昨日は。


 とても良い感触でござんした。




「さて…とまだ少し暗いな。シラタマや、一汗流しにでま行こうぞ」




「ふんにゅ!」




 まっかせーいと言わんばかりにガッツポーズをするシラタマの顔は凛々しかった…ように見えた。


 しょうがないよね。ガッツポーズしたらその勢いでほよよんしてるんだもの。和むわ。







「うーぬぅ…っ…と!うむ、気持ちの良い朝だなぁ」




 ぐいーっと背伸びを一つ。


 心地良い風が全身を優しく撫で、あの頃ではそう味わえない、美味い空気が改めてここを異世界だと再認識させる。


…ばあちゃんの家以来かなぁ…




「にゅおお…っ!」




 おめめを狐のように細く釣り上げ、変な鳴き声でぐにーんと身体を伸ばしているのはシラタマである。


 お前そのふわもちボティでそれをやる意味があるのか?




「おはようカナタ。随分と早いじゃないか。どうしたんだい?」




 ぬ、この爽やかながらも落ち着いた声は……




「ヴォルグ。おはようさん。ちょいと早く起きすぎたんで一汗流そうと思って」




「それなら丁度良い。私もこれから外へ見回りに行く所だったんだ。一緒に行こう」




 おお、これはナイスタイミング。


 有難い、連れて行ってもらおう。




「お願いするよ。そっちも朝早いんだな」




「仕事だからね。それじゃあ行こうか」







「おやカナタ殿、ヴォルグさんおはようございます」




 村の出入り口にいる見張りが声を掛けてくる。


 およ?1人だけ?




「ああ、おはよう。弟くんはどうした?」




「昨日の宴で飲み過ぎて寝坊ですよ。まぁ、仕方ないと言えば仕方ないですね。祖父の体調が良くなってエラいはしゃいでましたから」




 タハハと見張りの人は苦笑をして頭を掻いた。


 しかしながら彼の顔は嬉しそうでもあった。




「はっはっは、それは確かに仕方ないな。君が居れば見張りは事足りるだろうし任せたよ。私は少し外の見張りをしてくる。カナタも少し身体を動かしたいらしいからな」




「ああ、了解です。大したものですな。カナタ殿も呑んでらしたのに」




「いやいや、俺は弱いのでもっぱら食べてばっかりでしたから。それにヴァサーゴさんに風呂に入らせて貰って疲れも完全に取れましたし」




 呑むより食う比率の方が高かったからなぁ。


 風呂も入ってれば完全回復は容易いよね。




「なるほど。それではお気を付けて。もっとも戦士長とカチ合える人には不要かも知れませんが。はっはっは!」




 それは確かに。…はっ、待て、俺のイメージは既に怪物クラス?




「ん?どうしたカナタ、顔が強張っているぞ」




「あーいや何でもない。行こう」




 気にしたら負けだ。うん。


 なぁにそれだけ俺を評価してくれてると思おう。


 そういう事にしておこう。うん……うん。








「風呂かぁ…やっぱり良い物なんだなぁ……でも人化出来ないと後処理がなぁ……くうぅ…やはり長の修行受けるべきかねぇ……はぁ」




「すまん兄貴。寝坊した」




「おう、おはよう。疲れはどうだ?」




「抜け切ってねぇなぁ…で?どうしたんだ?」




「いや、風呂にでも入れば大分違うらしくてなぁ。さっきカナタ殿が身体を動かしに外へ出た所だ」




「うへぇ、そんなに回復早いんか…風呂ねぇ…後処理がなぁ……」




「カナタ殿は人種だからなぁ…そんな事考えなくて良いんだろうなぁ……」




「まさか兄貴…長の修行を受けようと?」




「まぁな。覚えて損はないだろうし…だがねぇ……」




「長の修行はやべぇからなぁ……あ、そういえば戦士長は?」




「とっくに長に連れられて今頃お灸据えられてるだろうよ。その戦士長の顔といったら……この世の終わりみたいな顔だったな」




「ああ…宴で忘れてたな戦士長。そんな事聞いたら余計に長の修行受けたくねぇよ兄貴……」




「…お灸と修行は違う…と、思いたい」




「「はぁ〜…」」




────────────

カナタ


「ええねん化け物扱いで。念願のガタイに馴れたからええねん。……シラタマや、少しモフらせろ」




シラタマ


「ふにゅん」

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