2つの出会い

人間、超えました

「とりあえず俺が超人になった事は理解した」




 あれから様々な事を試した。


 握力、腕力、脚力、持久力───etc.


 今、俺の周りには変にひしゃげた鉄くずやガラクタが転がっている。


 アルに用意してもらったこれらは一般にトレーニング器具として使われるもの───らしい。


 いや、語弊があるな、トレーニング器具〝だった物〟だな。


 とりあえずこれらの鉄くず達は俺の身体能力に耐えれず、壊れてしまった結果だ。


 正直冷や汗が止まらない。アルは気にしないでいいよと言ってたけどこれは俺の良心が痛い。




「金属が殴っても刺さっても痛くならないとは恐れいったよ。逆にこっちの方がひしゃげてしまうとはね」




 コンコン、とぐんにゃりと曲がった棒状の束を叩いてアルはため息を吐いた。


  俺はその鉄くずとなったガラクタに見覚えがある。




「いやいや、アル、だからといって……アイアンメイデンにぶち込むお前が怖い」




「いやー、ちょうど良く見つけちゃったもんでねー。はっはっはっ」




 悪びれる様子も無く笑うアル。




 いや!?ちょうど良く見つけた割にはめちゃくちゃ段取り良かっただろうが!?目隠しされてアイアンメイデンへと「はいどーん」って楽しそうに投げ飛ばされる俺の気持ちを答えよぉ!!!!!




「ふにゅー」




「よしよし、シラタマ。お前は相変わらず心地良いな」




 小さく鳴いて胸元によじよじしてくるふにもに毛玉。


 荒(すさ)みかけた俺の気持ちを察するシラタマまじ天使。あー、癒されるー。


 と、シラタマをもふりまくって落ち着いて来た所である質問がある事を聞いた。




「───で。存在するのかアル。俺に……〝アレ〟は」




「に゛ょお゛お゛お゛お゛……」




 シラタマをもふもふしながらアルに俺は尋ねた。


 アルのようなゴーレムを作り出すような力…魔法の素質は俺にあるのかという事だ。


 アルによると誰しもが色を…【属性】を持っているらしい。


 属性は主に性格に偏るらしいが、別に他の属性を使えないという訳では無いとの事だ。


 あくまで属性が合ってるから得意になりやすいというだけ、努力でなんとでもなるという事だな。


 ちなみにアルの属性は地である。そんな気はした。ゴーレムの出来が良すぎでまるで本物の生き物みたいだったからな。




「───無いね。ざーんねん」




「え」




 やれやれと両手を広げてアルはあっけらかんと俺に言った。


 それに対して俺は言葉が詰まらざるを得ない。


 そんな…そんな……空飛んだり…火を出したり…稲妻出したり…出来んのか…俺。


 さらば俺の幻想よ…こんにちは現実…




 気付けばがくりと膝から砕け落ちていた。


 支えが無くなり、ぽいんぽいんと手から抜け落ちたシラタマが弾む。


 まぁ…こうにもなる…ファンタジーな世界に来てまざまざとそんなモノを見せられた後に「君は無理」と言われたら。




「ふにゅ」




 そんな膝をついた俺の背にぴょいーんとシラタマが乗って来た。俺の気持ちを見かねたのだろうか。


 くっ、コイツの優しさが辛い……あっ、もふもふが気持ち良い。




「…くっくっく。ああ、ごめんごめん。語弊があったね。【属性】が無いだけで魔法を使う事は可能だよ」




「…アルてめぇ……」




 苦笑しながらアルはそう言った。




 コイツ俺の反応で遊んでやがる。何故だ…何故俺はこうもイジられ易いのだ…顔か!?顔なのか!?そういう顔してるのか!?




「おおし、喧嘩なら買うぞ。その前に今の事を詳しく聞いてやろう」




 ぴくぴくと眉が動きながらも俺は顔を上げてアルを見る。


 ちくしょう、楽しそうな顔してやがる。




 落ち着けぃ俺よ、まだ早い。そしてシラタマよ顔上げた瞬間に頭の上に乗ってくるのではない。まぁ、良いけど。




 今アルに殴り掛かった所で簡単に返り討ちされるだろうが、落ち着こう。


 あの言葉の詳細が聞きたい。


 ぐっ、と膝を起こして立ち上がり、近くの椅子に自分の腰を下ろした。




「おお、怖い怖い。それじゃあ、打(ぶ)たれない内に詳しく教えてよう。【属性は】無い…つまりは無属性だね」




 そう、それが聞きたかった。


 得意な属性が無いだけであって使えない訳ではないのを知りたかったのだ。




「……ふはぁ…良かったぁ…魔法使えるんだなぁ…」




「にゅ」




 あー、魂抜けた。ほへー。あ、上むいたからシラタマ落ちた。すまんすまん。




 落としてしまったシラタマに謝りながら再度頭に乗せてやった。


 コイツがもふもふの軟体で良かったと思う、ダメージ無いだろうし。


 しかし怒ってもふよんふよんしながらぷんすこしてて少しも威圧が見当たらない。可愛いからもっとやれ。




「普通のレベルまで使えるようになるには地獄だよ?」




「慣れてるよ。覚えるのが下手だったからな」




 普通より長い時間かかるならその倍以上やりゃあいい。


 今までだってそうして来た、だろう?我が身体達よ。


 そんな俺にアルがすごーく優しい顔になって俺に言った。




「…じゃあ───」




 ドンッ───と、大量の本を机に用意してアルは俺にとって地獄の言葉を言った。




「文字の練習も兼ねてたっぷり勉強しようか」




 このアルを見て俺の表情はどうなっていたのだろうか。


 きっと真っ青に血の気が引いていた事だろう。




「…死んだ」




───異世界に来て最初の難敵。


 俺はこの時程アルの笑顔が恐ろしいと思った事は無いだろう。〝優しい〟って〝恐い〟のだ。




「あ、言い忘れてたけどシラタマは付与系で属性は【重力】だったよ」




「さらっと言うんじゃねぇ。レアじゃねぇかそれ」




────────────

カナタ


「あー、シラタマは触り心地が良いなー。そうなー、気持ちいーなー、こーねこね」




シラタマ


「にゅ、にゅー、にゅ、にゅー」




アル


「現実見ようねーカナタ」

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