recollection room

生太

誕生日

私は今日、おばけになった。


ついさっき、廃校になった母校の屋上で16歳の誕生日を迎えた。

でも、それから1分と経たず、私はこの世界から飛び出した。


中学を卒業して地元の高校に入った。

でも、その時の私は、止まることのない時間の流れに流されることすらできずにいた。


私にとってはあの人との時間が全てだった。


幼馴染であり、初恋の人。

小さい頃は毎日一緒に遊んでた。

5年生ぐらいになると、さすがにお互い少し照れはあったけど、それでも登下校は一緒だった。


わざわざ当たり前だとは思わなかった。

それが日常だった。

そんな明日がまた来るんだと思ってた。


中学生になって、登下校が別々になった。

少しずつ会話が減っていくと、一緒にいても目が会うことはほとんどなくなった。

けど、あの人を見つめてる時間は何倍にもなった。


それはいつから恋だったんだろう。

一緒に桜を見た時、一緒にリンゴ飴を食べた時。

一緒に落ち葉を拾って、一緒に風邪をひいた。


今でも、目を閉じれば自然と流れ出す、胸が痛くなるぐらい鮮やかな日々。


それがただの思い出なら、こんなに苦しまないで済んだはずだのに。


いつからか始まった初恋は、私を泣かせることもなく、ある日突然終わりを告げた。


卒業式の3日前、引っ越しの報告を受けたあの日、焦りや悲しみで胸の中が騒ついて、息苦しくなった。


それは、卒業式が終わって挨拶もできないまま、あの人が乗る車を見送ったその時まで続いていた。


どんどん小さくなっていく車を、力の抜けた足が1歩2歩と追いかけたけど、3歩目には身体を支えきれず私はその場に崩れ落ちた。


その日から、何度もあの人の夢を見た。

夢の続きを見るために毎日を過ごし、夢を見ていない時は、つまらない人形劇をボーっと眺めているようだった。


そんな世界から飛び出したくて迎えた今日だった。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

recollection room 生太 @edazima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ