関西弁で話しかけてくるオルゴール

そのオルゴールショップは、関西の観光地の裏路地にあって、店内は閑散としていた。装飾の多いオルゴールの中に、ただの四角い白木の箱みたいなのがあって、手に取った。ねじを巻いて蓋を開ける。静かな店内に怒声が響く。

「どないやねん」

辺りを見回すが、誰もいない。まさかね、と思いながら、もういちどねじを巻く。「かなんなあ。そんな乱暴に巻かんといてえな」

声がオルゴールから響いてくることに気付いて、心臓が止まりそうになる。手が滑って落っことしかける。

なにこれ。面白い。いくらだろう。値札を探すが、どこにも書いてない。もういちどねじを巻いてみる。

「けったいな奴っちゃなあ。これ売りもんちゃうで。非売品や非売品」

あんまり不思議なので、お店の人に質問しようとレジまで持っていくが、店員の姿がない。ねじを巻く。関西弁が響く。

「あのなあ。そやから売りもんちゃう言うてんのや。店員ならここにおるで」

どこにいるのだろう。まさか、この箱が店員?

少しねじを巻きかけて、不安になって巻くのをやめる。店を後にする。

オルゴールがゆっくり独り言を言っている。

「しもたなあ。もう少し巻いてくれたら、あの姉ちゃんと入れ替われたのにな」

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