双子獣人と不思議な魔導書
夜色シアン
一章・擬態者の核を砕け
第0話双子の獣人
ここは鉄の森、ヤルンヴィド。その奥深くにて二人の少女達が密かに暮らしていた。
「う〜ハティ成分が足りないよ~」
ゴロンと床に寝転がり、疲れた表情を浮かべつつふわっとした声を放つのは、茶髪ショートのスコル。過去に悲惨な出来事を受け一時的に誰とも話すことができなかったが、今ではそんなことは忘れたのではないかと思うほど、ふわふわとした声を放つ。
身体はよく発達しており、隣でせっせと動く姉に羨まれるほどだ。
「スコル
その姉というのは、今しがた強く言葉を吐いた、首回りまで伸びた白銀の髪を持つハティ。元気は良いが、真面目な性格なのか妹のスコルにも丁寧語を使う癖がある。
ただ、スコルとは違い身なりは成長中な子供。ならばスコルのスタイルを羨むのは納得がいく。
これ程まで違いが出るのは、少女達が二卵性双生児の双子だから。さらに少女達は獣人族といわれている種族で、肉厚な耳と、間違えて掃除用具にされそうなふわふわな尻尾が生えている。
そんな双子の獣人はある出来事から約十年経った今、暫く使われていない母親の部屋を掃除していた。
「ん〜じゃあ〜いつものしてくれたら頑張る〜。ハティだって本当は欲しいでしょ〜?」
「……す、少しだけですからね……ちゃんと掃除頑張ってくださいよ……?」
「やったぁ~!」
だが刹那、掃除を一時的に中断した少女達は思わぬ行動をし始めた。
互いの白く小さな手を、指を絡めさせるようにして握りしめ、少女達は唇を重ね合わせる。それも何度も互いの唇を重ね合い、息を荒らげてしまうほど激しく。されどもゆっくりと時間をかけ、唇を離せば、跡を追い糸が引くほどねっとりと、唇を重ね合わせたのだ。
唇を重ね合わせる度、甘い吐息が少女達の口から放たれ、少女達の顔は紅葉のように赤く染め上がっていた。
少女達は家族ながらも互いの事を愛する。ある出来事がきっかけで親を失い、唯一の家族で支えなのが双子姉妹の片割れ。だからこそか、支え合ううちに家族愛ではなく恋愛的な愛が少女達に芽生えたのだ。
「はぁ……はぁ……あ、あのもうそろそろ……」
「え~まだいいでしょ〜」
「でも……掃除、途中ですから……」
「う〜」
程なくして交わることを終えた少女達は多少なりとも心臓が高鳴り、顔が赤みがかったまま。とはいえずっとやっていては日が暮れてしまいかねず、だからこそ、強引にでも離し、二人で掃除を再開した。
少女達の親は読書家なのか、本棚が多くどれもこれも本で埋め尽くされている。ぱたぱたぱたとハタキでホコリを落としていると、一つの黒い本が本棚から抜け落ち、重たい音を言わせる。
「ハティ~なんか落ちた~」
「とりあえず怪我しなくてよかったですが……なんの本でしょうか?」
未だ寝転がっていたスコルが咄嗟に拾い上げ、二人で書名を見ると、零の魔導書と確かに刻まれていた。
「これは……」
「ハティ~知ってるの~?」
「いえ、見たことあるような気がするだけです」
どこで見たのか思い出そうと考え込みつつ、パラパラとページを捲る。だが文字を読む暇なく、本に書かれていた文字がいきなり、すぅっと消えてなくなり、何も書かれていない白紙の魔導書に成り下がる。
「い、今のは……?」
「文字が勝手に消えましたね……」
他のページに刻まれていたであろう文字も消えていたが、開いていくと一つの手紙が挟まれているページにたどり着いた。
「手紙……ですか、誰のでしょうか……先に読みますか?スコルさん」
「一緒に読む~」
「ふふ、そう言うと思いました」
本を一度閉じて机の上に置き、二つ折りで挟まれていた手紙を読み始める。
『この手紙を見つけたということは、私はもう死んでるのかな。
はぁ……私が死ぬなんて今の私には、全く想像もつかないね。でも書斎に入って魔導書とこの手紙を見つけたならそういうこと。
悲しいなぁ……。やっぱり書くのやめようかな……。
まぁここまで書いたんだし、ここからは私の娘達に向けて書くね。
ハティ、スコル。今手にした魔導書……零の魔導書を完成させて“鍵”を作って兵器を止めて……そして私の……いや、私達人狼の夢、人狼種を人々に信頼させる夢を成し遂げて。
貴女達ならきっとできると信じてるよ。
byフェンリル』
それは紛れもなく少女達の親、フェンリルからの手紙。彼女は生前、いずれ死んでしまうこと予測し、手紙を残していたのである。しかしこの手紙を見てフェンリルの夢を引き続いだ結果、過酷な出来事が待っているなど今の少女達にはわかるすべがない。
母親が最後に残した手紙を読み、文章に秘められた願いを、涙目の少女達は受け入れる。刹那、タイミングを見計らったかのように魔導書が淡く光り、パラリと本のページが捲られる。
それは最初の一ページ。少女達が確認した時真っ白……いや、今も尚白だが、黒のインクを垂らしていないのに、『汝、名前を述べよ』と綴られ始めた。
「勝手に文字が……」
「名前を述べよだって~」
「勝手に綴られるなんて怖いですね……私はハティです」
「私は~スコル〜……ところで本に向かって言っても意味ない気がするんだよね~」
「……案外そうでもなさそうですよ?」
スコルが言う通り、本に向かって名前を言ったところでなんの意味もない。だがそれは普通の本だったらの場合だ。今目の前にあるのは魔導書。つまりは特殊な本。その証拠に少女達の名が先程の文字と引き換えにページに刻まれた。
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