ごく平凡なファンタジー世界の日常を送っていたと思ったら、実は異世界転生した人間でした!?~突然エージェントに任命されて俺の人生は一変した~
紫 和春
第1話 遭遇
ここは、とある異世界。
ごく平凡な剣と魔法の世界。
そんな世界に住む一人の少年がいた。
「行ってきまーす!」
そんなとある国のとある街はずれに住む、レオ・ロイド。
もうすぐ15歳の誕生日を迎えようとしていた。
そんな彼が向かった先は、初歩的な学術を教えてくれる学問施設、教会学校である。
この学校は無償で読み書きを教えてくれる、いわば初等教育の学校である。
そこに通うこと数年。読み書きはもちろん、計算までもできるようになっていたレオ。
15歳を迎えた時には、街にある魔術学校に通うことが決まっていた。
「おはよう」
教会学校に到着すると、いの一番に挨拶をする。
そして友人や年下の子供たちと交流を深めるのだ。
「こら、いつまでも遊んでないの!」
外でボール遊びをしていた所に、ある女の子が声をかける。
レオの幼馴染で、レオと同じように魔術学校に通うことが決まっているマリ・テレアだ。
家や年も近く、案外これでもうまくやっていっている。
「もうすぐ授業が始まるよ!」
「わかったわかった。そんな大声で怒鳴らなくても分かってるよ」
そういって教会の中に入っていく。
こうして授業を受け、家に帰る。
こんな単純な生活だが、レオは充実していた。
そして15歳の誕生日を迎える。
「レオ、15歳の誕生日おめでとう!」
「ありがとう、父さん、母さん」
「これは誕生日プレゼントだ」
「わあ、カロンの杖だ!」
「今度から魔術学校に通うのだからな。杖は必須だろう」
「ありがとう父さん!」
そんな感じで、祝福を受けるレオ。
早速外に出て、カロンの杖を使ってみる。
「水の精霊よ、この杖に力を宿し、そして顕現させよ。ウォーターボール!」
杖の先から水が湧き出て、そしてそれが射出される。
威力は低めにやったため、そこまで飛距離があるわけではないが、それでもこれまでの魔法の発動に比べれば、格段に楽になっている。
思わずレオはにんまりと笑ってしまう。
「ふふっ」
そんなことをやっているときだった。
突如、上空から低音が響き渡る。
思わず耳を塞いでしまう程の大きな音だ。
何事かと思い、レオは上空を見上げてみる。
するとそこには、巨大な鉄の塊のようなものが浮かんでいるではないか。
「何あれ……。敵?」
そんなことを言っている間にも、レオの真上までその鉄の塊はやってくる。
そして、レオに向かって光が浴びせられる。
「うわっ!」
すると、レオの体は浮き上がり、次第に鉄の塊のほうへと吸い寄せられていく。
「うわ、ちょ、待って」
この時慌てていたレオは、魔法によって脱出することを完全に失念していた。
そしてそのまま、レオは気絶してしまう。
次に気が付いた時には、レオは横になっていた。
レオは状況を整理するために、周囲の様子を見てみる。
そこには見たこともない機械が大量に並べられており、空中には何か文字のようなものが浮かんでいた。
そしてその空間には、レオと同じような人間がいる。
だが、その服装はレオの見たことないデザインをしていた。
「な、なんだここ……」
レオは思わず声を出してしまう。
すると、人間がレオのことに気が付き、近づいてくる。
「大丈夫か?俺たちの言葉が分かるか?」
人間が話しかけてきた。その言葉は、レオにも分かるようになっていた。
「こ、ここは一体……」
「まだ混乱しているようだね。ゆっくりでいいから思い出せないか?自分が何者であるかを」
「何者って……」
その瞬間、レオの頭は頭痛に見舞われる。
「い、つぅ……!」
「薬の副作用が出ているようだ。安心していい。じきに治まる」
「ぐう……」
「さぁ、頑張って思い出すんだ」
「思い出すって、何を……」
その瞬間、レオはあるものを「思い出した」。
それは前世の記憶とも呼べるもの。自分自身が地球出身の人間であったこと。名前は栗林友也であること。そして自分はトラックに轢かれ、死んでしまったこと。
すべてを「思い出した」。
「僕は……、いや、俺は一度死んでいるのか……?」
「その通りだ。我々の観測しうるなかでは、君だけが異世界に転生したと思われる」
「俺が異世界転生……?」
「君もよく知っているだろう?異世界転生物が流行ってたことを」
「えぇ、よく知っています。しかしなぜ俺が……」
「そのことはよく分からないんだ。しかし、この惑星に来た時、地球と同じ周波数を持つ思考が存在することが判明したんだ。その反応を追ったところ、君に遭遇したというわけだ」
「そう、だったんですか」
「大丈夫か。まだ頭が痛むか?」
「いえ、大丈夫です。まさか自分が異世界に転生するだなんて」
「我々も驚いてるよ。まさかこんな所で地球出身の人間と出会えるなんて」
そういって、男性は飲み物を渡してくる。
それは、地球では飲み慣れたエスコップ社製の栄養ドリンクであった。
「懐かしいな……」
「だろう。君も15年、この世界で生きてきたんだからな」
レオは、いや栗林は栄養ドリンクを一気に飲み干した。
そこに、男性が一人やってくる。
「あ、司令官」
「楽にしてよい」
「司令官?」
栗林は聞く。
「あぁ、この調査船アポカリプス号の調査隊隊長にして最高司令官のハロルド・ヴェルナー少将だ」
「とはいっても、そんなに緊張しなくてもいいが」
そういって、ハロルドは顎に手を当てて、話し始める。
「早速で申し訳ないが、君に頼みたいことがある」
「頼みたいことですか?」
「そうだ。単刀直入に言えば、この惑星、識別番号YD-837の調査を依頼したい」
「俺がこの惑星を調査するんですか?」
「その通り。君は現地で徴集したエージェントとして、なるべく多くの情報について調査してきてほしい」
「しかし、どうすればいいんですか。その、冒険者にでもなれってことですか?」
「我々はこの惑星の物理的性質や植生については調査できるものの、文明については簡単には調査できない。そのため、文明や文化に関して分かる範囲でいい。その情報を我々に提供してはくれないか?」
「ここで話す感じですか?」
「いや、そうではない。君の体にはすでに超小型万能スパコンを搭載したマイクロチップがインプラントされている。地球時代の時もやっていただろう?」
「えぇ」
「そのマイクロチップが君のことをサポートしてくれる。使い方は地球の時と同じだ」
「分かりました」
「それと、この世界では魔法があるらしいな。もどきではあるが魔法のような物を使えるようにしてある。存分に活用してくれ」
「ありがとうございます」
そういって、栗林はマイクロチップを使ってみた。
インターフェースが表示され、自分の状態を表示してくれる。
そして、新機能として、魔法使用に関する項目が追加されていた。
そこには多種多様な魔法のようなものが掲載されている。
「それを使って、頑張ってくれたまえ」
「はい。分かりました」
「そのほか必要な情報はマイクロチップを通じて情報提供する。今日の所はもう帰ったほうがいいだろう」
そういって、栗林はアブダクション装置の前まで案内される。
「記憶の混濁によって日常生活に支障をきたす恐れがあるだろうが、頑張ってくれ」
「はい」
「では降ろすぞ」
そういって装置を起動させる。
そのまま栗林は地上へと戻っていった。
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