風魔が吹く
豚ドン
第1話足柄山にて語れり
戦さなど、遠き昔の話。
世の全てが徳川の治世を
しかし、嫁を貰う訳でもなく、勤める事もなく、日がな一日フラフラとしていた。
そんな虚太郎は、春の陽気に誘われて、桜の樹の下で昼寝をしている。
春の突風と共に舞う、桜吹雪。
「おや? 珍しい
揺れる桜の音色と共に、近づいてくる足音に目を覚ます。
「
訪ねて来た男は、
齢六十ほど、既に頭髪は白くなり、手先も枯れ枝の様に細くなった老人、口元を、にゅむと曲げ笑う。
しかして、その眼力鋭く、隠し切れない剣気は、正に研ぎ澄まされた刀、其の物のであった。
「
江戸幕府将軍家剣術指南役に大目付を兼任し、大名である
「昔話のう。……小田原攻めの際に
嫌味たらしい顔をする宗矩。
虚太郎は一転して苦い顔となる。
「それは。……ちと、うん。
虚太郎は両手を万歳した後に、姿勢を正し、顔を固くする。
「全く、
「宗矩殿! 拙は仕事、大好きでありますので、話を早う」
説教じみて来たのを感じ取り、強引に仕事の話へと流れを変えようとする。
「うむ。……
至って普通の仕事の話。……それには虚太郎も首を
「探るですか。ならば、拙の様な、
虚太郎は首を傾げたままに、眉を上下させながら、至極真っ当な答えを返す。
宗矩の顔が暗くなり、大きな溜息を
「……っも。し……いした」
もごもごと、蚊が
「
宗矩は、ゆっくりと大きく息を吸う。
「伊賀も、甲賀も、どちらも任の途中で死んで! 失敗したのじゃ! 情報も入らずに、手付金だけを持っていかれて、大赤字じゃ!」
足柄山に宗矩の悲しい叫びが
虚太郎は腕組みをしながら頷く。
「ははん。それで。伊賀と甲賀が
無精髭を触りながら、宗矩の顔を下から覗き込む、
「十中八九。……出来れば、魔も討ち取れば万事良し。
宗矩は肩を上下させ、荒い息を吐きながら虚太郎へと期待の眼差しを向ける。
「無論。密偵の任と魔退治の任。」
虚太郎は立ち上がり、背伸びをし、不敵に笑う。
「
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