種族を超える味
遠野達野
第1話
港町リンデ。ミグランス大陸の玄関口であるこの港町は今日も多くの観光客や地元漁師のおかげで盛り上がっていた
「リンデは今日もにぎわっているなぁ。そこかしこに露店とかも立ち並んでいていい匂いもしてくるし」
たまたまリンデに立ち寄ったアルドは町を散策しながら、ひときわ食欲を刺激するにおいを感じ取った
「な、なんだこのにおい・・・!?嗅ぐだけで食欲が全身からあふれ出しそうだぞ!?・・・あっちからだ!」
匂いをたどるとそこには多くの人で賑わっている一店の露店があった
「さぁさぁ!皆さんお立ち寄りください!世界各地を旅してまわり、様々な料理に触れてきた私が腕をかけて作り上げたオリジナルのスープ!一口食べればほっぺがとろけ落ちること間違いなし!食べていってください!」
「どうやら匂いの元はあの料理みたいだな」
それを認識したとたんアルドの腹が豪快な音で泣いた
「こ、これ以上は限界だ!俺も早くもらおう!」
露店に近づいていき
「俺にも一つもらえないか?」
「いらっしゃい!もちろんだとも!さぁじっくり味わってくれ!」
「ありがとう!じゃあ早速・・・!」
ごくり
「・・・っ!?!?!?これは・・・!!!」
口に入れた瞬間アルドの全身を味覚の暴力が襲った!
「ベースはユニガンで流行っている王国風豆スープに近い!だけど豆の触感を大事にしながらより味わい深いものに仕上がっている・・・!?おそらくは中に入っているスパイスか!これが豆の味をより際立たせているんだ!」
「おや、兄さん味がわかる人だねえ!剣士かと思ったが実は料理研究家だったりとかするのか?」
「いや、そういうわけではないんだけど。旅をしているから色々な食事をとることが多くてさ。こういうのにも敏感になってるんだ」
「なるほどねぇ!さぁさぁ旅の剣士様からもお墨付きが出たスープだ!皆さんもぜひ飲んでいってくれ!」
アルドとのやり取りをきっかけにさらに人が露店に詰め寄る
周りからも、
「うまいっ!こんなうまいのは初めてだ!」
「おいしい!具材はシンプルなのに自はすごい深みがある!」
「・・・わしゃあもう死んでもよいかもしれんなぁ」
周りから絶賛の声が上がるなか、怪しいフードの男がやってくる
「・・・俺にも一つもらおうか」
「いらっしゃい!俺の自信作だ!さぁ飲んでくれ!」
怪しい男はスープを一口飲むと、
「・・・まずいな」
そういってスープをその場に投げ捨てた
「なっ!?何するんだあんた!」
怒る料理人を無視して男は立ち去っていく
「おいっ!待ちやがれ!」
慌てて男を追いかけていく料理人
「あっちはセレな海岸のほうだ。魔物も出るし俺も追いかけよう」
二人が気になったアルドも二人を追ってセレナ海岸に行くことに
セレナ海岸にて
「・・・おいしいと聞いて食べてみたらこんなものとは。やはり人間は料理も我らより劣るな」
先ほどのローブののとこが人気がないセレナ海岸で、ローブを脱ぐ
中から現れたのは、青い肌にとがった耳、頭からは角をはやしており人間とは似通ってこそいるが全くの別の種族、魔獣である
「ここのところ似たようなものばかり食べていたから気分転換にと思ったが、やはり人間の作るものではだめだな」
「おおおおおおおおおおおっ!!!待ちやがれえええええええっ!!!!」
先ほどの料理人が鬼の形相でこちらに走ってきていた
「さっきの料理人か?なぜここにいる?」
「なにぃ!?・・・お前まさかさっきのフード男か!」
男の正体が魔獣だと知り目を見開く料理人
「危ないからあんまり一人で突っ走っちゃだめだ。ってどうして魔獣がここに!?」
そこに二人を追いかけてきたアルドも合流する
「ちっ、面倒なことになったな。二人ともここで始末するか?」
等と画策する魔獣の前に料理人が飛び出す!
「おいあんた!俺のスープがまずいってどういうことだ!」
「・・・なに?」
「自分でいうのもなんだが今回のスープはかなりの自信作だった!なのにまずいの一言だけで片付けられちゃあ俺が納得できねえ!!」
「確かに。これまでいろいろな料理を食べてきた俺もあのスープはかなりうまいと感じたぞ」
アルドが料理人をフォローするように口を開くと、魔獣はそんな二人を見ながらあきれたように口を開く
「まずいものはまずいだけだ。お前たち人間にとってはあれがうまいのかもしれんが我ら魔獣から見ると大したものではなかった。それだけの話だ」
「なっ、なにいいいい!?」
バッサリ言われショックで固まる料理人
「話はそれだけか?ならば貴様ら二人を始末して」
「・・・しろ」
ショックを受けた料理人がこぶしを震わせながら何かをつぶやいた
「なんだ?」
「俺と勝負しろ!魔獣!!」
「なっ!?あんた料理人だろ?!勝負なんてできるのか?」
「構わんぞ。どちらにしろ見られた以上は貴様ら二人とも始末せねばならんからな」
そういって武器を構える魔獣
「くっ!やるしかないか!あんたは下がっていろ!」
アルドも応戦するべく武器を構えると、
「まてまて!あんたら何をするつもりだ!?」
「貴様が言い出したことだろう。勝負しろとな。今更怖気づいたか?」
「確かに俺は勝負しろといった。だがそれは戦うことじゃあない!」
男は一歩前に出る
「料理人としての俺と勝負しろ!!」
「・・・どういうことだ?」
「俺が料理を作りあんたが食べる。あんたにうまいと言わせれば俺の勝ちだ!」
「ふん。何を言うかと思えば、無駄なことよ。貴様ら人間に我ら魔獣の舌をうならせることなど不可能だ」
「不可能かどうかはやってみなくちゃわからねえだろうが!さぁ、この勝負受けるのか?」
「そんなことを言ってここから逃げ出したいだけじゃないのか?」
「そう思うんならここでその手にした武器で俺をぶったぎればいい!」
「お、おい!あんた!」
料理人のあまりにめちゃくちゃな言い分に思わず止めようとするアルド
「剣士の兄ちゃんも悪いが黙っててくれ!俺は今こいつと話をしてるんだ!」
魔獣は困惑していた。こいつはいったい何を言っているんだ?
まずいものを食べた腹いせにこの男を倒しても構わないはずだ
そう思うのに、奴の太陽がごとき熱を帯びた眼差しを見ているとどうしてもそんな気にはなれなかった
「・・・ふん、いいだろう。ただし俺がうまいと言わなければ貴様を切り裂いてやるぞ」
「ああ、それでいい!食材の用意とかもあるからまたここで会おう!」
立ち去っていく魔獣を見送る二人
「あんなこと言ってたけど、大丈夫なのか?何か案があったりするのか?」
心配そうに声をかけるアルドに、料理人は鼻で笑うと自信満々に答えた
「そんものは、ないっ!」
「えええええ!?ないのか!?本当に!?」
「ああっ!」
「なのにあんな勝負吹っ掛けてよかったのか?もし負けたら」
「命が危ないってか?そんなものより大事なものがこの勝負にはかかっているんだ!」
「大事なもの・・・?」
区部を傾げるアルドに男は親指で自身を指さし笑顔で言い放った
「料理人としてのプライドさ!」
「料理人としてのプライド?
「そうだ!客にまずいと言われたまま引き下がったら料理人としての俺が死んでしまう!」
「客って言っても相手は魔獣だけど」
「魔獣だったらまずいと言われても問題ないってか?そんなことはねえ!そんなことあっちゃあならねえんだ!!」
男は何かを思い出すように空を見上げる
「・・・わかったよ。俺も気になるし協力するよ。一緒にあの魔獣にうまいと言わせてやろう!」
「あんた・・・良いやつだな!よろしく頼むぜ!」
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