第26話 トウモロコシぷん

「ぷんって何なのよ。お花がいっぱいぷん」


 うわあ……。私は可憐で超愛らしいけど、これはないわ。ないない。

 

『鼻? 風邪でも引いたのかもきゃ?』

「ぎえええ。あ、ルルるんか。おっすおっす」

『サエコはメス?』

「そうよお。こんな可愛い男の子がいるわけないでしょー」

『興味が微塵たりともないもきゃ。梨とリンゴもきゃ』

「さんきゅー。半分持っていっていいわよお。きゃー私、太っ腹」

『取りにきてもいいもきゃ?』

「もう、嬉しいくせに」

『おっと、そうはいかないもきゃー』


 っち。喋りながらさりげなく頭に触れようとしたら華麗に回避された。

 あの白猫に乗っているうちは無理ね。機敏すぎるわ。

 いつだったかしら、数日前にこれでムキになり追いかけっこしたんだっけ。

 あれを捕まえるには封印していた右手を使うしかないわ。でも、佐枝子、弟を痛い目に合わせてから二度と使わないって決めてるの。


「命拾いしたわね……」

『もきゃ? 敵はいないもきゃ』

「ハチもいなかった?」

『いるもきゃ?』

「凍らせる?」

『まだハチミツはあるもきゃ』

「そう……」

『もきゃ』


 このフクロモモンガ、使えねえ。

 言葉が過ぎました。めんごめんご。つい、自分の欲望のままに文句を言ってしまったわ。

 いつだって他人に対するおもいやりを忘れず、奢らず、謙虚に生きて行かなきゃ。

 スペースオペラの主役になる必要なんてない。勇気もよろしくしなくたっていいのよ。

 ね、隊長?

 隊長はスクワットに夢中で何も答えてくれなかった。

 私もスクワットしなきゃ、寝る前でいいわよね。

 

「ルルるん、どこ行くの?」

『トウモロコシ』

「あれ、ルルるん、コーンを食べたんだっけ」

『昨日食べたもきゃ。たまには別のものも食べるもきゃ。俺様グルメ』

「リンゴと梨とコーン?」

『じゃあ、もきゃ』

「じゃあじゃないわよお。それ私が育ててるんだからねー」


 逃げる白猫を追いかけ、畑に向かう。

 それにしてもルルるんはいつコーンを食べたんだっけ。

 思い出そうとすると、霞がかかって……最終的に見えたのはひっくり返ったハチの姿だけ。

 うーん、キッチンに収納し忘れたコーンを残していたのかも。

 

 あ、ああああ。

 あのフクロモモンガめえ。トウモロコシの穂に張り付いて引き倒しちゃった。

 でもあのちっちゃなお手手を頑張って動かし、トウモロコシの実を取り出そうとする姿は、かわゆいわあ。

 かわゆい……確か昔そんなキャラクターの名前が出て来た漫画があったかも。

 こっちも先ほどのコーンと同じでハッキリと思い出せないわ。

 私、まだ若いのに健忘症は発症し始めているのかしら。そ、そんなことないもん。

 

「ないんだからー。あ、イルカくん、作物を回収して」


 どんな時でもきっちり仕事をこなすイルカが尾びれをパタリとするとルルるんが持つトウモロコシ以外は全て消失する。


『何もきゃ。これは俺様のトウモロコシもきゃああ』

「とらないってば。スレイはお魚好き?」

『そうもきゃー。昨日も言っていたもきゃ』

「にゃーん」


 あれ、そんなことあったっけ。

 ま、まあいいわ。

 それより畑に種を撒かないとね。

 お花の種もばばーんと撒いちゃいましょう。

 

「ごめんね、スレイ。先にお魚にしましょう」

「にゃーん」


 もぎゃぎゃを置いて、とことことスレイと共に池に向かう。

 やだ、猫と横並びにあるくなんて、箒はなかったかしら。これは憧れの魔法少女な雰囲気が楽しめるんじゃない?

 お手紙も準備したら完璧ね。空は飛べないけど。

 

「ジジ。こっちに」

「にゃん?」

「あ、スレイだった」


 しゃがみ込んで手招きしたら白猫が寄って来てくれた。

 そのまま抱っこして、彼を胸に抱いたまま池に到着する。

 ふわふわしてとってもよい抱き心地。

 邪魔がいなければ、抱っこさせてくれるのね。もぎゃには毎日トウモロコシをもいでもらって、私は彼と一緒に池に向かうことを日課にしようっと。

 

『魚うそ?』

「うん」

『持っていくがいいうそ』

「ありがとうー」


 お、おや?

 今日は違う色の魚が入っているわ。

 鯉だって。佐枝子はイトヨリが食べたいな。

 この池さ。池なんだけど、海の魚が取れたりするのよね。

 今のところ、サバとアジなら取れた。

 

<魚を五種類を集めました。

 おともだち が追加されました。

 アイテムボックスにプレゼントが届いています。

 イベントクリアボーナスが送られます。

 ショップに並ぶアイテムが増えました。> 

 

 お、おお?

 種類とか意識していなかったけど、イベントとしてはいかにもよね。

 今度こそビーバーだったらいいな。

 池にビーバーとカワウソだと喧嘩しちゃうかなあ。

 そう考えた私はモグラをおともだちとして迎えることにしたのだった。

 モグラだときっと砂場よね。宝石をとってきてくれるといいなー。

 

 この後もイベントクリアが続く。ヒーバーよフィーバー。

 きっかけはとてもささいなことだったの。

 

 畑に戻った私は収穫後の畝の上でもしゃもしゃするルルるんを避けて種を植えようとしたのね。

 そうしたら、いつもと違う順番で種を撒いちゃったのよ。

 すると、あらビックリ。種の撒き方でイベントクリアしちゃった。

 

 イベントクリアで得たアイテムの中に作物の種まであったのよ。


「イルカくん。トマト、たまねぎ、水菜、春菊の種も撒いて」


 アイテムショップにも種がいつの間にか追加されていたのさ。

 まだ種はあるけど、畑に植えるものじゃないからね!

 

 今度はイルカに頼んで「花壇」を作成し、そこに朝回収した花の種と追加で得た「ひまわりの種」を撒く。

 ひまわりの種って、ルルるんが好きそう。

 見つかる前にささっと土の中に沈めたので大丈夫よ。

 

 ◇◇◇

 

 そんなあたふたとした一日が終わり、翌朝起きて外に出たら思わず歓声が出たの。


「すごい! 綺麗!」


 一面の花畑が広がっていたの。

 昨日撒いた花の種が一晩で花をつけ、満開になっていた。

 色とりどりの花が咲き乱れ、風に吹かれいい匂いが漂ってくる。

 

 ごろーんと花畑の中で寝ころび、んーっと伸びをした。

 

「でも、明日になったら全部種になっちゃうのよね……でも、二日に一回は楽しめるってわけね」


 気持ちよく動く雲を眺めていたら……。

 ブンブンブンと嫌な音が。

 

「ハチ! ハチよおお!」


 花の蜜に惹かれてハチがやってきたみたい。

 わ、私の安息が、ハチに。

 きいいいい。何とかしなきゃ。

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