百物語(月一更新)

@yuichi_takano

第一話「心霊写真の撮れるスマホ」(語り手:肥田芳弘)

「今夜、百物語をしようぜ」

 そんな言葉が噂のように広まった。

「参加したい人間は、合宿最終日のサークル飲みを抜け出して、宿舎の一番奥の部屋に集合してくれ。二十時ちょうどに始めよう」

 誰が言い出したかも分からない。本当のことかも分からない。

 それでも、その日の夜、一人、二人と飲み会を抜け出しては、最奥の部屋に入っていく。

 机の上には、蝋燭が百本と予備の分、それとライターがいくつか。そして、それらをうっすらと照らす、盆ちょうちん。

 これらの存在が、会合の開かれることを示している。

 また一人、襖を開けて入ってきた。空いている場所を見つけ、そのまま無言で座る。

 他の宿泊客などいない、古びた宿屋では、貧乏ゆすりのガサガサガサという音も、部屋中に響き渡ってしまう。

 と、突然、誰かのスマホがバイブレートした。持ち主はそれを確認して、周りを見渡す。全部で七人。

「よし、二十時だ。それじゃあ、始めようか」

 どうやら主催者だったらしい。彼がおおまかな百物語のルールを説明した後、最初の蝋燭に火を灯した。これから、長い、長い、百物語が始まる。

「それじゃあ、自分から。さっきも言った通り、まず蝋燭を点ける。その後、怪談話をして、蝋燭を消したら、次の人の番。オッケー?

 最初の話は、やっぱりベタな所で『心霊写真』と行こうか。

 あ、でも先に自己紹介しとこう。飲み会抜けて、こんなことしてるんだから、大体が幽霊部員だろ?そんなことないか?

 まぁでも一応、な。自分は肥田ひだ芳弘よしひろ、四年生、よろしく。

 まぁまだ後、九十九話もあるんだ、なんでこんな会を開いたか、とか、身の上の話、とかは追い追いってことで。

 じゃあ本題の『心霊写真』だ。なぁ、お前らは心霊写真って見たことあるか?

 ちょっと前まではさ、幽霊が写った、とか、首が切れてる、とか、良く言ったもんだったよ。コアな奴らだと、心霊写真の交換なんてしてたらしいな。

 だけどさ、最近だとめっきり聞かなくなっただろ?

 デジカメとかも安くなってるし、スマホだってほとんどの人間が持ってる。チェキ?だっけか、そうゆうのも流行ってるじゃないか。写真を撮る機会は、今の方が断然多いと思うよな。それでも心霊写真が撮れたって話は激減してる。

 なんでだと思う?

 確かに、現像する機会が減ったからかもしれない。誰でも加工ができるようになったから、心霊写真ってもの自体が面白くなくなったのもあるかもな。

 確かに、確かにそうかもしれない。だけどさ、自分はこうも思うんだ。

『カメラを作ってる会社が、自動で写真から幽霊を切り取る機能を入れてる』ってさ。

 つまり、写真を撮った時点で、幽霊が写ってたら、自動でそれを編集してるのさ。

『有り得ない』って?まぁ、確かに突拍子もない話かもしれない。でも、自分たちが知ってることなんて、氷山の一角なんだよ。知らない所で、そうゆう技術があってもおかしくはない、だろ?

 それにさ、心霊写真が写るカメラなんて嫌じゃんか。一部のマニアにはウケても、一般層は買わないだろうな。そしたら、どう考えても赤字になっちゃうだろ。だからカメラ会社は幽霊を消してる、そうだったら辻褄が合いそうじゃないか。

 まだ胡散臭いか?なら、これからそれを証明しようか」

 肥田は上着の内ポケットをまさぐり、一台のスマホを取り出した。薄暗くて良くは見えないが、どこにでもある普通のスマホのようだ。

「よいしょ、ほれ、これだ。

 これが何かって?これはな、ついこの間買ってきた、最新のスマホさ。だからこのスマホにも、『心霊写真を自動加工する機能』が入ってる。

 だけどな、ちょっといじって、その機能を無効化してあるんだよ。

 こう見えても自分、プログラマなんだな。おかげで就活もラクだったよ、合宿に来れるくらいにはさ。

 え?ただのスマホに見えるって?まぁ待てって。今から写真を撮って、これがただのスマホじゃないってところを見せてやるからさ」

 そこまで話すと、肥田は一枚の写真を撮った。もちろんフラッシュを焚いて。突然の閃光に周りは驚いていたが、それを気にも留めず、肥田は話し続けた。

「よし、撮れてるな。ほら見ろ。これがさっき撮った写真だ。首のあたりに赤い線。

 見えるか?これが心霊写真だよ。すごいだろ。

 いやぁ、よかった。上手くいって」

 そう言って肥田は、続けて写真を撮り始めた。気分が良かったのだろう、何度も何度もフラッシュを焚いていく。

 すると、突然、誰かがそのスマホに手を伸ばした。

「おい!何するんだよ!」

 肥田の叫び声と共に、ビリビリビリ、という不快な音が鳴り響く。

 誰かの手は、ビニールテープをひらひらと振りかざしている。なるほど、幽霊写真の正体は、レンズに付けた色付きテープだったのだ。皆が肥田に冷たい視線を向ける中、彼は拗ねた子供のように話を続けた。

「ちぇっ、つまんねーの。お前ら、ノリ悪いなぁ。じゃ、自分の話はこれで終わり。次の人どうぞ」

 肥田が蝋燭の火を消し、一話目が終わった。

 参加者は誰も気がついていなかったが、彼のスマホには一枚だけ、テープを剥がされてから撮影された写真があった。実はその写真の中では、本物の幽霊たちが蠢いていた。まるでこの会合の始まりを歓迎しているかのようだ。さぁ、これから長い、長い、百物語が始まる。

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