ラストラン

ラストラン

　あの日から大体五年が経ったろうか。月日だけを見ればそれ程長い時間ではない。だが俺にとって、この五年間。きっと人生でなくてはならないモノだっただろう。

　幾多のシートに座り、ハンドルを握った。

　一体どれだけの燃料を焼べただろう。

　一体どれだけの距離を走っただろう。

　一体どれだけの人間が、俺の助手席を通り過ぎて行っただろう。

　一体どれだけ……。

　俺は成長したのだろう……。

　アクセルを踏み込む足が、迷いと共に緩む。

　右手はハンドルに。

　左手はシフトノブに。

　右足はアクセルへ。

　左足はクラッチへ。

　クルマが体に同化していく。それはまるで手足のように。

　ラストランだ。

　そう呟くと覚悟を決め。アクセルを踏み込んだ。