神頼み勉強法
ミケ ユーリ
神頼み勉強法
ぼくは、小学4年生の時に、塾に行くことになった。
「このぬいぐるみは、勉強の神様だよ」
パパが、塾に入った記念にって、フワフワで抱っこするととっても気持ちのいい、真っ白な毛がとてもキレイな、パンダの神様をくれた。
「毎日、この神様に〝今日は分数の足し算をします〟とか、ごあいさつをして勉強すると、神様が覚えさせてくれるよ」
「わあ! 神様ってすごい!」
「大切にするんだよ」
「うん! ぼく、毎日ごあいさつするよ!」
パパもママも、塾に行く時にはまだお仕事でいないけど、
「神様、今日は国語です。漢字テストで100点とるよ!」
って、神様をなでながらごあいさつをして行くと、なんか自信とやる気が湧いた。
帰りは、ママが車で迎えに来てくれる。
車の中で、神様が待ってくれているんだ。
「神様、今日は旗の字をまちがえました。線が1本足りなかったんだ。ややこしい字だね。家に帰ったら10回書くから、覚えさせてください。神様、お願いします」
家に帰ったらすぐ、旗の字を神様の前で10回書いて、神様の目の前に突きつけた。
「神様、覚えた?」
次の日に起きたら、神様がちゃんと覚えさせてくれたかどうか確かめたくて、旗の字を書いてみた。
「ママ! 神様、ちゃんと旗覚えさせてくれたよ!」
「さすが神様ね!」
「ありがとう、神様! ぼく、もう旗忘れないよ!」
ぼくは毎日、勉強する前、終わる時、神様をなでながらごあいさつをした。
5年生の秋くらいに、神様がぼくのところに来た日に撮ってもらった写真を見たら、神様の白い毛が今と全然ちがった。
「ママ! なんか、神様の毛が薄汚いよ!」
「神様に薄汚いなんて言わないの! 汚れたのは、あなたがちゃんと勉強してる証拠よ」
神様が汚れると、ぼくはちゃんと勉強できているの?
「神様は、自分を汚してぼくに勉強を覚えさせてくれていたんだ! ありがとう、神様! ぼく、もっと神様が汚れるくらいがんばるよ!」
6年生になって、ぼくは受験する中学校を決めた。
ちゃんと、神様にも報告した。
「神様、今から過去問を解きます。まちがえても、神様が覚えさせてくれるよね」
過去問は、難しい。たくさんまちがえた。
「神様……こんなんで、合格できるのかなあ?」
バツがたくさんだ……。
だんだん、不安になってきた。
神様をなでる。
あ……前より、神様が汚くなってる。
「大丈夫だよね! 神様が汚いんだから! ぼくは、たくさん勉強してるよね!」
まちがえた問題を、神様に見せながら解き直す。
「神様、お願いです。覚えさせてください」
ぼくは、受験の日をむかえた。
緊張するから、車で中学校に行く時にも神様にいっしょに来てもらって、車の中でずっと抱っこしていた。
フワフワの毛を抱っこしていると、不思議と気持ちが落ち着く気がした。
中学校にまで連れて行くのはちょっと恥ずかしかったから、いつものようにごあいさつをした。
「神様、今から入試を解いてきます。神様、最後のお願いです。ぼくに問題をひとつでも多く、解かせてください」
よし! 大丈夫だ!
神様は、過去最高に汚い!
ぼくは、神様に車の中に座ってもらって、中学校に向かった。
合格発表の日も、ぼくは神様といっしょに車に乗った。
入試の日よりも緊張しているかもしれない。
ドキドキ、ドキドキ……。
ぼくは、神様を力いっぱい、抱きしめる。
ぼくの大好きな神様のフワフワな毛の感触も、今はなんだか感じない。
どんどん、力が入ってしまう。
神様、お願いします。ぼくの番号がありますように。
神様、ぼく、合格してるかなあ?
神様、不合格だったら、どうしよう?ママもパパも、がっかりしちゃうよ。
神様、神様、神様……
合格発表の時間になった。
たくさん番号が書かれた紙が貼られた板が
出てくる。
あるかな? あるかな?
「あった! ほら! ママ! パパ! 1番右上!!」
ぼくの受験番号を見つけた。
やった! 合格だ!!
「やったあ! がんばったねえ! すごい!」
ママが笑顔でぼくの頭をなでてくれる。
「えらかった! よく、がんばった!」
パパが笑顔でぼくに拍手をしてくれる。
良かった! ママもパパも、すごく喜んでる!
ぼくも、すごくうれしい!!
「そうだ! 神様に報告しないと!」
中学校を飛び出そうとするぼくを、ママが慌てて止める。
「待って! 合格証明書もらいに行って、手続きしておかないと!」
ええ―――、それ、すぐに終わる?
早く、神様に報告したいよ!!
以上の体験が、ぼくの代表作、
「神頼み勉強法」
の原形です。
目に見える神様に対して声に出して具体的に報告することで、自分がこれから何を学ぶのか、自分のミスは何が原因だったのか、自分の脳により強くインプットさせることができると言う研究結果が出ています。
さらに、経年変化により神様の見た目が変わることで、自分はそれだけ頑張っている、と自信が持てます。
この自信は、受験直前期のナーバスになりがちな時期にとても大切です。
そうして目的を果たした後も、神様は大きな心の拠り所となり、困難に出会った時に子供の支えになるのです。
ぬいぐるみひとつで合格だなんて、このぼくが、ぬいぐるみひとつで今の地位を築いただなんて、信じられませんか?
ご覧ください。
あなたがそんなの嘘だと思ったぼくの大切な神様は、今もほら、そこに。
今日もすぐそばで、ぼくを支え続けてくれています。
神頼み勉強法 ミケ ユーリ @mike_yu-ri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます