第21話 陥れられた私

 狭い部屋に戻り考える。


 まさかのあっさり魔王討伐。

 マジか……。


 魔王を討伐したら、後はエンディング一直線だ。

 その直前に、断罪イベントがある。


 確か、討伐の祝賀会で学園内でパーティーをするはず。


 そこでシルヴィの断罪があって、ざまあみたいな展開を挟んでから最後のエンディングがあるのだ。


 もう、時間がない。


 でも慌てるな、今日明日ですぐにパーティーはできないはず。

 落ち着く一週間後位だろうか。予測はつかないけど。


 どうしよう。

 それまでに身の振り方を考えておかなくちゃ……。



 私はさっぱりして考えようとお風呂に向かった。




 ふう。……はぁ。


 女子寮のお風呂に行くが、皆の目が冷たくて慌ただしく体を洗って脱衣所へ向かう。


 あれ?


 私の下着がない。


 思わず回りを見回すと、クスクスと声がする。

 嫌がらせか……。


 下着は洗面台に張った水の中に浮かんでいた。

 クソ。

 仕方なくノーパンで部屋まで帰るはめになった。


 人が多いときに風呂にいくのはやめよう……。




 しかし嫌がらせは終わらない。


「シルヴィさん。

 あなた今日はトイレ掃除の日よ?」

「え? あ、はい」


 声をかけられてトイレ掃除を一人でしていると……。


「ギャっ!」

「「あははは!」」


 汚水を頭からかけられる。

 アンジュが一生懸命縫ってくれた刺繍のハンカチが汚れてしまった。


 シャワールームでは上からまた水をぶっかけられ、心臓止まるかと思った。

 盗られないように持って入った服も濡れてしまったし。


 歩いているだけで、ヒソヒソと聞こえるように陰口を叩かれる。


 何でこんなことまでされなきゃならないのか。


 その理由は、ほどなくして明らかになった。



「レイモンド様、これ、お返しします」


 レイモンドの参考書に被害が及ぶ前に返却を試みた。

 レイモンドが私から参考書の束を引ったくる。

 その場にはヴィクトルとマルクもいたが、

 皆してウジ虫を見るような目で私を見てくる。



「……お前、信じられない奴だな」

「……」



 ヴィクトルが忌々しそうに呟く。

 私が無言で見やると、顔を歪めてとんでもないことを口にした。


「あれだけ仲良くしてたのに、裏ではアンジュのことを悪く言ってたんだろ?

 本当に酷い女だな」

「……何? 悪くなんて言ってないです」

「ふん。オレは聞かせてもらったよ。

 アンジュがガサツだとか、常識と恥じらいがない尻軽だとか言ってただろ!」

「へ?」

「へ、じゃないですよ……。

 しらばっくれないでください。

 ぼくたち、音声聞いてますから!」

「音声……?」

「とぼけるのか?」

「その音声、どこかで聞けます?」

「これだ」


 レイモンドが取り出したのは録音の魔法具だった。

 あー、こういうのもあるんだよね……。

 妙に現代的……。


 私は音声を聞いてみた。


『アンジュは……とても自信家で、

 ……に常識が通じないですね。

 あ、後ぉガサツで恥じらいがないです。

 …ビッチ、ま、尻軽みたいな?

 男囲ってるというか、

 ああいう関係はよくないと……』


「……」


 どう聞いても。

 ぶつ切りの編集されてるだろ!

 何でこんなの……。


 この音声、あれって……。


 つまり、エレオノーラ様、が!?


「これ、エレオノーラ様が?」

「エレオノーラ嬢? いや、違うが……」

「この音声、編集されてますよね?」

「は?」

「どう聞いてもぶつ切りじゃないですか!」

「確かに、違和感はある。

 だとしても、君が言ったことは事実だろ?」

「内容が違います!」

「君は普段からビッチだとか尻軽なんて言っているのか?」

「それは……!」



「……いい加減に見苦しいぞ」



 そこへ、クローヴィスが入ってきた。


 私に鋭く視線を送る。


「自分の非を一度も認めず、アンジュが許すことを良いことに、嫌がらせを続け、暴言まで……。

 これ以上は本当に目に余るぞ」

「ですが!」


 私が声を上げるが、憎しみしか感じないその眼差しで、吐き捨てるように言った。


「さっさと僕の前から居なくなってくれ。

 アンジュにも二度と近寄るな」

「……っ!」



 私は、走ってその部屋を出た。


 エレオノーラ様が、私を嵌めたのだろうか。

 いや、もうそうとしか思えない。

 走りながら考える。

 アンジュは……私を信じてくれるだろうか?


 ふと、顔を上げると、廊下の先に見たくない顔があった。

 理事長だ。

 遠目からでも青筋立てでかなりお怒りの様子が見て取れる。


「シルヴィ・ジラール……!」


 その剣幕に思わず後退る。


「お前ごときの分際で聖女様に嫌がらせとは、良いご身分になったものだな…!

 いや、もはや嫌がらせの範疇を超えている。

 聖女様に対しあれだけの所業をしたのだ。

 貴様、分かっているだろうな?」


 ゆっくりとこちらに向かってくる理事長の更に後ろに、金髪が見える。

 エレオノーラ様だ。

 不本意だ、お労しいといった表情を貼り付けこちらを見ているが、

 私と目があった途端、口の端が少し上がる。



 やっぱり、あの人だ。



「ふん、万死に値する罪を犯した我が身を嘆くのだな。

 あのお優しい聖女様がどれだけ寛大な処分を求めるとしても、

 お前の罪は消えないぞ!

 さぁ、牢屋にでもぶち込んでやろう」

「私はやってません!」

「まだ言うか!

 少し痛めつけないとわからないか!?

 せめて謝罪しろ!」

「ひっ!」



 理事長がなにかしようとしている。


 私は駆け出す。


 そこから無我夢中で荷物をまとめ、学園を飛び出した。

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