第19話 疑いの目
次の日。
なんだか視線を感じる。
いつもはアンジュに熱い視線を浴びせかけている男女がいるのを隣で感じているのだが、
今日は、私?
しかも、熱い視線じゃない。
なんか、ヒソヒソされてるし……。
アンジュにも視線はいっているのだが、
どちらかと言うとおいたわしや、と心配げなものである。
アンジュもそれは感じ取っているらしく、
訝しげに辺りを見回した。
「なんか、胡乱な目で見られてるぞ、シルヴィ」
「うん……なんだろ?」
「何やらかしたんだ?」
「やらかすならアンジュの方じゃない?」
「ハハ! 違いない」
笑いながら冗談を言い合う。
こういうときアンジュがいてくれて本当によかったと思う。
一人だったら部屋に逃げ帰っているところだ。
それくらい皆の視線は痛いものだった。
ほんとに、何かしたっけ?
歩いていく度、ヒソヒソと何か言われている。
だんだんアンジュがイラついているのがわかる。
私のテンションも駄々下がりである。
「なあ、おい」
「!? な、何でしょう聖女様っ!」
アンジュがついに手近な女子生徒をひっ掴まえて問い詰めた。
「今朝から皆、何をヒソヒソしてるんだ?
言いたいことあるなら言え」
「も、申し訳ありません!
ですが聖女様にではないのです!」
「……シルヴィが何したって言うんだ」
アンジュが言うと、彼女は意を決したように私を鋭く見やり、こう言った。
「し、シルヴィさんは聖女様の宝玉を盗んだんですよね?」
ええええええ!?
驚く私をよそに、女子生徒は私を睨みながら言い募る。
「許しがたいですよ!
聖女様が困る様をこんなに近くで見て楽しんでるだなんて!」
「いやいや、待て。誤解だろう」
「いえ、私聞いたんです。
聖女様、騙されてます!」
「私、盗んでない」
私が一応主張すべきところは主張するが、
彼女は全く聞く耳を持たない。
「泥棒は皆そういいますよ!」
「証拠もないのに?」
「証拠も何も、あなたの鞄から宝玉が出てきたって、皆知ってます!」
「それは、変な男が犯人なんだぞ?」
「その話も嘘でしょうね。全部知ってますからね!
聖女様、この人を信用してはダメです!」
「嘘じゃない!」
「アンジュ!」
そこへ、話を聞き付けた攻略対象たちがやって来た。
皆の目が冷たく私を見つめる。
そんな攻略対象たちに、アンジュが詰め寄った。
「おい、どう言うことだ。シルヴィが泥棒扱いされているぞ!」
「落ち着け、アンジュ」
「これが落ち着いてられるか!」
「昨日、エレオノーラに話を聞いた。
……しかし、彼女はそんな男一切見ていない、と」
「嘘……!」
アンジュはなお納得できないとクローヴィスに掴みかかかる。
「だからと言ってなぜシルヴィが泥棒なんだ!」
「他に居ないだろう?
君の行動を把握していて、君が宝玉を外した間に持ち去ることができる人物は」
「そんなの!」
「話が大事になると不味いと思ったのだろう。
男の話をでっち上げて、事態の収拾を図ったと言うところだな」
「そんな、私じゃない!」
マルクが、悲しそうに私を見つめる。
「ぼくたちも疑いたくはないけど……」
「では疑うな!
私はシルヴィが盗んだ等とは絶対に信じないぞ」
「アンジュ……」
アンジュの言葉に、私は泣きそうになるくらい嬉しくなったのだが、
他の皆は悲しげにため息をつく。
「一番身近な人に裏切られていると信じたくない気持ちはわかる」
「君はそれでもシルヴィ嬢を信じるのか……優しいな」
クローヴィスが私を冷たく見据えた。
「シルヴィ嬢。どういう動機かは想像するしかないが、
ここまで言ってくれる相手に非道な裏切りをしたのだ。
……今ならまだどうにかなる。
誠心誠意謝罪をすれば、だが」
「な、な……!」
なんで、やってもないことを謝らないといけないのか!
と叫びたかったが、言葉にならなかった。
周りの皆が私を非難の目で見つめている。
なんで、こんなことになったの!?
断罪イベントはまだ先だよね!?
アンジュだけが、私を信じると強い眼差しを向けてくれている……。
ど、どうしよう。
自分の無実を証明することはできないの?
そこへ、この場に不在だったリュカ先生が足早にやって来た。
「……皆さん、とりあえず授業の時間に入ってます。戻りなさい」
ハッとした生徒たちは、それぞれの場所に戻っていく。
めいめい私を睨みながら。
そして残った攻略対象たち。
リュカ先生が皆の顔を見渡す。
「急ですが、今から行かねばなりません」
「?」
「魔族が出現しました。しかも、ふたり」
「な!」
「おそらくは、あの時の魔族たちだと思われます。
すぐに身支度を整えて向かいましょう」
皆がうなずく。
リュカ先生は冷たく私を見やり、こう言った。
「あなたはしばらく部屋で謹慎とのことです」
「え!?」
「なぜだ!」
アンジュが吠える。
リュカ先生は無表情でたんたんと答えた。
「噂が広がりすぎています。
あなたの身の安全もありますので」
「なんだと……!」
「……わかりました」
私はアンジュに笑いかけた。
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
そう言って、部屋に戻ったのだった。
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