第4話 逆ハー阻止作戦その1
次の日、アンジュは筋肉痛でダウンしていた。
「し、シルヴィ……久しぶりだぞこの痛みは……。
助けてくれ……!」
「立て続けに踊るからだよ……」
「仕方なかろうが!」
ぶうぶう言うアンジュを無視して、痛みを和らげる魔法をかける。
「ふう、少し楽になったぞ。ありがとうシルヴィ」
ニッコリ笑って抱きついてこようとするアンジュを制して、制服を押し付ける。
せっかく美人の癖にこういう笑い方はあまりしないので、破壊力がある。
「ほら、早く着替えて」
*******
「ダンジョン行くぞ」
授業を終え、今日もアンジュに課題に連れ出される。
攻略対象と一緒じゃなくていいのかな?
ま、良いんだけど……。
アンジュと一緒だと楽できるし……。
そしてダンジョン攻略。
「ハッ」
「ギョエー!」
変な断末魔を上げ、モンスターが倒れる。
ダンジョンクリアである。
細身の剣を華麗に収め、アンジュが仁王立ちで私にドヤ顔を向ける。
「どうだ、すごいだろう」
「知ってるよ……何回あんたと潜ってると思ってるの」
私がそう言うと、キョトンとするアンジュ。
「ふむ、そうか……」
「アンジュ、一番はじめにダンジョン行った時も、
調子乗って剣振り回して筋肉痛になってたじゃない」
「はは、そうだったな。覚えているなら何よりだ」
「変なアンジュ」
「な、帰り、温泉行こう!」
「良いよー」
このダンジョンの近くには温泉街があり、アンジュのお気に入りなのだ。
最初はおっかなびっくり浸かっていたので、広いお風呂が初めてだったみたい。
まあ平民だから、そういうこともあるのかなと思ってたけど……。
このアンジュがゲームのアンジュとは違うなら、
温泉が初めてって中々ないよね。
プレイヤーさんは暑い国の生まれなのかな?
しかし今は温泉が大のお気に入りである。
脱衣所で服を脱ぎ捨て、テンション高く浴場に向かうアンジュを転ばないうちに制し、
かけ湯させている間に長い髪をアップに結んでやる。
いつも忘れるんだから……。
「ふう……極楽だ。やはりダンジョン攻略後の温泉は最高だな」
「同感〜」
少し粘りのあるにごり湯がアンジュの白く盛り上がった胸元を滑り落ちる。
まったくけしからんスタイルである。
あ、シルヴィたんだってスタイル悪くないからね?
アンジュにも、シルヴィは意外と着痩せする体型だなと変に褒められたし。
グラマーではないけど、小柄で華奢な割にバストがあるんだよシルヴィたんは!
まあ、アンジュは海外モデル並に身長はあるわ手足は細長いわくびれたメリハリボディだわで非の打ち所がないわけなんだけどね。
アンジュがザバッと立ち上がり、水風呂へ。
私は絶対やりたくないが、お湯と水風呂を行き来するのが好きなのだ。
お湯のピリピリ感がより際立ち、水の刺すような冷たさがたまらん、との言である。
盛り上がった形の良いお尻と、ほっそりしながらも筋肉のあるけしからん太ももを眺めつつアンジュを見送る。
思えば、変な人だよねアンジュって……。
私はのぼせないように縁に腰掛け、ヒーヒー言いながら楽しそうに水風呂に浸かるアンジュを眺める。
絶世の美少女が何やってんだか……。
「そろそろ上がる?」
「おう」
温泉から上がったあとは、フルーツ牛乳を飲むのもアンジュのこだわりである。
いや、教えたのは私だけどね。
二人して腰に手を当て、一気に飲み干す。
「ぷっはー!」
「やっぱりフルーツ牛乳に限るねぇ」
下着だけ身に着け、スキンケアをしていると、アンジュの視線を感じる。
鏡越しにアンジュを見ると、私の胸やらパンツやらをじっと見つめている。
「ん? ……何よ?」
「いや、そういえば昨日、ムラムラとか言っていただろう?」
「またその話?」
「男は、女の下着姿を見るとムラムラするのだろう?
ムラムラという感情がどんなもんか考えてたんだ」
「それで人のパンツ見てるわけ?」
「おう。それでな。
結論としては……なんだか、シルヴィのパンツは脱がせたくなるな」
「何その結論……」
ジト目で見るが、アンジュは涼やかな風が吹いてくる錯覚を覚えるくらいの爽やかな笑顔を向けてくる。
実は男も女もどっちもイケるクチなのか?
とりあえず、アンジュは私のパンツを脱がせようとはしなかったので少し安心して、帰路につく。
そうだ。まずはアンジュを説得しよう。
アンジュが逆ハールートをやめてくれれば全ては解決だし。
今何もしないならただのノーマルルートになって終わりだと思うから、バッドエンドもない。
平和に終われるかも。
アンジュ、私の言うことは結構聞いてくれるから(話が通じないときもあるけど)、
説得すればわかってくれるかもしれない。
「ねぇ、アンジュ」
「なんだ?」
とりあえず様子を見つつジャブを入れる私。
「昨日みんなと踊ってたじゃない?
……今、一番好きなのは誰なの?」
「一番好きな奴? シルヴィだな」
「……」
まさかの即答である。
いやいや、私と踊ってなかったじゃん。
いや待てよ、この回答はチャンスかも!
「私が一番好きなの?」
「おう。シルヴィが一番好きだよ!」
「く……」
満面の笑顔で好きだと言われると、言葉に詰まってしまう。
美少女恐るべし。
私は咳払いをして改めて問いかける。
「……こほん。私のことが好きなら、私のお願い聞いてくれる?」
「ん? なんだ? 悩みでもあるのか?」
なんでも言うが良いと胸を張るアンジュに、私は上目遣いでお願いしてみた。
「ねぇアンジュ。次の試験、私とふたりだけで行かない?」
次の試験が逆ハールート最初のイベントなのだ。
それに攻略対象たちが同席しなければ、ルートは破綻するのではないかという予想である。
アンジュは何かを思い出すようにぐるりと目を回すと、
あっさりと首を振った。
「いや、既に誘われてるんだ。すまないな。
約束は先約から守るのが私の信条だ」
「えーっ……」
そんなくそ真面目なポリシーあったの?
「誘われてるって、誰に?」
「昨日踊った全員に誘われた。
あいつらにはふたりだけとは指定されなかったからな」
「く……それで皆納得するかな?」
「するだろ。二人で行きたかったらそう言うはずだし」
「えええ……。やー、良くないと思うよ?
みんなにいい顔するのは」
私の言葉にアンジュが困った顔をする。
「友だちと一緒に行くといい顔することになるのか?
というか、みんなにいい顔をすると良くないのか?
たまには不機嫌な顔をしたほうがいいか?」
「ああ、違うって。八方美人が良くないってことよ」
「うむ、それはよく聞く話だが……」
「特に男女関係が絡むときはあんまり、ね?」
「男女関係……。
なるほど、つまりはいろんな男に粉をかけると問題だと言うことだな」
「そうそう! それそれ! だから、ね?」
「別に一緒に試験に行くくらいで粉をかけたことにはなるまいよ。
心配するな」
「く、ごもっとも……!」
「聖女としてあの連中と仲良くしておいたほうがいいのだろう?」
「ええ、はい……」
逆ハー阻止作戦その1、アンジュの説得は失敗に終わった。
折を見てまたやってみようとは思う。
私は諦めないぞ!
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