第134話 昔話?

数十分前。


国王ジンノ、王妃エリザベス、宰相クラマ、そして辺境伯ザンタの三人が王子たちとは別室で話し合っていた。話の内容は各々の過去の語らいだった。それぞれの王家の仕事の話とザンタの商人から貴族への成り上がりの話で盛り上がっていた。


「……まあ、私は両親の無罪を信じてくれた人たちの助力を得て商人の道を行くことができたのです。そこからは多くの人々と交流していきながら処世術や話術を磨いて商人の生き方を学び、最終的に貴族の地位をいただけるほどの大成功を遂げたのです。つらいことも山のようにありましたが、私は自分の人生を誇れます」


特にザンタの話は、他の三人にとても感情移入させられるものだった。


「そんなことがあったのか。私達の知らぬ間に多くの友を得て苦難を乗り越えてきたのだな。共にその道を歩むことはおろか助けになることができなかったのが悔しい限りだ」


「そうですわね。ザンタが己の家名を隠していたのは仕方ありませんが、どうにかできなかったのかと思えてなりませんわ」


「私がもっと有能であれば、ザンタさんの力になれたのでしょうか……」


悔しさ、後悔、悲しみ。そんな感情を抱いて暗い顔をする三人に対して、ザンタは純粋に自分の思いを伝えた。


「陛下に王妃様、それにクラマは国の政に力を尽くす義務があります。私のことを見つけ出したとしても、国のことを優先すべきです。そうでなければ私が許せません。かつて国と先代国王陛下に忠誠を誓った敬愛する我が父上のように。……気持ちだけで十分ですよ」


ザンタは曇り一つない笑顔で言った。気持ちだけで十分だとしっかり伝えたかったのだ。


「……だからこそ、力になってやりたかったのだ。もっとも、気付いた時には我が国に多大な利益をくれた大商人になっていたがな。だからこそ、男爵位を与えた。すぐにでも辺境伯の地位を戻してやりたかったのだが私も国王としての立場もあった。そう簡単に贔屓することができなかった」


「辺境伯の地位なら強引にくださったではありませんか。これからそれに見合う功績を上げなければならないと思うと胃に穴が開きそうですがな。ただでさえ商売の仕事もあるのに……」


それはザンタの本心だった。裁判所では国王に押されて辺境伯になったが、後で思い返すと荷が重い立場になったと思うようになったのだ。男爵から一気に辺境伯になるなど前例がない。そもそも、地位が高いということはそれだけ重要な仕事を任されるということでもあるのだ。今も商人としの仕事と一般的な貴族の仕事もこなしているというのに、そこに辺境伯となったことで、王家から重要な仕事を任されると思うと荷が重く感じざるを得ない。

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