第129話 異例の事態?
国王と宰相、それにザンタの三人は少し落ちる居てから席に戻った。いや、ザンタは証人席から宰相の隣の席に移った。異例の事態が起こったが、国王の話はまだ続いた。
「……さて。この場において冤罪で取り潰し及び没落などで貴族の地位を失った者が再び元の地位に就くという前例ができた。しかし、何もそういうことがザンタ……ミーク辺境伯だけというわけにはいかない。今は亡きコキア子爵の罪も冤罪だったのだからな」
「さようですね陛下。確かコキア子爵の子には一人娘がおられたはずですね。子爵位を次げるのは彼女しかいませんな」
「うむ。では、すぐにでもここに来てもらおうではないか。傍聴席にいることだしな」
国王の言葉に周囲が動揺した。国王の言葉に頭がついて行かないのだ。
「コキア子爵?」
「確かに冤罪だったけど……」
「死んだって言ったよな?」
「その家もソノーザ家に潰されたんだろ?」
「今、どうするんだよ?」
そして、それは彼女も同じだった。
「えっ? な、何を言っているの?」
傍聴席の最後部に座るミルナが一番動揺していた。国王の言っている『コキア子爵の娘』とは彼女自身のことを指して言っているのだから。
「ミルナ」
「え、エンジ様?」
動揺を隠せないミルナだったが、エンジがそんな彼女の手を取って笑顔を向ける。
「さあ、行こう。国王陛下がお呼びだ」
「ええ!? 行くってまさか!?」
「そのまさかさ」
「ええ~!?」
更に動揺するミルナだったが、結局エンジに連れられて国王の前に立つことになった。
◇
裁判所で異例の事態が起こった。侍女服を着た元子爵令嬢が国王の前で自己紹介することになったのだ。
「ほう、そなたがミルナ嬢か」
「お、お目にかかり光栄です。わ、私は侍女をしているミルナ・ウィン・コキアと申します。ご、ご存じ上げる通り我が父は今は亡きコキア子爵でありました……」
サエナリアの専属侍女として裏で立ち回ってきたミルナだが、流石に国の頂点に立つ国王を前にすると緊張せざるを得なかった。ただ、隣にいるエンジは堂々としていた。
「陛下、彼女の言っていることは間違いありません。そして、私エンジ・リュー・アクセイルの婚約者でもありました」
「え、ええ~っ!? エ、エンジ様、何を言っているんですか!?」
「事実だろ。公にはならなかったけどな」
「そ。そそそそそそれは……!」
ミルナの顔が真っ赤に染まるが、エンジの言っていることは事実だった。エンジとミルナが子供の頃……まだコキア家が貴族として健在だった頃に二人の婚約が決まっていた。それを公にする直前にコキア家が没落して無くなってしまったのだ。つまり、二人の婚約の話も自然消滅していたのだ。
「(エンジ様はどうして今更そんな話を!? もしかしてこれから起こることは……!)」
これから何が起ころうとしているのか察したミルナは、顔を赤く染めたまま頭の中が整理されていく。その間にも話は進んだ。
「陛下が、今は亡きコキア子爵の名を上げたのはコキア家の復帰を考えてのことですね?」
「その通りだ。コキア子爵の肉親がそれを継ぐ立場にあるのだが、今は彼女しかおらん。我が国で貴族の爵位を告げるのは男だけだ。このままではコキア家の再興は難しいのう」
「!(まさか、そこまで計算して……)」
ウィンドウ王国では貴族の当主になれるのは男だけだ。貴族の家で一人娘が家を存続する方法と言えば婿養子を取るか親戚から男の養子をもらうしかないのだ。つまり、今のミルナの場合で例えるなら婚約者に継いでもらうしかないということだ。
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