第125話 激怒?

「陛下! 我が娘サエナリアが行方不明になった原因がわかりました! それはこの男ザンタ・メイ・ミークによる誘拐です! この男は私に恨みを抱いていました。それで貴族に戻ったのをいいことに、己の娘を使ってカーズ殿下を誘惑しサエナリアを騙して友人に成りすました。この男は私を裁判にかけるためにカーズ殿下を惑わしサエナリアを誘拐したに違いありません! この男は罪人です。サエナリアの誘拐容疑で捕らえるべきです!」


途切れることなくザンタが自分を陥れた、サエナリアを行方不明にした、と言い張るベーリュ。突然立ち上がって顔を赤くして何を言い出すかと思えば……ベーリュの行動に呆気にとられる。そう思う者は多かった。


「何やってんだよ。あのくそ公爵」


「悪あがきも酷くなったな」


「自業自得のくせにまた人のせいにするのね」


「自己中の極みだな」


「見苦しいわね」


それは王族も同じだった。いや、王族だからこそ余計に苛立ちを感じていた。


「くっ、くっふふふふっふ! な、何を言い出すかと思えば、今になっても罪を押し付けようとするとはな……こ、ここまで往生際が悪いとは………………よくそんなことが言えたものだ!」


「うっ!?」


国王はベーリュの言い分を理解すると、初めは笑いをこらえるのに必死な様子だった。だが、途中で怒りに代わって言葉を吐き捨てた。


「いいか! ザンタがサエナリアの誘拐? そんなことは不可能だ! ザンタは今も貴族でもあり商人でもあるのだぞ! 商人とは周りからの信頼を重視する。そんな男が商人として信頼を失うような真似をするはずがなかろう! それにミーク家には今も借金があるのだ。誘拐などという行為に使う金が無いほどにな! それにこの裁判のことも伝えた時にザンタ本人に『自分の家のことを調べて冤罪であることを証明してほしい』と希望したから過去のことも今のことも調べ直したのだ。その結果は白! つまり、お前の言うような策略など存在せん! 見苦しいにもほどがあるぞ! 貴族としての尊厳すら失ったか、ベーリュ・ヴァン・ソノーザ!」


「…………(くそう)」


国王が怒りを露わにした。そんな姿を初めて見た者たちは裁判所内では多く、その誰もがとても驚いた。息子たちでさえ例外ではなかった。


「父上……」


「親父……」


「……(始めて見た。あんな父上は)」


ベーリュも驚きつつ、国王に怒鳴られ気力を無くす。確かにそこまでされていると言われれば、これ以上の反論はない。そんなベーリュを見て、ザンタは嫌そうに語る。


「はぁ……こんな男に我が家が一度潰されたと思うと情けない限りです。怒りよりも呆れと言う気持ちが強い。少なくとも、私だけは。他の者は知らないがな」


「そうですね。では、次の方どうぞ」


宰相の言葉に応じて新たに人が現れた。今度は、修道服を着た女性だった。


「そ、その女は………?」


「彼女は貴方のせいで人生を狂わされた平民の方ですよ。貴方の弟に命を救われましたがね」


「っ!? ………そうか、あの時の!」


宰相に言われて気付いた。ベーリュにとって、彼女はあの時に弟に助けさせるために利用した女だったのだ。退学した後は行方も気にしなかった平民の学生だった女性に過ぎなかったが、その女も証言者としてベーリュの前に現れたのだ。


「(あ、あんな平民の女までわざわざ見つけ出したのか?)」


「彼女にも証言していただくことになっています。貴方の罪をね。言っておきますが他にも証言したい方がいますのでよく聞いてくださいね」


この後、宰相の言う通り、彼女を含め多くの証人が証言した。それらの証言のたびにベーリュがいくら吠えようとも正論をもって反論されるのであった。

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