第124話 策略?

「それでは、」


「待ってください。私からまだ言いたいことがあります」


裁判長の言葉を遮って、宰相が手を上げて口を挟んできた。国王は分かっていたのか、驚きもせず、視線を向ける裁判長と宰相に頷いた。


「宰相。構わん、申してみよ」


「はい。ソノーザ公爵、私の友人たちに貴方に会って文句を言いたいという方々がいます。どうぞ」


宰相の呼びかけに応じて、一人の男が現れた。スキンヘッドで碧眼の壮年の男だ。赤と白を強調した商人の服を着ている。


「久しいな、ベーリュ・ヴァン・ソノーザ。私はザンタ・メイ・ミークだが覚えてるか?」


男、ザンタはベーリュに向かって笑いかけた。ただ、その眼は全く笑ってはいない。むしろ怒りを込めたような目をしていた。


「そ、その名は………!」


ベーリュはその名を覚えている。若かりし頃の自分に厳しい人物であり、それが気に入らなくてその妹を利用して家ごと陥れた男の名だ。それにその顔は顎髭を生やしてはいたが、確かにベーリュの知る『ザンタ・メイ・ミーク』の顔に面影がある。本人とみて間違いない。


「ほ、本当にあのザンタなのか? まだ、生きていたのか!? 妹のように死んだのではなかったのか!?」


ザンタの妹が死んで、その後の動向が何も確かな情報を聞いたことがなかったため、ベーリュはザンタとその両親も野垂死にしたと思い込んでいた。いや、そうなっていてほしいと思っていたのだ。


「妹は死んだよ、家が取り潰された後に『私のせいだ』と言って首をつって自殺してしまったさ。両親も十年前に他界したよ。その様子だと、私が商売に成功して貴族に戻ったことを知らなかったのか? いや、この場合は『商売に成功して貴族に戻れた男』が私だと知らなかった、と言うのが正しいな」


「くっ!(そういうことか、しまった!)」


ザンタは馬鹿にしたようにベーリュに言い放つ。言われたベーリュは悔しがるが何も言い返せない。


「ふむ、その様子だと実は私の顔も名前も忘れてしまったのではないか? お前の頭の中では死んだと思われていたようだしな。何しろ、我が家名ミークの名をもつ娘がカーズ殿下に絡まれても何の動きもなかったのだからな」


「か、家名? ……ああっ!? まさか!?」


ベーリュは思い出して、証人としてきた少女とザンタを見比べた。この裁判の証人の一人であり実の娘の親友だという『マリナ・メイ・ミーク』という少女を。


「(サエナリアの友人がこの男の娘!? こ、こんなことが起こりうるなんて……はっ! もしや私が裁判にかけられることになったのはこいつの策略なのではないか!?)」


ベーリュは娘の友人関係から行方不明事件にまでの全てが、自分を追い詰めるためにザンタが仕組んだのではないか、という推測した。


「(思えば、あの王太子が身分に差がある男爵令嬢に入れ込むことがおかしいんだ! その上、婚約者のサエナリアと友人になる? きっと私を陥れる策略だったに違いない! おのれぇ! そんなことは許さん! こうなったら、お前も道連れにしてやる!)」


ベーリュは全てがザンタが悪い、すべての元凶だと思い込み、怒りの形相で立ち上がった。ザンタを道連れにするために。

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