第121話 最低?
読み上げられた日記に記されたベーリュの数々の悪事、それらを聞いてしまった傍聴席の誰もが絶句した。あまりの罪の数々に言葉の出ないのだ。大罪人である当の本人でさえも。
「…………(お、終わった)」
ベーリュは呆けた顔になった。まるで魂が抜けたと言った感じに。隣に座るネフーミはカタカタと震えながらそんなベーリュを凝視していた。
「あ、あなた……(この人、そんなに多くの罪を重ねて今の地位にいたというの?)」
ワカナは相変わらず縛られているのにもがこうとしている。実の父親の罪を聞いても自分のことしか考えていない。
「ん~、ん~(このおっさんのことはどうでもいいから早く私を開放してよ! 苦しくて仕方がないわ!)」
国王は冷たい目でニヤリと口を歪めてベーリュを煽るように問い質す。というより実際煽っている。王妃や息子たちが嫌そうな目を向けていてもだ。
「くっくっくっ、ベーリュよ、なあ、どんな感じだ? 日記の中に記されつくした己の罪を読み上げられた感じは? しかもそれが実の弟の日記によるものだというとなると皮肉が効いているとは思わんか? ん?」
「へ、陛下……(く、くそぉ。何て嫌な王だ!)」
国王のあまりにも嫌な言い方にベーリュは正気に戻った。そして、顔が赤くなるほど怒りがこみあげてくる。それと同時に少しでも反撃しようという気持ちも沸き上がってきたのだ。
「(少しでも反撃してやる。まずはあの日記からだ。私の罪に関する証拠は今のところ、あれだけではないか! そんなものがどれだけあてにならないか証言してくれるわ! だてに公爵をやってきたわけではないのだ!)」
沈んだ気持から一転して怒り心頭になる。国王の煽り方はそれだけ酷い。今、それが向けられるベーリュは頭を働かせて反論する言葉を思いついた。反撃して、あわよくば逆転するために。
「陛下! お言葉ですがその日記は私の罪の証拠になど決してなりませぬ!」
「ほ~う。何故かね?」
愉快そうに笑って聞き返す国王に対してベーリュは真剣な顔で反論を語る。多くの貴族・学生たちが様々な気持ちで見守る。
「私と弟のフィリップスは兄弟仲は険悪なものでした。弟はいつも生徒会に所属していた私に対して劣等感を感じ、挙句には嫌っていてろくな会話すら成り立っていませんでした(間違ってはいない。奴は私によそよそしかった。家から出て行ったのもきっと私に対する劣等感に違いないのだ)」
焦る思考で弟フィリップスに対して都合のいい解釈をするベーリュだが、実際は違うことは分かっている。非道な手段ばかり行うベーリュを恐れて家を出て行ったこと。それ以前から兄に対して劣等感よりも苦手意識があって会話そのものがベーリュの一方的なものでしかないことも。
「そんな弟のことです。きっとありもしないことを日記に記して己を慰めていたにすぎません。いや、それどころか日記に記されている非道の行いの数々は弟の手によるものだった可能性すらあります!」
「「「「「っ!?」」」」」
「……何だと?(弟になすりつけるつもりか。何て男だ、最低野郎が)」
国王の顔から笑みが消えた。代わりに冷たい無表情になる。動揺する周囲の者たちと違って、冷静にベーリュの言葉に耳を傾ける。
「そうではありませんか! そもそも、あんな弟の日記が私の罪の証拠になるなど馬鹿げているのです! 下手をすれば、私に己の罪を着せるためにこうなうように仕向けたという考えだってありえるでしょう! そうですとも、きっと我が弟フィリップスこそが最低最悪の大罪人なのです!」
「……そうくるか(兄弟関係は最悪なのは間違いないだろうな。兄の方がこうなるのだから)」
国王は心が冷め切った。ベーリュが極悪人であることは分かっていた。弟の日記を証拠だと突き付けても、その弟に罪をなすりつける可能性も予測していた。だが、実際にそうする様子を見せられると怒りを通り越してあきれ果ててしまった。その思いは、王妃と三人の息子、それに事情を知る数少ない者たちも同じ思いだった。
「「「「「(最低だこいつ)」」」」」
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