第107話 噂の審議?

「次兄レフトンの言う通り、私は学園を中心にサエナリア様の手掛かりを探しました。最初に目をつけたのは、一時期に長兄カーズが懇意にしていたと噂されていたマリナ・メイ・ミーク様でした。彼女はサエナリア様とも親友だと聞いていたのでサエナリア様の行方について何か知っているのではと考えて詳しい話を聞かせてもらいました。残念ながら、マリナ様からサエナリア様の手掛かりを掴むことはできませんでした。しかし、決して無駄ではありませんでした。マリナ様のおかげで兄カーズがサエナリア様を蔑ろにしていたという証言を聞けました。それにマリナ様自身は兄カーズに何の情も抱いていないことも嘘偽りない本心として聞かせてもらいました。マリナ様はただサエナリア様と一緒にいたいだけで、兄カーズに付きまとわれていただけでした」


傍聴席から若者の声でざわめきが起こる。特に若い声が。


「うへえ、カーズ殿下ってストーカーかよ」


「男爵令嬢に入れ込む王子ってカッコ悪」


「今は……ナシュカ殿下が凛々しく見える」


「ショックよね~、顔と中身のギャップありすぎ」


「私は、マリナ様に同情するわ」


裁判を聞いているのは貴族の大人だけではない。学園に通う学生たち、貴族の令嬢令息もこの場所に来て裁判を見守っていた。その中には三角関係の噂の真偽を知りたい者たちもいた。たった今、彼らが知っりたかった事実が語られたというわけだ。


「兄カーズの愚行は聞くだけで耳が痛くなるようなことでした。後で調べて確かなことだと判明し、私は王家の者としてマリナ様には深くお詫びしました」


「マリナ嬢。事実ですか?」


裁判長は事実確認のために、証人として裁判に来た男爵令嬢マリナ・メイ・ミークに問いかける。


「はい。ナシュカ殿下のおっしゃることは全て事実でございます。カーズ殿下とわたくしの間には、カーズ殿下の一方的な思いでしかありません。……わたくしの力不足でサエナリア様の手掛かりは見つけられなかったことに関しては悔しい限りです」


裁判長はカーズを振り返る。若干嫌そうな顔に見えたのは見間違いではない。


「カーズ殿下。事実ですか?」


「……はい。弟ナシュカとマリナ嬢の言っていることはすべて事実です。すべては私の思い込みでした……」


「……そうですか」


「「「「「(最低最悪の王子だ)」」」」」


マリナの次に聞かれたカーズは、素直に事実だと認めた。傍聴席に座る誰もが老若男女問わず、再びカーズに冷たい目を向けた。その中には、侮蔑の声を漏らす者、怒りと憎しみすら抱く者までいた。期待されてきた王太子だけあって失望する思いが大きいのだ。


「これが三角関係の真実……元凶は王子か……」


「結局、カーズ殿下のせいじゃん」


「王族の長男なのにこんなろくでなしとは……先が思いやられる。いや、先もないか」


「廃嫡されてよかった。王太子とか無理だろ」


「残り二人の王子が我が国の大黒柱決定ね」


傍聴席からダメ王子とか馬鹿王子とか言われてもカーズは否定できない。むしろ本人ですら無感情に肯定する始末であった。かつてのカーズならばそういう気持ちは起きないだろう。


「(これが俺の評価……正しい評価だな……)」


反省しきったカーズはこの場で感情的になるような愚行は起こさない。彼なりに代われた証でもあるのだろう。

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