第104話 第一王子?

公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザが行方不明になってから約一ヶ月後。遂に裁判が始まろうとしている。


場所は貴族裁判所で、国王夫妻や多くの貴族を集めた裁判が始まった。裁くのはウィンドウ王家、裁かれるのはソノーザ公爵一家だ。裁く内容は長女サエナリアの虐待とソノーザ家当主ベーリュの過去の罪状、ついでに次女ワカナの不敬罪。


「遂に始まるな。ソノーザ家の断罪。どうなるんだろうな」


「ソノーザ家は落ち目に、最悪取り潰しか」


「サエナリア様は結局どうなったのかしら」


「可哀そうな令嬢様だよな」


多くの貴族が見守る中、ソノーザ家に対する誹謗中傷がどこからも聞こえてくる。ソノーザ一家にとっては耐え難い屈辱だが、下手に何か言うことができず顔を青褪めるしかない。そんな中、裁判長が入室してきた。


「皆さん、大変お待たせしました。国王陛下、準備ができました」


その直後、その場にいる全員が姿勢を正した。いや、被告人以外と言うべきか。裁かれる側のソノーザ一家は夫妻が顔を青褪めたままで、次女のワカナはあまりにも喚き散らすために猿轡を装着されて手を縛られているのだから。


「静粛に。これより裁きを始める」


更にジンノ国王の言葉で集まった者たちは更に気が引き締められる。この場にいる誰もが緊張感を一気に引き上げられた。


「それではこれよりサエナリア・ヴァン・ソノーザ令嬢の行方不明事件及び、その過程により発覚したベーリュ・ヴァン・ソノーザの過去の多くの罪に対する裁判を行います」


裁判長が高々に宣言する。


「まずは、第一王子カーズ・フォン・ウィンドウ殿下。今回の経緯をご説明ください」


「「「「「(第一王子っ!?)」」」」」


最初に証言台に立ったのは王太子の座から降ろされたカーズ。その姿に多くの者が驚かされていた。何故なら、カーズが姿を現したのは一カ月ぶりだからだ。


「おい、カーズ殿下だぞあれ」


「よく裁判に顔を出せたな。いや、出させられたか」


「あの『元』王太子、酷い顔になったわね。当然の報いだけど」


「ショックよね。あんなに女性の人気だったのに婚約者を利用してたなんて」


「あいつのせいでサエナリア様がいなくなったんだ。あいつも落ち目だよ」


カーズはサエナリアと言う婚約者がいながら男爵令嬢に入れ込んだ挙句に、勝手な思い込みで悲しませたという話が広まってから社交界に姿を現さなくなっていた。しかもその間に、学園での成績がサエナリアの助力によるものだったということが発覚して一気に信頼を失っていた。もちろん、女性たちの人気も失った。今では学園にカーズの味方はほとんどいない。


「サエナリア様、おかわいそうに」


「もう会えないのかしら。もっと積極的意に関わればよかったわ」


「サエナリア嬢って、今は他の公爵家とかに養子にしたいっていわれてんだよな?」


「ああ。ソノーザ家出身ってのはもったいないくらいにな」


「最低の婚約者と最低の家族のせいで人生を棒に振るったのかと思うと不憫でならないよ」


皮肉にも、それがきっかけでサエナリアに対する同情の声が大きく広まった。健気に尽くしてきたのに婚約者に搾取され蔑ろにされた哀れな御令嬢と。


「(ふっ、俺も酷い言われようだな。当然だな)」


今のカーズはだいぶやつれていた。見るからに一か月前とは別人に見えそうもなかった。だが、その目はギラギラと輝いており、決意に満ちた真剣な顔であった。自分に対する誹謗中傷の声を受け止められるくらいには精神的に持ち直してもいる。


「はい。私、カーズ・フォン・ウィンドウより説明させていただきます。私は一か月前に元婚約者のサエナリア嬢が一人の令嬢を苛めていると誤解して罵倒しました。そのせいで彼女の心を傷つけてしまいました」


多くの貴族、特に夫人や令嬢から侮蔑の目を向けられるカーズ。すぐに気づけたがカーズは構うことなく受け入れて経緯を語り続ける。


「誤解だと分かった後日、私はサエナリア嬢に謝罪するためにソノーザ公爵家を訪れました。迎えた公爵に謝罪する理由を正直に説明していました。その最中にそこにいるワカナ嬢が乱入してきたのです」


「…………っ!? …………! …………!」


多くの者たちの視線がワカナに向けられる。当のワカナは怒りと憎しみに満ちた目をカーズに向けていた。猿轡をされながらも怒っていることが分かるほど顔が歪むようだと、自分が悪いということが分かっていないのだろう。王族に無礼を働いたばかりか貴族裁判所で喚き散らすのだ。相当教育が行き届いていないことが誰が見ても理解で

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