第103話 裁判当日?

公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザが行方不明になってから約一ヶ月後。ソノーザ家の屋敷で少女の叫ぶ声が響き渡っていた。


「何でよっ!? 何で私が裁判所なんかに行かなきゃいけないのよ!?」


「我慢しなさい!」


「黙って言うことを聞け!」


声の主はこの家の次女のワカナ・ヴァン・ソノーザ。サエナリアの妹だ。彼女は両親ともども裁判に出席することになっていたが、納得できないために大暴れしているのだ。


「裁判って何よ! いなくなった女のために私まで巻き込むことあるの!? おかしいわよ! 行くなら二人で行ってよ!」


そんな娘に手を焼いているのは、長女を蔑ろにして次女を可愛がりすぎた母親のネフーミと家庭を顧みなかった父親のベーリュだった。ネフーミがワカナを羽交い絞めして、ベーリュが説得している最中だ。


「仕方がないのよ! お願いだから一緒についてきて!」


「お前も原因だろうが!」


「意味わかんない! 嫌だから絶対行かない! 親の二人の方が責任大きいくせに私を巻き込まないで!」


「「……っ!」」


駄々をこね続けるワカナにはもう容赦するわけにはいかないと思ったベーリュは、後ろを振り返って使用人に命じる。


「おい! ワカナを縛り上げて猿轡を取りつけろ!」


「へ?」


「貴方! 何をおっしゃるの!?」


「……旦那様、よろしいので?」


ワカナが呆けた顔に、ネフーミが驚いた顔になるが、使用人のウオッチは顔色変えずにベーリュに確認する。


「構わん! 容赦は不要だ!」


「……かしこまりました。では、縄と猿轡を持ってきてまいります」


ウオッチは物置に向かっていった。かつては長女の部屋とされた物置に。


「う、嘘でしょ? こんな美少女を縛って猿轡? 頭おかしいんじゃないの!?」


「ほ、本気なの、貴方!」


「当たり前だ。そうでもしないと大人しくせんだろ」


吐き捨てるように本気だというベーリュを見てワカナもネフーミも青ざめた。


「お、お母様! このおっさんを何とかしてよ! 私の美貌に傷がついてしまうわ!」


「わ、私は、どうすれば……(それでも、ここでワカナを放すわけにはいかないわ)」


ジタバタと暴れ続けるワカナだったが、ネフーミは決して娘を放そうとはしなかった。流石に今回ばかりはワカナの我儘を通すわけにはいかないことくらい理解しているからだ。


やがて、ワカナは戻ってきたウオッチによって縛られて猿轡を取り付けられるのであった。





「もがー! もがー!(やだやだやだやだ! 何で私がこんな目にー!)」


屋敷から縛ったワカナを連れて歩くソノーザ公爵夫妻と執事のウオッチが出てきた。四人は用意してあった馬車に乗り込んだ。そして、そのまま馬車で裁判所に向かっていった。


「ワカナ、もう暴れないで。痛いだけよ」


縛られた状態でもワカナはもがきあがこうとする。そんなワカナを心配するネフーミに対して、ベーリュは冷たい目を向けるだけだった。


「何を言っても無駄だ。気が済むまでさせてやれ。お前なら分かるだろ?」


「それは……」


ネフーミは言葉に詰まる。流石の彼女もこの一か月で娘たちのことで深く反省したつもりでいるのだ。時折、ワカナに対して無駄に気遣いそうになるが、前よりはましになったと言える。


「とにかく、今は裁判のことだけを考えろ。ワカナのことはその後だ」


「……分かったわ」


もう何も言わなくなった夫婦。そんな二人を心の中で嘆くのはソノーザ家に仕えてきた執事のウオッチだった。


「(旦那様も奥様も……反省してくださるのが遅すぎましたな……。今日の裁判で全てに決着がつく。それでソノーザ家も終わりですね……)」


馬車はまっすぐに王都の裁判所に向かう。

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