第94話 顔?

使用人二人に噛みつくように怒鳴るワカナだったが、近くにいたレフトンたちの顔を見ると一転して笑顔になった。


「あら? あらら~? 何かいい顔した男たちが三人もいるじゃない。顔つきからして騎士っぽいし……。ねえ、そこのあなたたち?」


「「(ま、まさか!)」」


突然、ワカナはレフトンたちに声を掛けたのだ。笑顔でそれでいて相手を見下すような目でレフトンたちの顔を眺めている。実に不快感を与える顔つきだ。何のつもりか知りたくもないレフトンたちは、不愉快で仕方がないし関わりたくもない。嫌そうな顔を隠しもしなかった。


「……俺らに何か用か?」


「ふっふっふ、光栄に思いなさい。今からあなたたちをこの私の使用人に雇ってあげるわ。偉大なソノーザ公爵令嬢であるこの私に泣いて感謝なさい」



「「「「「はあっ!?」」」」」



……その場にいるワカナ以外の全員が声を漏らして呆れてしまった。出会ったばかりで素性も知らない男三人に向かって顔がいいからなどと言う理由で偉そうに使用人として雇ってやるというのだ。仮にもワカナも公爵令嬢のはずなのだが第二王子の顔をよく知らないようだ。


「(う、嘘だろうこの女。たまたま目にした男を何も知らないで使用人にしてあげるだと? 一体どんな思考回路してんだよ、学園にいる時よりも質が悪い性格してんじゃねえかよ! こんなのがサエナリアさんの妹!? ……あの人がどんだけ苦労したかよく分かるぜ……)」


「(こ、こんな女がこの世にいようとは……! 本当に貴族令嬢なのか疑わしいレベルだぞ! ……ミルナがサエナリア様の専属使用人で本当に良かった! サエナリア様には感謝しなければならないな)」


「(こんな女が…………いや、もう考えたくない。早くこの場から去りたいな)」


第二王子レフトンと側近二人。その素性を知らないから偉そうにしているワカナの態度に頭を抱えるのは執事のウォッチだった。ソノーザ公爵家のことは見放した身の上だが、仮にも執事として仕えてきた主の娘が今もこのありさまだと嘆かずにはいられないのだ。


「(ワカナお嬢様……。はあ、私がもっとしっかりしていれば……!)」


一方、侍女のミルナは凍りつくほど冷たい目を向けていた。主のサエナリアの妹であっても、情を掛ける理由は全くないようだ。


「(この女は……。無理やり出てくるなんて、思ったより恐ろしい方でしたね。ですがこれはレフトン殿下がソノーザ公爵家に対する悪感情が強くなるチャンスと見るべきでしょうか。それにここで不敬を働いてくだされば、この女個人が罰せられることでしょうね。いや、今ので十分かもしれません。王家の方を使用人として雇うなど……)」

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