第6話 倉庫?

ベーリュは意を決してドアノブを回してドアを開いた。すると、目に飛び込んできた光景は、貴族の令嬢の部屋ではなかった。


「な……」


「え……」


「ここは……」


「…………」


部屋の中は安物のベッドとイスとテーブルがすぐ手前にあった。それだけで不自然だが、それ以外にも十分すぎるほど問題がある。


宴会や誕生日パーティーに使われるような装飾品の数々、冬にしか使わない防寒具、客用の予備の雑用品、部屋の3割を占める大量の本、その他もろもろがしまってあるのだ。つまり、普段屋敷に飾らない物ばかりということだ。こんなものを見た両親と執事が思わず口にしたのは……


「「「倉庫(!)……?」」」


まさにその通り。サエナリアの部屋は倉庫扱い。いや、倉庫こそがサエナリアの部屋になったのだ。


「その通りです。サエナリアお嬢様はこの部屋で過ごしてきました」


「「「っ!?」」」


とんでもない部屋を見た3人の疑問に答えたのは、サエナリアの専属使用人の侍女だった。彼女はとても寂し気に部屋を眺めていた。


「見ての通り、ここは倉庫です。サエナリアお嬢様に与えられた部屋が倉庫でした。お嬢様は文句ひとつ言わずにこの部屋を使い続けました」


侍女の告白を聞いた3人は、驚愕と困惑でおかしくなりそうだった。


「な、何ということだ……姉妹でこんなにも差をつけるとは……」


「き、貴族の御令嬢の部屋としては不適切極まりない……」


「ど、どういうことなのよ! どうして私の娘に、サエナリアにこんな倉庫なんかを自室として与えたのよ!」


ネフーミは侍女の服の襟を掴んで叫んだ。執事が咄嗟に止めようとする。


「奥様、落ち着いてください。彼女を攻めてもどうにもなりませんよ」


「だって、だって……!」


「止めないか、見苦しい!」


執事とベーリュが止めてもネフーミはその手を掴んだままだった。ただ、ネフーミがその手を離さなくても侍女の鋭くて冷たい視線は変わらなかった。更に爆弾発言を告げるのだった。


「何をおっしゃっているのですか奥様? 奥様とワカナお嬢様ですよ。この部屋をサエナリアお嬢様に与えたのは」


「え?」


「何?(やっぱりか)」


言っている意味が分からない顔でネフーミは侍女を見るが、彼女は構わず言葉を吐く。


「おっしゃったではありませんか。ワカナ様が『お姉さまの部屋が欲しいわ』とおっしゃるので奥様が『悪いけど貴女の部屋を譲ってもらえる? 代わりにあの隅っこの部屋を使いなさい』と。その隅っこの部屋がここだったのです」


侍女の語ったことを理解したベーリュは、ゆっくりと妻の顔に視線を向ける。その先にあったのは、何かを理解して叫び顔を両手で覆う妻の姿があった。


「わあああああああああああああ」


その情けない姿を見てベーリュは察した。今語られた馬鹿げた話は事実だということだ。馬鹿な妹のために姉に譲らせた母親の話は。


「……なんと、愚かな……」


もはや頭を抱えるしかなかった。

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