勇者と魔法使い 5

「よし、っと」


 トウが鞘に宝剣をおさめる。

 それをギンと同じように肩にかけると、くるりとまわって「どう?」と訊いてきた。

 心なしか、ちょっと浮かれているようにも見えた。


「身の丈には合っていな――ぐふっ」

「お似合いですよ」


 ギンの脇腹を小突いて、笑顔で感想を述べる。

 正直なところ、この宝剣は彼女の手にあるのがもっとも相応しいカタチな気がする。見た目もなんだかしっくりくるし。なのだけど、なぜかトウは遠慮した。その理由は私にもわからない。きっと思うところがあるのだろう。

 トウがフードを被る。今日はもう行くようだ。


「行くんですね」

「ええ。明日の夜まで借りていいのよね?」

「はい。どうぞ」

「了解したわ」


 街灯の下のイス。揺らめく炎の下。

 私は座って、ギンはそばに立って、彼女と向かい合う。そろそろお別れの挨拶でも、と思っていたのだけど。

 不意に。


「あ、そうだ。あなたたち」

「……? まだなにか?」

「これも何かの縁だし。明日、この街でも案内してあげましょうか? この剣のお礼も兼ねるわ」


 そう提案される。

 トウは自慢げに「これでも詳しいのよ?」と笑った。さっきよりも輝いている気がして、すごく魅力的な人に見えた。私には手に入らないかっこよさがある。

 彼女は『尊敬の眼差しを向けていい相手じゃない』と卑下していたけれど。やはりとても尊敬できる。世界を旅をした大先輩として。


「ギン、いいですか?」

「ああ。構わない」

「……もっと違う言い方できないんですか、あなたは」


 こういうときもギンは変わらなかった。それが彼らしくて嬉しくもあるが、これみよがしにため息を吐いておいた。


「まとまったみたいね。じゃあ明日の昼、三番通りの酒場で。今日はありがと。帰りも気をつけるのよ」

「ありがとうございます」

「じゃっ」


 そう残し、トウは去って行った。

 背中の宝剣と一緒になって歩くローブが小さくなっていき、やがて角に消える。

 私とギンは街灯の下でそれを見届けていた。


「さて、私たちも帰りましょうか」

「ああ」


 ゆっくり、痛みがないか確認しながら立つ。

 なんとか歩けそうだ。

 私は厚底のブーツで石畳みを叩いて、いつもより遅めのペースで宿を目指した。



「ところで、三番通りの酒場ってどこですか?」

「……宿屋から歩いてすぐのところだな」

「ちかっ」

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