第5話 冒険者ギルドの処罰牢に

 エリュ・トリの中央区域【トリ・セントレ】エリュ・トリという国の中枢を担うこの場所に、治安維持と狩猟や討伐などを生業とする冒険者たちのギルドが建っている。ここはエリュ・トリ冒険者ギルドの地下、何らかの罪人を一時拘束するための牢屋が並ぶ処罰牢と呼ばれる階層。その牢の一つの中に、『クロス・リッパー』スカー・トレット・フレスヴェルグは現在進行形で収容されていた。


「……」


 牢の中で静かにたたずむスカー。そんなスカーの入っている牢の前に、重苦しいブーツの音を鳴らして、一人の大柄な男がやってきた。


「……よお、クロス・リッパー」

「久しぶりね、四日前にここで出会って以来かしら」


 飄々と話すスカーに対して、苦虫をかみつぶしたような顔を見せる大男、そんな男の不満を知ってか知らずか、スカーは平然と牢の中でくつろいでいた。


「……それで、何か弁明はあるか?」

「フレアの脱がし心地は今日も最高だった」

「死刑」

「待って」


 男の尋問に対して、スカーは真顔でそんな感想を述べる。対して男は淡々と彼女に宣告を下して、それをスカーがせき止める。二人にとっては数えるのも面倒なほどのいつものやり取りだ。


「なあスカーよ。平時に四日おきに風紀違反で捕まるのは情けないと思わないか? 俺はこんなことをするためにお前に戦闘技術を教えたわけじゃねえんだが?」

「そうは言っても、毎回言ってるけど勝手に教えてくれたのはギルド長で、治安維持のために見回りを許してるのもギルドよ。それにきちんと摘発や依頼もこなしてるんだからギルドの活動にはちゃんと貢献してるでしょ?」

「自分に都合のいい解釈をするんじゃねえ」


 スカーの弁明……もとい言い訳に、男は頭を抱える。スカーはというとそんな男の態度や心情などどこ吹く風で、堅苦しい牢の中の空気を楽しんでいた。


「そもそも今回も仕事はしたわよ。いつものようにフレアのお店にスィンツーの派遣兵がやってきて迷惑かけたからそれを解決したの。他の冒険者を派遣する時にもそういう伝令をしたでしょ?」

「確かにそれは聞いてる。だが治安維持の奴らが見た光景は『フレアが下着姿で涙目になっていて、お前がフレアの身ぐるみを手にもっていた』という光景だけだ」

「それは見解の相違だわ。フレアのそれは私の報酬」

「つまり剥いたのは確固たる事実なんだな」

「最後まで話を聞いて」


 スカーと男は、テンポよくそんな会話を交わして状況を整理する。スカーの弁明を整理しながら、牢屋の外の男、冒険者ギルド長カゴ・ウェイトレードはスカーの身の振りを判断していた。


「言いたいことは分かった。フレアから聞いた話にもスィンツーの兵士の件はあったし、お前が言っている事についても裏は取れてる。結末はともかく、お前がいざこざを解決したことに免じて、今日は昼で解放してやるよ」


 スカーとやり取りをして、彼女が少なくとも迷惑を解決した当事者であるという事を確信したカゴは、そのまま牢のカギを開けてスカーを釈放した。スカーは外に出ると大きく伸びをして、そのままいつもの事のように処罰牢のある階層の階段を上って冒険者ギルドのロビーへと出て行った。

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