課金騒動——タイム・イズ・マネ――

甚平

第1話『思い出を探して』

〇未来

 曙光都市エルジオン カーゴステーション前。

 アルドとヒスメナが歩いている。


男の声「そいつを捕まえてくれ!」


 ステーション側からスーツの男が走ってくる。学生服の男が追っている。

 アルド、スーツの男の前に立ちはだかる。


スーツの男「ちょ、ちょうどよかったがな。あの男、急に襲ってきましたんや」

アルド「え?」

学生服の男「そ、そいつは詐欺師だ!」

アルド「え?」

スーツの男「言いがかりをつけられて困ってましたのんや。助けてほしいがな」

学生服の男「こいつっ!」

アルド「ど、どうなっているんだ」

ヒスメナ「待ちなさい」


 ヒスメナ、男たちの間に入る。


ヒスメナ「あなた、IDAの生徒よね。話を聞かせてくれる?」

学生服の男「あ、IDEAの……」

学生服の男「いや、あの、ええ、その」

スーツの男「そんじゃ、うちはここいらで」


 スーツの男、左側へ歩いていくところを、アルドが腕組みして止める。


アルド「待て待て」


 学生服の男、頭を下げる。


学生服の男「い、いや、やっぱり、勘違いでした。すみません」

アルド「え?」

スーツの男「ほら、こう言ってまんがな」

アルド「え?」


 スーツの男、バスターミナル側へ去っていく。

 学生服の男、ステーションへ向かう。

 アルド、首を振る。


アルド「なんだったんだ、いまの」

ヒスメナ「詐欺師、と言っていたわよね」

アルド「ああ。なのに、どうして急に」

ヒスメナ「IDEAで調べてみたほうがよいかもね」


(表示:Quest Accepted)


〇IDAスクール

IDEA作戦室

右からイスカ、ヒスメナ、アルドの順に並んでいる。


ヒスメナ「ゲーム?」

イスカ「ああ、話自体はわたしも聞いているが、大した事件ではないぞ」

イスカ「課金代行とかいう、オンラインゲームの決済システムを利用した詐欺だ」

アルド「あの男子生徒は、どうしてそれを言わなかったんだ?」

イスカ「おそらく、課金代行を利用すること自体が違反行為だからだ」

イスカ「行ったことが知られれば、自分も損をすると考えたのだろう」

アルド「なんか、複雑なんだな」

イスカ「いずれにしろ、IDEAが扱うべき問題ではない。注意をするくらいで……」

ヒスメナ「そうかしら?」


 ヒスメナ、一歩イスカに近づく。


ヒスメナ「これは重大な問題よ。ゲームの公平さを揺るがす問題だわ」

イスカ「いや、それは分かるが、そこは会社や司法が考える問題であって」

ヒスメナ「学生がどんな気持ちで課金しているか、わかる?」


 ヒスメナ、目をつむって考え込むようなポーズ。


ヒスメナ「ゲームにお金を使うことに、罪悪感もあるの」

ヒスメナ「でも、どうしても欲しいキャラがいる、アバターがある、武器がある」

ヒスメナ「出るかもわからないガチャガチャに、少ないお小遣いをかける」

ヒスメナ「そんなとき、課金代行という蜘蛛の糸が垂れている」

ヒスメナ「その誘惑に勝てる学生は、多くないわ」


 ヒスメナ、うつむき、首を横に振る。


イスカ「キミの家は名家だろう?」

ヒスメナ「知っている? ……電子決済は記録が残るのよ。家族に見られるの」

イスカ「わたしが言っているのは、自由にお金を使えるだろうということではなく」

イスカ「そんなお金の使い方を許容するものが次期当主で大丈夫かという話だ」

ヒスメナ「あなたも、お父様と同じことを言うのね」

イスカ「それはキミの父上が正しい」


 ヒスメナ、首を横に振る。


ヒスメナ「いえ、これは一般論の話よ」

ヒスメナ「一般論として、ゲームの課金で金銭的に追い込まれる学生は存在する」

ヒスメナ「人によっては生活費さえ課金にそそぎこむというわ」

ヒスメナ「私はしたことがないけれど」

ヒスメナ「私はしたことがないけれどもね」


 ヒスメナ、アルドのほうを向く。


アルド「あ、ああ。そうなのか。なんで二回も言ったんだ?」

ヒスメナ「課金代行はそんな風にすがってきた学生を、アカBANに陥れる行為よ」

ヒスメナ「ゲーム会社に損害を与え、プレイヤーのアカウントを削除させる」

ヒスメナ「許せないわ」


 ヒスメナ、イスカへ向き直る。


ヒスメナ「イスカ、ゲームで自分の居場所を見つける人だっているのよ」

ヒスメナ「学生には、それが大切な、心の助けにもなることがあるの」

ヒスメナ「ゲームで自分の居場所が見つかる、それはいけないことかしら」

イスカ「現実の居場所を失うほどであれば、いけないことだと思うが」


 イスカ、首を横に振る。


イスカ「そもそも論点が違っていて、善悪ではなく、これはIDEAの問題ではないと」


 ヒスメナ、イスカへ一度顔を向け、顔を正面に戻す。


ヒスメナ「いえ」

ヒスメナ「これは学生にとって由々しき問題よ。解決の必要があると具申するわ」


 ヒスメナ、片腕をあげて決めポーズ。


イスカ「却下する」


 ヒスメナ、イスカへ一度顔を向け、顔を正面に戻す。


ヒスメナ「解決の必要があるわ!」


ヒスメナ、片腕をあげて決めポーズ。


イスカ「ない」


〇IDAスクール

スカイテラス


 ヒスメナ、空を見上げ、たそがれている。アルド、それを見守る。


ヒスメナ「万策尽きたわ」

アルド「もうか」


 アルド、首を横に振る。


アルド「……まあ、ゲームのことだってわかったんだし、もういいだろ」

ヒスメナ「もういい?」


 ヒスメナ、アルドへ振り向き一歩近づく。


ヒスメナ「もういいとは?」


 ヒスメナ、さらにアルドへ一歩近づく。


ヒスメナ「もういいとは、どういう意味かしら」

ヒスメナ「まさか『ゲームなんかの騒動に付き合うのはもういいだろ?』の省略系かしら」

ヒスメナ「アルドまでイスカと同じことを言うの?」


 ヒスメナ、アルドの間近にまで迫る。


アルド「い、いや! もう、IDEAに頼らなくてもいい、という意味だ」


 ヒスメナ、一歩下がる。


ヒスメナ「それじゃあ、あの詐欺師の情報を聞きに行きましょうか」

アルド「え、誰にだ?」

ヒスメナ「カーゴステーションで会った生徒よ」

ヒスメナ「彼は詐欺師の居場所を見つけていたのだから」

アルド「でも、あの生徒がどこにいるのか……」


ヒスメナ、得意げなポーズ。


ヒスメナ「作戦室で今回の詐欺被害者のデータは貰ってきたわ」

ヒスメナ「イスカは調べた上で不要と判断したわけだから、データはあるもの」


 アルド、驚きの動き。


アルド「すごいじゃないか。万策尽きてなかったんだな」

ヒスメナ「……アルド、私が本当になんの策もなく動いていると思っていたの?」

アルド「いや、いつものヒスメナならオレも心配はしないけど」

ヒスメナ「え? どういう意味?」


 ヒスメナ、アルドに一歩近寄る。


ヒスメナ「『お前ゲームの話題になると早口になるよな』みたいなことを言いたいの?」

アルド「早口になってるぞ」


 ヒスメナ、一歩下がる。


ヒスメナ「とにかく、あの生徒に会いに行きましょう」

ヒスメナ「教室はH棟2階よ、間違えないでね」



〇IDAスクール

 H棟


左側に立つ学生へ、ヒスメナとアルドが右側から歩み寄る。


ヒスメナ「ちょっといいかしら?」


 学生、振り向いてヒスメナを見つけ、たじろぐ。


学生「え? ……う、この前の」


 ヒスメナ、胸に手を当てるポーズ。


ヒスメナ「安心して。いまのわたしはIDEAとして動いているわけではないわ」

ヒスメナ「一人の人間として。いえ、一人のユーザーとして話を聞きに来たの」


 アルド、腕を組んで考えるポーズ。


アルド(なにか違いがあるのか……?)


 ヒスメナ、立ちポーズに戻り話を続ける。


ヒスメナ「あなたの言った詐欺師について、話を聞かせてちょうだい」

学生「いや、あの、あれは……」

ヒスメナ「大丈夫。わたしたちは味方のつもりよ」

ヒスメナ「不正な行為を行わないのであればね」


 学生、頷く。


学生「あいつは、少し前からゲームで詐欺をしてたんだ」

学生「腹が立って色々調べたら、サブのアカウントを見つけたんだけど」

学生「そっちでは、直接会っての取引を行ってたんだ」


 ヒスメナ、あごに手を当てるポーズ。


ヒスメナ「それは、なんの取引?」

学生「いや、なんか、詳しくは書いてなくて、チップとかだと思うけど……」

ヒスメナ「そう……とにかく、それで直接会ったのね」

学生「アカウントも乗っ取られたから、それだけでも取り返そうと思って」


 ヒスメナ、首を横に振る。


ヒスメナ「無茶ね」

学生「うん……わかっては、いたんけど」

ヒスメナ「気持ちはわかるわ」


 ヒスメナ、頷く。


ヒスメナ「ゲームのデータは思い出であり、仲間との絆だもの」

ヒスメナ「そうよね、アルド」


 アルド、驚いた様子で。


アルド「……え?」

ヒスメナ「そうよね、アルド」

アルド「……あの」

ヒスメナ「そうよね、アルド」

アルド「……ヒスメナがそう言うなら、そうなんだろうな」


 アルド、目を閉じて頷く。


ヒスメナ「そのアカウントを教えてくれるかしら」

ヒスメナ「わたしたちで対処するわ」


 学生、ヒスメナに情報を渡すように近づき、終わって離れるような動き。


学生「あの……」

ヒスメナ「なにかしら」

学生「いや、なんでもない。お願いします」


 学生、左手側へ歩き去っていく。

 ヒスメナ、デバイスを見て考えるようなポーズ。


ヒスメナ「……割とすぐに片付くかもしれないわね」

アルド「居場所が分かったのか?」

ヒスメナ「ええ……」


ヒスメナ、アルドへ振り向く。


ヒスメナ「廃道へ行きましょう」



〇廃道ルート99

 猫付近にイベントポイント


 道の左側で待っている男へ、詐欺師の男が少しずつ歩いていく。


詐欺師「ふぅ、ふぅ、難儀やなぁ」

男「町だと見つかるかもしれねえって言ったのはあんただろ」

詐欺師「わかってる。いや、わかっとるがな」

詐欺師「先日のことがありますさかいな」

男「で、例のチップは……」


 右手側からヒスメナ、アルドが歩いてくる。


ヒスメナ「こんなところで商談とは、よほど後ろ暗いことがあるのね」


 詐欺師の男、振り向いて驚く。


詐欺師「うお、この前のガキやないか」

男「おい、どうなってんだ」

詐欺師「わかりまへん。なんなんや、あんたら」


 ヒスメナ、得意げに笑う。


ヒスメナ「通りすがりの正義の味方よ。覚えておきなさい」

男「チッ、面倒だ。護衛用だったが、構わねえ」

男「やっちまえ!」


(戦闘:サーチビット ×2)


 戦闘終了。男、おびえている。

 ヒスメナ、男に歩み寄る。左右を見回す動作。


ヒスメナ「あの詐欺師、逃げたわね」

アルド「結局、なんの取引だったんだ?」

ヒスメナ「そうね……遊興目的のプログラムよ」

アルド「遊興?」

ヒスメナ「ええ……違法な、ね。この人は警察へ引き渡しましょう」


 道の途中で、光るものがある。

 ヒスメナ、近寄って拾い上げる。


アルド「なんだ、それ」


 ヒスメナ、アルドへ振り返る。


ヒスメナ「あの詐欺師が落していったようね、このデバイスも使い捨てみたいだけど」

ヒスメナ「……ああ、でも、いくつかデータが残っている」

アルド「役に立ちそうか?」

ヒスメナ「そうね」


 ヒスメナ、目を閉じる。 


ヒスメナ「思い出は、取り戻せそうよ」


(表示:Quest Complete)

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