魔法軍人少女と過ごす日常

雪見なつ

序章 軍服の少女との出会い

 夏真っ盛り。太陽がジリジリと地面を焼いている。俺も含め学生は夏休み真っ只中だ。

 俺は、そんな中カフェでコーヒーを口に含みながら、本を読んでいる。

 俺が読んでいる本は、「最新版!魔術のすべて」という本だ。数日前に買った本だがとても面白い。

 俺は魔法がとても好きだ。だから、俺は高校でオカルト愛好会という部活に入っている。

 そして、今日はオカルト愛好会の仲間の誘いでここにいるというわけだ。その人達とはよく集まっているのだが、いつもここのカフェに集合にしているのだ。

 このカフェは駅からも近いし、何といってもここのブレンドコーヒーがおいしい。

 今の時間は午後一時半。カフェの席はほとんど埋まっている。

 集合時間は二時だ。ここのコーヒーを飲みたいがために集合時間より早めに来ている。

「よう、蝶夜。また早く来ているのかよ」

「まぁね。てか、英(ひで)季(き)にしては来るのが早くないか、いつも遅刻気味なのに」

「今日は俺が誘ったんだから、早く来るのは当たり前だろ」

「そういうところはまともだな」

 彼は大塚英季。今日は彼にUMA展が博物館でやっているということで誘われたのだ。彼はUMAのことに関しては詳しい。

 彼は店員を呼び、俺と同じブレンドコーヒーを注文した。

「今日は楽しみだな。お前もUMAの沼に沈めてやる」

「それは前も言ってたけど、俺はUMAよりも魔法に興味があるんだよ」

「もったいないな。人生損しているよ」

 そう言って彼は、運ばれたコーヒーにミルク一個と砂糖を三つ入れた。

「そんなことないと思うけどな、俺はコーヒーをブラックで飲めない方が損してる気がするよ」

「うるさいな、ブラックは苦くて飲めないんだよ」

「だろ? 好みは人によって違うんだから無理に強要するなよ」

 彼は、むすっとした表情でコーヒーに口をつける。

「それだったら断ればいいだろ」

 英季はちょっと怒っているようだった。

「それはできないよ。愛好会のみんなで出掛けるの楽しいんだから」

「そうかい」

 彼は、おもむろにスマホを取り出して不自然に顔を隠した。わかりやすいやつだ。

「お待たせ、蝶夜。って、英季も来てるのか。珍しいわね」

「遅いぞ愛喜(あき)」

 いつも遅刻する英季だが、早く来たから調子に乗っている。

「いつも遅刻してくる英季には言われたくないわ。蝶夜に言われるならまだいいけど」

 彼女は豊崎愛喜。同じくオカルト愛好会のメンバーだ。

 彼女は学校一の美女と言われるくらいきれいな人だ。いや、きれいというより可愛いのほうだろう。

 つい先日も、告白されたっていう噂を聞いた。

 愛喜は三人の中でも特殊でオカルト系ならどのジャンルでも詳しいのだ。

 でも、この愛好会に入ってることはみんなには内緒にしているらしい。

「愛喜もここのコーヒー飲んでいく?」

「ありがとう蝶夜君。でも、いらないわ。待たせてたみたいだし早く行きましょう」

「そうか。なら行こう」

 俺がそう言うと、英季はさっき来たばっかりのコーヒーを喉に流し込み、勢いよく立ち上がった。

「行くぞ!!」


 博物館までは電車で二駅ほど乗ったところにある。

 その間も英季は元気にはしゃいで子供のようだった。

 博物館は白い大理石の壁とガラス窓で、いかにも博物館っていう感じだ。

 しかし、その博物館は住宅街の少し外れていて周りの情景からは浮いて見えた。

 中は人が少なかった。

 だが、この少なさがいいのだろう。一つの作品をじっくり見ることができる。実際に英季は一つの作品を四方八方からまじまじと見ている。

 愛喜もじーとUMAの展示品を穴が開くくらいずっと見ていた。

 俺はUMAの説明文をちらっと見てふーんと思うくらいだった。

 この博物館は通常展示が民俗博物館となっていて、昔の人の暮らしや土器などが展示している。

 UMA展は通常の展示よりも小規模で行われていた。

 そんな、小規模な展示だったが、なんと俺たちは四時間も見ていた。

 博物館を出ると二人の熱が爆発したように急にしゃべり始めた。慣れたものだ。二人とも自分の世界に入ると戻ってこれない人だから。

 その二人から俺は置いてかれているけど、二人とも俺にしゃべり続けている。

 俺は、テニスの壁打ちの壁じゃないんだぞ。

 でも、二人が幸せそうに話しているのを見ているとそこまで嫌な気持ちにはならなかった。

電車に乗り、乗ってきた駅に戻るころには夕日の八割が消えて空には薄い三日月が登っていた。俺達は近くの安いファミレスで夕食を済ませる。

博物館から出て、このファミレスで食事を済ませるまで英季と愛喜の口は止まることはなかった。もちろん、ファミレスにいるときも、帰り際も二人は止まらなかった。

 食事を済ませ解散する。愛喜と英季は途中まで同じ電車に乗り帰宅するのだが、俺だけ駅とは反対方向に徒歩で帰宅する。

 時間は九時を過ぎている。英季の話がなかなか終わらずに長引いてしまったからこんなに遅くなってしまった。

 二人と離れてしばらくすると、ポケットにしまっていたスマホから通知音がなる。そこには、ネットワークコミニケーションアプリのアイコンが表示されていた。そのアイコンをタップすると、二人からのメッセージが表示される。二人からは次の誘いをする内容のメッセージが送られていた。俺はそれに対し簡単に「いいよ」とだけ返信をして歩く。

 俺の家は駅から近いわけではなく、三十分ほど歩かなくてはならない。もちろん駅から離れると人の数は減る。この時間帯だと、すれ違う人は一人か二人くらいだろう。

俺はイヤホンを片耳に着けて、スマホラジオを聞く。聞く番組はオカルトものの番組だ。スマホラジオは過去の放送を保存して聞くことができた。

今週の日曜日に放送された内容は魔法特集になっていて、今日も合わせて五回は繰り返し聞いているだろう。

毎週日曜日更新で明日が更新日だが、明日はUMA特集のため、二人のために明日の放送も保存しておくことになるだろう。

 ラジオ番組の放送時間は約三十分で家に着くころには終わる。番組も後半に入り今週の簡単内容説明と来週の予告を話し始めていた。

俺が住む家はもう目に見えている。五階建てマンションの二階に俺は住んでいる。カバンの小さいポケットからカギを取り出そうとした時、不思議な感覚を覚えた。

マンションの近くの電柱に人が座り込んでいたのだ。その人は、頭を力なく下げ、顔は黄色の長い髪によって隠されていた。服装はボロボロとなった軍服のような服装だった。その人は、ぴくりとも動こうとする様子がなかった。

それを見た時、俺は幽霊的な存在だと思った。家に帰るには、その存在の横を通らなくてはならない。俺はゆっくりとその横を通っていく。できるだけその存在を見ないようにただ目の前だけを見ていく。

「あの、すいません。ここはどこでしょうか」

 やつがいた場所から声が聞こえる。かすれていたが不快に感じる声ではなかった。俺は、あまりにも霊的な声ではなかったため、振り返ってしまった。その存在はゆっくりと顔を上げて俺の目を見ていた。

 その女性は力をなくし、ぐったりと首を落としてしまった。

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