324話 託される希望(2)
おれたちの闘いは終わった——。
魔王ユリウスの姿が消え、戦場となり変わり果てた殺風景な荒野の中心にはおれとカシアスだけが残される。
激闘を終えたばかりのおれたちは、二人して放心状態にあった。
互いに何かを語るわけでもなく、風の音だけが二人の間には流れる——。
そして、沈黙を破るかのようにカシアスがひとりごとをつぶやくのだった。
「まったく、最後の最後に兄貴面をしたくせに……。あの男、ちっとも魔力を返してくれませんでした。本当に弟想いだというのなら、私に全ての魔力を
「アベル様も、そうは思いませんか……?」
唐突に、カシアスがおれにそう投げかけてきた。
様子から見るに、どうやらふざけているわけではない。
カシアスからは友人と語り合うような軽いノリを感じた。
「あぁ、そうだな」
どうしたのだろう……?
いつものカシアスとは少し雰囲気が違う気がする。
まるで、カシアスがユリウスのことを本当の兄と認めているようにおれは感じた。
おれが見せられたユリウスの記憶ではカシアスは一度死んでいた。
だからこそ、転生した今のカシアスにはその時の記憶がないわけだし、以前に話を聞いたときはユリウスのことを憎んでいるようであった。
だからこそ、ひとりごとでそうつぶやくカシアスを見て、おれは少しばかり違和感を覚えていたのだった。
そして——。
「うっ……」
突然、カシアスが胸を押さえるような仕草をする。
そして、彼は力尽きたかのようにゆっくりとその場に崩れ落ちるのであった——。
「カシアス!?」
おれは声を上げ、カシアス駆け寄り名前を呼びかける。
最悪の展開が脳裏に
だが、そんなことあってたまるかと、おれは疲弊して固まった肉体に鞭を打って動く。
だが、今のおれにできることなど限られており、楽な姿勢を取らせて、大地に寝かせるくらいしかできないのであった。
そして、カシアスは仰向けとなり、横たわる——。
「ありがとうございます……」
うつ伏せに倒れた身体を起こし、姿勢を整えたおれに対して彼は感謝を述べた。
「しかし、どうやら、私もここまでようですね……。肉体の崩壊がはじまってしまいました」
「あと少しは持つと思っていたのですが、ここでリタイアのようです……」
横たわるカシアスは、側にいるおれに聴こえるくらいの小声でそうつぶやく。
カシアスの言葉を聞いたおれは心が絶望に染まる——。
「うそだろ……。おい、どうにかならないのかよ!?」
嘘だと言って欲しい。
疲れていて、勘違いしていたようだと言って欲しい。
だけど、カシアスの肉体からは既に魔力が光の粒子となって周囲に拡散されはじめている。
おれの瞳にも、それはしっかりと映っているのだった……。
「お前……言ってたじゃないか! おれが死ぬまで一緒にいてくれるって……。約束したんだったら、しっかり守ってくれよ……」
おれは現実を見つめたくないあまり、カシアスを責めるような口調で怒鳴ってしまう——。
おれと契約したときに言ってたじゃないかよ……。
お前はおれが死ぬまで側にいるんだって……。
だったら、勝手に死ぬんじゃねぇよ……。
畜生!!
なんでだよ……。
なんでおれは、肝心なところでいつも大切な人を守れないんだよ……。
おれはまたしても自分の不甲斐なさを実感するのであった。
「そうでしたね……。アベル様、もっと私の側に寄ってください……」
カシアスは弱々しくなった声でおれにそう告げる。
おれはカシアスの言葉に素直に従うことにする。
距離を詰めて、カシアスの声がもっと聴こえる位置へと移動する。
すると次の瞬間、おれの体内にカシアスの魔力が流れ込んでくるのであった——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます