303話 ユリウス vs アベル(2)

  白き閃光と共に、竜をもほふる稲妻が宙を切り裂いて迫りくる——。



  雷を宿した水晶から放たれた七つの電撃がおれをめがけて飛んでくるのであった。



  「うぉぉぉぉおおおお!!!!!!」



  おれは《聖剣ヴァルアレフ》を両手に握りしめて、ユリウスの放つ電撃を打ち砕こうとする。

  しかし、先ほどよりも威力があるその攻撃を前に、おれは耐えきることができないのであった——。



  聖剣に力と魔力を込めてはいるものの、ユリウスから放たれた電撃の破壊力にジリジリと押されてしまう。

  足の踏ん張りが利かず、ズルズルと流されていくのであった。



  そして、電撃と聖剣のぶつかり合いの均衡はついに破られてしまう。



  おれはとっさに防御魔法を展開するも、その身を焼失させてしまう威力を持つ攻撃を前に、いとも簡単に無力化され、この身に直撃するのであった。



  「ぐわぁぁぁぁぁぁあ!!!!」



  強い衝撃を受けると同時に、鋭い痛みが身体中を走り抜け、おれは倒れ込んでしまう。


  もしも、聖剣と防御魔法で威力を抑え込んでいなかったら、一瞬にして命がなくなってしまっていたことだろう。

  幸い魔力は残っていたため、回復魔法を発動して傷の治癒を行うことにする。


  完全に回復することはないだろう。

  だが、なんとか動けるほどには身体の修復することができた。


  そして、おれはゆっくりと立ち上がり、ユリウスを真っ直ぐに見つめる。

  すると、やつはガッカリとした様子でおれに声をかける。


  「以前、お前は言っていたな。自分には戦う理由があると——。そして、決して負けることができないのだと——」


  「この俺を前に、あれだけの大口を叩いておいてこの程度なのか? 所詮、お前は口だけの 男だったということだな……」


  ユリウスの意見は正しい。


  おれはこの魔王を前にして、何もできていない。

  やつは一歩たりともその場を動くこともなく、片手間で遊んでいるかのような攻撃しかまだしてきていない。


  それなのに、おれは手も足も出ずに地に這いつくばってしまっていた。

  お前を倒すと宣言していたにも関わらずだ——。



  結局、おれは無力であるにも関わらず、何とかしてみせるとほら吹くペテン師に他ならないのかもしれないな……。


  根拠もないのに、何とかなる、何とかしてみせるなんて大口叩いておきながら、誰かの助けがなければ一人で何ひとつできやしやいんだ。



  「さらばだ……。理想に囚われた哀れな少年よ」



  ユリウスは再び攻撃体勢に移る。

  背後に浮かぶ水晶たちが光輝き、それらから雷撃が放たれるのであった——。



  次にあれを受けたら流石に身は保たないだろう。

  おれは防御魔法を展開する。



  しかし——。



  バリーーーーン!!!!



  一瞬にして、闇の壁は破壊されておれの目の前を白い閃光が包み込む。




  ドゴォォォォオオンンンン!!!!!!




  激しい爆音と同時に、爆風がおれを直撃する。

  だが、ユリウスが放ったその雷撃はおれを直撃することはなかった……。


  しかし、それはつまり別の何者かがユリウスの攻撃からおれを守ってくれたということ。

  そして、この場にいる者などおれの他には一人しかいない——。



  「カシアス!!!!」



  おれは目の前でユリウスの攻撃を受けきったカシアスの名を叫ぶ。

  そして、カシアスはその場に崩れ落ちてしまうのであった……。


  おれは慌ててカシアスの側に寄り添う。

  生きてはいるが、美しかった白銀のその身は黒焦げとなり、痛々しい傷痕が目に留まる。


  《天雷の悪魔》ユリウスは、そんなおれたちを見下ろして言葉を投げかけるのであった。



  「懸命な判断だな。お前の攻撃が俺に効かないということは、その逆も十分にあり得る。俺がお前の魔力を持っている以上、お前に与える攻撃もダメージも必然的に減少している」


  「そこの少年が俺の攻撃を直接受けるよりも、お前が代わりに攻撃を受けた方がマシかもしれないな。だが、それはそこの少年がお前以上に戦える場合の話だ。悪いが、そいつはお前の足手まといにしかならんぞ」



  カシアスの耳に、あの男の言葉は届いているのだろうか。



  「ハァ……。ハァ……」



  カシアスは息を荒げ、顔を歪めて苦しんでいる。

  身体から魔力が拡散している様子はないが、それでもこれ以上は無理をさせられない状況であることはおれにもわかる。



  おれが……一人でユリウスと戦わなければならないのだ。



  そして——。



  「カシアスの魔力を持っているだと……?」



  おれは魔王ユリウスに問いかける。


  カタリーナさんは言っていた。

  カシアスだけでは絶対にユリウスに勝てないと。


  もしかしたら、その理由が今のユリウスの言葉によるものなのかもしれない。

  おれはそう考えた。



  そして、ユリウスはこの問いについて、どこか遠くを見つめながら答えるのであった——。



  「あぁ、そうだとも。カシアスはかつて俺の弟であったからな。誰よりも愛おしく、そして誰よりも憎ましい存在だったよ……。その時にそいつの魔力を奪ったのだ」



  魔力を奪っただと……?


  そんなことができるのか。

  それに、カシアスがユリウスの弟だと……。


  悪魔を含めて、精霊体には親も兄弟もいないはずだ。

  今の言葉はどういう意味なんだ……。


  いや、今はその真偽や真相について考えている場合ではない。

  おれは今、自分が何をできるのかを考えないといけないのだ……!

 


  「お前らに何があったのか、おれにはわからないけどよ……。それでも、大事な弟とこんな関係になっちまうのはおかしいんじゃないか……!?」



  ユリウスが放った言葉を受け、おれは困惑しながらも戦う意思を示す。

  再び聖剣を手に、ユリウスに宣戦布告するのであった。



  「俺は与えられた使命に従って生きているだけだ。その過程で愛する者を手にかけなくてはならないとすれば、たとえそれが弟であろうと容赦はしない」


  「俺はお前とは違って、現実と向かい合って生きている。その手に届かない理想ばかりを追いかける人生になど、何の意味もないと悟ったからだ」



  突如として、ユリウスの背後にあった光輝く水晶たちが姿を消す。

  そして、ユリウスはおれたちがいる地上へと降りてくるのであった。



  「俺を否定したければ、否定するがいい。だが、くだらぬ戯れ言などではなく、お前の実力をもってして、力づくでねじ伏せてみるんだな」



  ユリウスの右手には黄金に輝く魔剣が握られていた。

  まるで、直接おれと一対一で戦うかのような行動である。



  「命を賭して、お前を守り抜いたカシアスの行為に免じて、最後のチャンスをやろう」


 

  「お前の導いた回答を聴かせてもらおうとするか。何故、お前はここまでして戦う道を選んだのかをな」



  ユリウスは魔剣を前に掲げてそう告げると、もう一段階魔力を解放する。


  おれは直感的に理解するのであった。

  これでこの男との決着がつくのだと——。



  こうして、おれとユリウスによる最後の戦いがはじまるのであった。

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