294話 十傑の襲撃(2)
「さぁ、私たちも早くここから立ち去りましょう! とりあえず、転移魔法が使える国外へ向かうわよ。ユリウスの手下たちがやってくる前に」
カシアスを見送った後、リノはおれたちにそう語る。
しかし、そんなリノに対してサラは不安そうに尋ねるのであった。
「でも、リノ……。わたしたちはどうやって逃げるの? ここでは転移魔法は使えないし、わたしやアベルはカシアスみたいに空を飛べないのよ?」
そうだ。
ここは精霊王ゼシウスの魔王国。
この国家にいる限り、転移魔法を使えるのはゼシウスさんとその配下たちのみ。
おれたちは転移魔法を使えないし、転移魔法陣で送り届けてくれる精霊も辺りにはいない。
だからこそ、カシアスは転移魔法ではなく飛翔の魔法を使ってこの場から立ち去ったのだ。
しかし、おれやサラにそのような魔法は使えない。
リノとアイシスでおれとサラを抱えなかがら逃げるのだろうか?
だが、もしもそんな状態で敵に遭遇でもしたら……。
そんなとき、おれの不安を払ってくれるのは、その明るさでと陽気さでこれまでおれを救ってくれた魔王ウェインだった。
「そういうことなら、オレに乗ってけよ!」
そう自信満々に語るウェインの魔力が急激に跳ね上がったと思うと、彼の肉体がみるみるうちに盛り上がっていく。
さらに、その体は真っ白な体毛に覆われていくのであった——。
彼は強靭な肉体を持つ大型獣へと変貌する。
そして、変身が終わった時にそこにいたのは四足歩行の大獣——神獣フェンリルであった。
変身して獣神化したウェインが大きく口を開いて喋り出す。
「この姿ならオマエらを乗せられるぜ!!」
狼のような姿になったウェインは太い声でそう吠える。
「助かるわ、ウェイン。それじゃ、よろしく頼むわよ!」
「失礼します」
そして、リノやアイシス、サラが次々とウェインの背中に乗っていく。
おれもみんなに倣って、ジャンプをしてウェインのもふもふとした体毛をよじ登っていくのであった。
「ウェイン、あんた最高にカッコいいよ! ありがとう」
「ふっ、だからってあんまり見惚れるんじゃねぇぞ。オレはそっちの気はないからな」
振り向いて、背中にいるおれたちにそう告げるウェイン。
銀白の体毛に包まれる変身したウェインは非常に美しく、神の使いのようであった。
「それじゃ、行くぜ! 振り落とされるなよ!」
ウェインはそう吠えると、力強く大地を蹴って、猛スピードで駆け出すのだった——。
◇◇◇
すごい……。
まるで新幹線にでも乗っているようだ!
景色がものすごい速さで流されていく。
振り落とされるなよ——なんて言いながら、ウェインは防御魔法を展開してくれているようで、おれたちは空気抵抗の影響を一切受けない。
みるみるうちに、おれたちが先ほどまでいた庭園が小さくなっていく。
だいぶ離れたことで、精霊王ゼシウスの魔王城の全貌が明らかになる——。
妖精の国に建てられた大聖堂のようにキラキラと光り輝く建造物がどっしりとそびえたっているのであった。
そして、その周辺でドンパチといくつもの爆発が起きているのが目に入る……。
おそらく、侵入してきた上位悪魔たちとゼシウスさんたちが戦っているのだろう。
夢じゃない。
大変なことが起きているんだ……。
「本当は、手の空いてる精霊で転移魔法陣が使える子がいると助かるのだけど……」
リノは爆発が起きている魔王城の方をみてそうつぶやく。
おそらく、多くの精霊たちは魔王城の防衛に駆り出されているのだろう。
ウェインがかなりの距離を走り抜けているが、精霊たちには一人もでくわない。
「ウェイン、最悪の場合このまま貴方には……」
リノはウェインにそう言いかけて言葉を止める。
そして、途端に彼女の表情は険しくなるのであった……。
「何者かが猛スピードで近づいてくる……。一応魔力は隠しているみたいだけど、抑えきれていないわ。そいつの現在地は——」
どうやら、彼女はその優れた魔力感知で何者かを感知したようだ。
リノは再び集中して黙り込む。
そして——。
「アベル様!? 危ない!!」
突如として、リノの大声でそう叫ぶ。
すると、空から大剣を振りかざした男がおれをめがけて降ってくるのであった……。
大剣を持った男はギラついた瞳でおれをしっかりと捉える。
そして、禍々しい魔力を帯びたその大剣をおれに振り下ろすのであった。
リノが叫んでから一瞬の出来事であったが、おれよりも早く反応した人物が上空へと飛び出す。
ギイィィィッッンン!!!!
上空へと飛び出したアイシスが漆黒の魔剣を持って対抗する。
しかし、圧倒的な力を持つ男の一撃に彼女は吹き飛ばされてしまう。
だが、なんとか受け身を取ってその場で態勢を立て直すのであった。
「リノ様! あとはお任せします!!」
アイシスはウェインの背中に乗って駆け抜けていくおれたちに向かってそう叫ぶ。
彼女とすれ違う瞬間、彼女は覚悟を決めた顔つきでおれを見つめるのであった。
リノは一瞬だけ
「ウェイン……。急いで逃げてちょうだい!」
「いいのか? ありゃ、十傑の悪魔じゃないのかよ。今のアイシスじゃ、一対一での勝ち目なんて……」
「わかってるわよ! でも、今の私たちじゃ、他にどうすることもできないのよ!」
ウェインも悩むようであった。
そして——。
「オレには今の状況がわからねぇよ……。わからねぇけど、それは間違いだぜ、リノ! ここでアイシスを見捨てていいわけがないだろうがぁ!!」
「ウェイン!? やめなさい!!」
おれたちを背中に乗せるウェインが方向転換をして、アイシスのもとへ戻ろうとする。
だが、そんなおれたちの前に立ちはだかる存在が現れる——。
「なんだ……アイツ」
そこにはローブに身を包んで姿を隠す者がいる。
その者は独特な雰囲気を
「待って、アレっていつからあそこにいたの……? さっき、わたしたちが通った時はいなかったわよね」
サラも不気味そうな表情でつぶやく。
ここは転移魔法が使うことが許さない精霊王ゼシウスの魔王国——。
つまり、あのローブ姿の人物は転移魔法を使うことが許されたゼシウスさんの配下だというのだろうか……。
いや、違う。
そんな雰囲気はしない……。
あれは明らかに敵だ!!
そして、ローブ姿の人物が右手を挙げるとおれたちのいる地面が一瞬で砕けて、おれたちはウェインの背中から放り出されてしまう。
さらに、突如としておれたちの身体が輝き出すのであった。
「これは……まさか転移魔法陣!?」
リノが驚いたように叫ぶ。
「マズい! アベル様、サラ! 私から離れないで!!」
宙に放り出されたおれたちに向かって叫ぶリノ。
だが、彼女の叫びも既に遅いのであった。
サラは何とかリノの手を握ることに成功するが、おれは彼女の手を掴むことができなかった……。
「アベル!!」
ウェインが咄嗟におれの服を掴む。
そして、おれたちは完全に光に包まれて別の場所へと転移させられてしまう。
こうして、おれはウェインと共に敵の策略により転移させられてしまうのであった。
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