272話 ハワード vs アベル&カシアス(1)
おれは転移魔法で一気に彼らが競い争う上空へと転移する。
二人に近づくと、彼らが放つ魔力が濃くなり気分が悪くなる。
しかし、そんなことに構ってなんかられない。
おれは光輝く聖剣を振るうハワードの背後に出るとすぐさま攻撃魔法を放つ。
「喰らえ!
おれの手から放たれた闇の弾丸は、螺旋状の回転を描きながら《冥界の悪魔》に直撃する……はずだった——。
しかし、ハワードはまるで背中に目が付いているかのように、寸前のところで身体を回転させると
おれの放った攻撃魔法はいとも簡単にその
そして、ハワードを転移してきたおれを見るなりつぶやく。
「何だ……。わざわざ死にに来たってのか」
彼の両目は真っ赤に染まり、その瞳からは真紅の雫が頬に流れていた。
その美しい緑色の髪があるためか、余計にその赤く染まる両目は強調される。
おれに対面するハワードは、まるで人間が血の涙を流すような姿でそこに立ち尽くしているのであった。
「アベル様……。なぜこちらに……?」
おれの隣に転移してくるカシアス。
彼は息を切らせ、肩で息をするようにしながらおれの登場に驚きの表情を見せる。
何を言ってるんだこのバカは……。
「そんなのお前を助けるために決まってるだろ!」
「お前はおれの相棒なんだ! 確か、死ぬまでおれたちは一緒なんだろ?」
おれは昔のことを思い出す。
カシアスと契約をしたあの夜のことを——。
「どうせなら死ぬときも一緒にいようと思ってな!」
そんなおれの言葉を聞き、どこか嬉しそうな表情を見せるカシアス。
すると、彼はおれの肩にその手を乗せてから願いを告げる。
「大変嬉しいお言葉です……。ですが、ここでアベル様を死なせるわけにはいきません!」
「死ねない理由ができてしまいました。申し訳ありませんが、私と一緒にあの悪魔と戦ってくれないでしょうか」
どうやらカシアスもここでハワードと心中するのはやめたようだ。
「おう! たくっ……もっと早くにそう言えよな!」
こうしておれとカシアスは
カシアスの持つ莫大な魔力がおれの体内と魂に流れ込んでくる。
よしっ!
これで《霊体殺し》と呼ばれるあの
「なるほど、そういうことか……」
「どうやらおれにも生き残る可能性が出てきたようだな」
対峙するハワードをおれたちを見るなり、そうつぶやく。
しかし、その表情に喜びなどの感情は一切読み取れなかった。
こいつ、生きたいという気持ちはないのか……?
まぁ、今は敵のことを気にしている余裕はない。
おれはカシアスからもらった漆黒の魔剣を手に取る。
これであの聖剣と戦おうじゃないか!
そして、おれたちの運命を懸けた戦いが今はじまるのであった——。
◇◇◇
最強の魔王——《天雷の悪魔》ユリウスが従える魔王クラスの配下、《冥界の悪魔》ハワード。
対するは大魔王ヴェルデバランが従える魔王の配下、《氷獄の悪魔》カシアスと、このおれ《漆黒の召喚術師》アベル。
ハワードが持つのは七英雄カタリーナが使っていた《聖剣ヴァルアレフ》。
対するおれたちが持つのはカシアスが作製した最高峰の魔剣だ。
静かな夜空のもとで、激しい攻防が繰り広げられる——。
ハワードは死霊術師という情報しか持っていなかったおれだが、こうして対峙してみると認識が甘かったことをハッキリと痛感する。
こいつは魔王クラスの
小手先で戦うようなマネはせず、純粋なパワーでもって圧倒的な強さを誇っている。
同じ闇属性魔法を使う者として、ハワードの凄さをおれはマジマジと実感するのであった。
そして、聖剣と魔剣で打ち合うさなかハワードはおれに語りかけてくる。
「そういえば、お前がエストローデを殺したようだな!」
純粋な力で押されているおれ。
やつの言葉を無視することもできたが、おれはエストローデの話題ということもあってハワードの会話に応える。
「あぁ、そうだ! かなり強かった。ちょっとマヌケなところもあったけど、純粋なやつだったよ」
「ふっ、それがあいつの良いところだったからな。あいつは俺にとって数少ない友人だった……。その仇、ここで取らせてもらうぞ!!」
気持ちの入ったハワードの一撃がおれに振りかざされる。
闇属性の魔力を付与されており、光輝く聖剣は今は既に闇に染まってしまっている。
そうか……。
そういえば、そうだよな。
ハワードやエストローデにも友人や大切な存在っていうのはいるんだよな。
だけど……。
今は同情なんてしない!!
「うおぉぉぉぉおおおお!!!!」
おれはカシアスの魔力をもらい全身全霊でハワードに立ち向かう。
ドオォォォォンンンン!!!!
そして、おれたちの渾身の一撃は互角であり、その交わりをもってして行き場を失った大量の魔力による爆発が巻き起こるのであった……。
「ぐぐぐっ……」
魔力爆発に呑み込まれても平然と戦いを続行するおれたち。
互いにボロボロになりながらも、相手を殺すまで剣を下ろすことしない。
これはすべてを懸けたそういう戦いなのだ。
「お前だよな……? さっき、セルフィーがいた空間で子どもたちを殺して操っていたのは……」
今度はおれがハワードに尋ねる。
先ほど、おれはエトワールさんたちの子どもを助けることができなかった。
目の前で彼らを死なせることになってしまった。
彼らを殺し、その遺体で玩んでいたやつが目の前にいると思うと、おれは怒りを抑えきれないでいた。
そして、ハワードをおれの質問に答える。
「そうだ……。ここはおれが支配している亜空間だからな。ちょこっとイジらせてもらったよ。まぁ、あれを殺したのはおれじゃなくユリウスだけどな」
「なんだと……?」
死霊術師として子どもたちの死体を操っていたことは認めるハワード。
しかし、あの落雷で彼らを殺したのはユリウスだと言う。
「気づかなかったのか? もしかして、たった一度話した程度であの男を信用でもしたのか……? あいつはそういうやつなのさ!」
「なっ……」
ハワードの一撃を受け、おれは体勢を崩してしまう。
ヤバい……このままではハワードの連撃に耐えられない。
すると、カシアスがおれの身体を勝手に使って魔法を発動する。
いや、違う——。
カシアスが何をすればいいのかを感覚として教えてくれる。
おれはその通りに身体を動かすのであった。
「
おれは闇の竜巻を巻き起こしてハワードに反撃をする。
そして、慣性の力でおれは自然とハワードと距離を取ることに成功する。
ふぅ……。
なんとか助かったぜ。
おれは距離を取ったことにより、体勢を立て直すことに成功する。
「なかなかやるじゃないか……」
「だが、いつまで持つかな……?」
《霊体殺し》を使っていることにより、深傷を負っているはずのハワード。
しかし、実力と状況的にはおれの方が追い詰められているのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます