268話 悪魔たちの激闘(1)
《冥界の悪魔》ハワードが支配する亜空間の最深部。
そこでは悪魔たちによる壮絶な戦いが繰り広げられていた。
見せかけの月が創りモノの夜空を照らし、その光は上空で覇を競い合う悪魔たちの姿を灯す。
そこには、緑色の髪を長く垂らす傷ついた悪魔と深い闇にその身を染めた漆黒の悪魔がいた。
そして彼らは互いに向かい合い、戦いの最中言葉を交わすのであった。
「どうして俺があの男に従っているかわかるか……?」
傷ついた身体に回復魔法をかけながら、十傑の一人ハワードは語りかける。
どうして、自分が《天雷の悪魔》ユリウスに付き従っているのか知っているかと——。
「さぁ、わかりませんね。どうしてなのですか?」
それに対し、漆黒の悪魔であるカシアスは興味こそなかったが一応尋ねることにする。
もしかすると、今後どこかでその情報がいきてくるのではないかという可能性も考えて……。
だからこそ、目の前で態勢を整えるハワードに対して、攻めるような姿勢は見せなかった。
そんな彼に対し、ハワードは静かに理由を語る。
「あの二人を護るためだ。それだけを望み、そのためだけに俺はあの男の軍門に降ったのだ」
少し離れているところでアイシスと争いを繰り広げる上位悪魔ラズとリズ。
双子のように似た可愛らしい二人の少女の悪魔を見つめ、ハワードはそう語った。
「なるほど……。ですが、どうやらあの男は彼女らを護ってくれそうにありませんね」
カシアスは彼の答えを聞き、煽るように彼の主人の話題を持ち出した。
そして、それはハワード自身も自覚していた。
《天雷の悪魔》ユリウス——。
その男は既に、この地を離れて魔界へと戻ってしまったという事実をハワードも理解していたのだ。
そして、彼は覚悟を決めた男の顔つきでカシアスを見つめる。
「あぁ……そのようだな。だが、だからこそ俺はお前たちを倒さなければならない。彼女たちを護るために俺はこの命をかけて戦うのだ」
押されていたハワードであるが、ここに来てさらに魔力が上昇していく。
そんな一人の男の決意を見せられ、カシアスも思うところがあるのであった。
「それが貴方の戦う理由ですか……」
「そうだ! そして、俺の生きる意味だ!!」
ハワードの身体も十分に回復し、再び彼らの激闘がはじまろうとしていた——。
そして、カシアスはそんな一人の悪魔に敬意を持って、ここに宣言する。
「いいでしょう。私はそんな貴方を誠意をもって打ち砕くとしましょう」
漆黒の悪魔カシアスはその身にかけてある魔法を解除し、本来の姿を見せることにする。
銀色に染まった髪に、白銀の翼、それらが漆黒のマントに包まれ、その姿が露わになる。
「ようやく本気で戦うつもりになったか……。《氷獄の悪魔》カシアスよ」
こうして、《冥界の悪魔》ハワードと《氷獄の悪魔》カシアスの戦いが今ここで巻き起ころうとしているのであった。
◇◇◇
ハワードとカシアスが剣を交えるすぐ近くで、彼女たちもまた全身全霊をもって戦いに挑んでいるのであった。
「クッ……。私たちがハワード様の足を引っ張ってしまっている…….」
赤髪の悪魔ラズが息を切らしながら、自身らの脆弱さを責め立てるのであった。
今現在、彼女らの主ハワードは彼女たちのことを気にかけているせいで、カシアスだけに集中できていない状況にある。
そのせいで、ハワードは余計カシアス相手に苦戦してしまっている。
それを彼女は嘆くのであった。
「こんなはずじゃ……。今のアイシスは上位悪魔の中でも底辺に位置するレベルのはずじゃ……」
そして、青髪の悪魔リズもまた息を切らして現状を嘆く。
アイシスの実力がこれほどであったなど、想定外のことであったのだ。
本来ならば、ハワードに任された亜空間でアイシスとセアラを仕留めるはずであった。
しかし、本気になったアイシスは彼女ら二人がかりで束になっても相手にならない。
それほどまでに圧倒して強かったのだ。
それを見かねたハワードは二人に撤退の指示を出し、彼の目が届く範囲でアイシスの相手をするよう念話で伝えてきた。
だからこそ、今こうしてハワードの側で支援魔法などの保護を受けながら戦っているのであった。
「どうやら、貴女方は随分と
ハワードとカシアスの二人の会話を聞いていたアイシス。
その事について、何気なく二人に語りかけるのであった。
だが、その事で逆に彼女は二人に煽られることとなってしまう。
「あら……負け惜しみかしら……? そういえばあなたは一度、冷酷非道な
「そうだったわね……。結局、あなたは都合いい女として利用されているってわけね。私たちと違って、可哀想な女だこと……」
息を切らしながらラズとリズは皮肉を込めてアイシスを挑発するのであった。
そして、それを受けた彼女は軽く微笑みながら言葉を返す。
「ふっ……。私に力で勝てないとわかったらといって、そんな負け犬のような言葉で騒ぎ立てるのですか」
「随分とお可愛い狂犬ですこと……。死者を愚弄するあの
主人であるハワードを侮辱され、怒りを露わにする赤髪の悪魔ラズ。
「なんですって……。キサマ、よくもハワード様を!!」
彼女は残ってる力を振り絞り、アイシスに対して最大限の攻撃魔法を発動する。
一点に集約された紅蓮の炎は
そんな紅蓮の弾丸がいくつも現れると、アイシスをハチの巣にしてしまうのではないかと思うほど激しく襲いかかるのであった……。
だが、本気のアイシスが展開する闇属性の防御魔法はそんなラズの最大魔法すらいとも簡単に無力化する。
そして、転移をしたアイシスは右手に持つ魔剣を振るいラズの胸を貫くのであった。
「ぐわぁぁぁあ!」
「ラズ!?」
ラズの断末魔が響き渡りると同時に、彼女の苦しむ姿を間近に見たリズが声をかける。
しかし——。
「他人の心配している余裕などないはずですが……?」
「ぎゃぁぁぁあ!」
さらに転移を行なったアイシスは続けて青髪の悪魔リズの胸をも魔剣で貫く。
「クッ……」
しかし、ここでアイシスの口から苦痛の声が溢れてしまう。
彼女は一見、上位悪魔の二人を圧倒しているように見えるが、実際には限界を押して戦っている。
なんといっても彼女は精霊体の生命力である魂の魔力を消費して戦いに挑んでいるのだ。
その身が悲鳴をあげ、死と隣り合わせで戦っている。
そして、彼女はその限界をなんとなく感じていた。
どうせ死ぬのならば、この二人だけでも道連れとする。
その使命感だけが限界を感じる彼女を突き動かしていた。
「苦しまないうちに、終わらせて差し上げます……」
そうつぶやいて、彼女はリズから魔剣を引き抜く。
そして、二人にトドメを刺すための魔力を身体からかき集めるのであった。
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