267話 試練の果ての合流
魔王ユリウスと別れた後、おれは光に照らされる道を突き進み、暗黒の世界を抜けることに成功した。
どうやら、おれがセルフィーを倒した後に見つけた道は行き止まりではなかったらしい。
まだ罠かもしれない可能性もあるがそれは低いだろう。
あの男——《天雷の悪魔》ユリウスがいたのだ。
きっと、これは最後の試練。
十傑の一人である《冥界の悪魔》ハワードとの決戦の舞台へと続いているのであろう……。
そう覚悟を決めて、おれは別の空間へと飛び出すのであった。
◇◇◇
おれの目の前に広がるのは、夜の静寂に包まれた広大な砂漠。
どうやら動植物が一つも見当たらない砂上の世界に出てしまったようだ。
そして、この空間に抜けるなりズキズキと肌を突き刺すような魔力を感じる。
ドォォォォーーーーン!!!!
凄まじい魔力を感じると共に、突然上空から聴こえてくる爆発音。
音が聴こえてきた夜空を見上げると、そこにはカシアスやアイシスが敵と思われる悪魔たちと交戦していた。
どうやら、間違っていなかったようだ。
ここが亜空間の最深部……。
ここにハワードと子どもたちがはずだ!
そんなことを思っていると、どこからともなくおれの名前が呼ばれる。
それは、段々と大きな声ではっきりと聴こえてくるのであった。
「アベルーーーー!!」
ここでおれはようやく気づく。
これはサラの声だ!
どこからか、おれの名を呼ぶサラの声がする!!
おれはこの広大な砂漠の世界を目を凝らして見回し、声がどこから聴こえてくるのかを探す。
そして、何人もの人影が見つかるとそこに向かって進むことにしたのであった。
不思議なことに、先ほどまでは使えなかった転移魔法がこの空間では使えた。
そして、何回か転移したことで人影が見えたところまでたどり着き、そこにいる人物たちと対面することになる。
「よかった……。無事だったのね」
サラが嬉しそうに安堵の表情を見せておれに迫ってくる。
それからおれの手を両手で握ると、おれが生きていたことを喜んでか自然のその顔に笑みが浮かぶ。
「あぁ、サラたちの方こそ無事そうでなによりだ」
おれの方こそ、みんなが集まっている姿を見つけて喜ぶ。
ここにいたのはサラだけではない。
ヴァルターさんたちやハル、そして見知らぬ男女の若者たちもいたのであった。
「アタシらは複数人で転移させられたんだが、お前は一人だけで飛ばされたようだな。のたれ死んだかと思っていたぞ」
ハルが軽く笑いながら語りかけてくる。
こんなことを言ってはいるが、なんだかんだ彼女なりにおれを心配していてくれたのかもしれない。
そんな彼女はラースさんを抱え、回復魔法をかけているようであった。
彼女に抱きかかえられているラースさんだけではない、パトリオットさんやリンクスさんも意識がないようで横にグッタリと倒れている。
そんな彼らの様子を見て、不安な気持ちが顔に出てしまったのかハルが続けておれに声をかける。
「安心しろ、だれ一人として死んでいない。少なくとも、ここにいるメンバーたちはな」
おれは彼女のこの言葉を聞いて安心する。
そして、ヴァルターさんもまた、おれの無事を喜んでくれるのであった。
「アベルくん、君が無事でいてくれたようでよかったよ。ラースたちは僕が頼りないばかりにこんな事になってしまったんだ……。本当、上司として僕は失格だよ」
どうやらおれとは異なり、ヴァルターさんたちはまとまって転移させられたらしい。
そして、そこでラースさんたちは傷ついてしまったようだ。
そんな自分自身を責めるヴァルターさんに対して、レーナが優しくフォローする。
「いいや、ヴァルターのせいではないぞ。相手が悪すぎたのだ。それに、ヴァルターのおかげでそこにいる子どもたちは保護できたではないか」
レーナの言葉から、彼らの側で固まっている若者たちが救助された子どもたちだと知る。
どうやら、ヴァルターさんたちが彼らを見つけて保護をしてくれたようだ。
それを知るなり、おれは急いで彼ら彼女らの顔を確認する。
全員、上位悪魔の思考誘導を受けているようでその瞳は暗く濁っており、反応のない生きた人形のようである。
彼らは8人の若い男女たちであったが、その中にエトワール・ハウスでおれたちと一緒に過ごしたティアさんの姿はなかった。
ヴァルターさんが一部の子どもたちを保護してくれたという事実を受け、安堵の感情が出てくると共に、自分の中にある罪悪感が再び表に出てくる……。
そして、おれは彼らに謝罪をするのであった。
「ごめんなさい……。おれ、みんなに謝らなきゃいけないことがあるんです」
突然の告白に、サラやヴァルターさんたちは黙っておれの言葉を待つ。
おれは言葉を振り絞って謝罪の言葉を述べるであった。
「実はおれ、子どもたちが目の前にいたのに助けられなかったんだ……」
「本当に、ごめんなさい……」
今回の件はおれたちの問題なのだ。
エトワールさんからの頼みを受けて、悪魔たちに囚われた子供たちを助け出す。
ヴァルターさんは善意からそれに協力してくれている。
そんな彼が仲間たちを犠牲にして子どもたちを救出しているというのに、おれときたら……。
罪悪感で押しつぶされてしまいそうになる。
おれの告白に、みんなは言葉を呑んで静まり返る。
そんな中、サラは沈黙を破っておれに言葉をかけるのであった。
「そう……。そうだったの……」
「でも、今はアベルがクヨクヨしていい場合じゃないっていうのはわかってるわよね……?」
「えっ……?」
静かに、それでも力強く言葉をかけてくるサラに、おれは顔を上げて聞き返す。
「悔やんだって、嘆いたって、現実は何も良くならない。今やらないといけないこと、やらなきゃいけないことがあるわよね?」
「幸い、今のところカシアスたちは押してる。他にもこの空間に子どもたちがいないか、今のうちに探さないとなのよ」
サラは気高く、たくましくそう語った。
彼女には、今やらなくてはいけないことがはっきりと見えている。
とても強い心と意思を持って、戦う覚悟があるのだ。
そうだ……。
今はこんなところで後悔してる場合じゃないんだ。
「そうだな! わかったよ!!」
サラの言葉でおれは目が醒める。
今の自分にできることを今はやろうと!
だが、そんなおれたちの決意とは裏腹に、悪魔たちの争いの流れは静かに移り変わろうとしているのであった……。
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