167話 懐かしの再会

  おれたちはカシアスの転移魔法でエウレス共和国のテスラ領へと転移した。

  もちろん、馬車も一緒にだ。


  そして、バルバドさんとカレンさんが暮らしている魔術学校の寮へと向かう。


  バルバドさんはゼノシア大陸の元Aランク冒険者のハーフエルフだ。

  冒険者を引退した後はレストランや宿屋を経営していたらしい。

  いつもはニコニコとしているが怒らせたら怖いらしい。


  そして、カレンさんはゼノシア大陸の元冒険者ギルドの職員だった人間である。

  記憶を亡くしているらしいがそれでも今は幸せにバルバドさんと暮らしている。

  ちなみに超絶美人だ。


  二人には数年前にゼノシア大陸で修行をしている中で出会い、そして親しくなった。


  そこで十傑の悪魔と繋がっている冒険者ギルドに二人が苦しめられていることを知り、おれたちとフォルステリア大陸へと逃げてきたのだ。


  こちらではサラが中等魔術学校に通う上で生活費の援助をしてもらうなどお世話になっていた。

  おれも会うのは久しぶりだし、しっかりとお礼を言わないとな。



  そんなこんなでテスラ領の街道を歩く。



  うん、カルア王国と比べて人々の顔に明るさがある。

  まぁ、王国は危機的な現状だし、落ち着いていて平和なテスラ領と比べるのはあんまりだったな。


  エウレス共和国は複数の領地が存在しており、それぞれの領地を各領主たちが治めているらしい。

  領主たちはかつて人間界を救った七英雄ライアンとフレイミーの末裔たちである。

  そんな二人の七英雄の末裔たちが統治する共和国がエウレス共和国なのだ。


  そして、おれたちが生まれ育ったテスラ領は数ある領地の中でも恵まれている環境にあるようで、他の領地からも移住してくる者たちが多く、人口も増加しているらしい。


  恵まれた自然に発達した産業、人口も増え続けている。

  そりゃ、街中にいる子どもたちからお年寄りまで笑顔なわけだな。




  ◇◇◇




  そして、バルバドさんたちのいる寮へとたどり着く。

  レンガ造りの頑丈そうな建物だ。


  まだ建設されてからあまり月日が経っていないということで風化している様子もない。

  多くの学生や教師、職員が暮らすにも安心できる寮である。


  ちなみにサラは去年までここに住んでいた。

  だが、卒業した以上むやみやからに入ることはできないだろう。


  そう思っているとサラが先陣を切って突き進んでゆく。


  「ここの寮監さんとは仲が良いから顔パスで入れるはずよ!」


  自信満々のドヤ顔で話すサラ。


  いやいや、いくらなんでもそれは無理だろ。

  今はもう部外者なんだし、セキュリティ的に知り合いでも入れるわけ……。



  しかし、サラが寮監らしきオバさんに『バルバドさんとカレンさんに会いたい』と告げると、特に審査をされることも書類を書かされることもなく中に入れた。

  もちろん、サラの連れであるおれたちも問題なくだ。



  おかしいだろ!

  寮監さん仕事しろよ!



  おれはスイスイと寮内に入りつつ心の中で叫ぶ。

  しかも、サラは寮監さんにお菓子だの手紙だのもらっていた。

  頭をなでられてハグまでされてる。


  うん、これが人望とかってやつなんだろうな。

  いや、違うか……。


  これがサラの魅力だろう。

  おれはそう思って遠くからサラを見つめていた。


  ちなみに、ちょっとだけ嫉妬していたのは内緒だ。



  そして、バルバドさんとカレンさんの部屋の前にたどり着いた。


  おれたちは部屋をノックする。



  「はーーい! 入ってどうぞ」



  ハキハキとした女性の声が聞こえる。


  懐かしいな。

  これはカレンさんの声だ。



  「ただいまー!!」



  ドアを開け、元気な声で挨拶をするサラ。


  そんなサラを見て、笑顔でこちらに駆けてくるカレンさん。


  長い髪を後ろで一つ縛りにしている。

  前に見たときよりも大人っぽく感じた。


  「うわー! セアラちゃん、ひさしぶり!!」


  うん、カレンさんも元気そうだな。


  それにサラもいつも以上に明るい気がする。

  Aクラスには仲のいい友だちもいなさそうだし、たまにはテスラ領まで連れてきてあげたいな。


  そして、奥のテーブルに腰をかける人物たちに目がいく。


  「アベルくん、久しぶりだね」


  笑顔でおれに微笑みかけるおじさん。

  彼こそゼノシア大陸の元英雄バルバドさんだ。


  そして、他にも四人組の男女がいた。


  「おっ、ひさびさだな」


  「元気にしてた?」


  「アベル殿にアイシス様もいるのである」


  「アベル、背が伸びたね」


  ゼノシア大陸でAランク冒険者パーティーを組んでいたカトルフィッシュの面々だ。


  どうやら、バルバドさんたちの所へ遊びに来ていたらしい。

  カトルフィッシュの四人は元々バルバドさんを尊敬していたようだし、今では魔術学校の教師として一緒に働いている。

  けっこう仲が良いのかもしれないな。


  そして、カレンさんがおれに話しかける。


  「アベルくん、おっきくなったね! わたし、身長抜かされちゃったよ」


  カレンさんが無邪気にはしゃぐ。


  そういえば、カレンさんと前にあったのは10歳の時だっけ?

  もうすぐ14歳になるのだ。

  おれも身体が大人に近づいてきたもんな。


  ちなみに、身長に関してならサラは12歳の時点で追い抜かしていた。


  そして、不思議そうな顔つきでカレンさんが尋ねる。


  「それで、アイシス様の隣にいるのはどなたなの?」


  ここにいるメンバーは基本的にアイシスに敬意を持っている。

  4年前、みんなアイシスによって救われたところがあるからな。


  そんなアイシスが大人しくイケメンの陰に隠れている。

  カレンさんはそんなイケメンに興味を持ったのだろうか。


  そして、アイシスが興味津々でいるみなにカシアスの紹介をするのであった。



  「この方は私のあるじであり、アベル様と契約をなさっているカシアス様でございます」



  アイシスのこの発言に、この場にいる者たちがみな驚く。


  「上位悪魔であらせられるアイシス様の主とは……」

 

  「確かに神々しいオーラを放っておられる」


  「アベルくんって、そんなすごいお方と契約していたのね」


  うん、なんかすごいことになってるね。

  みんなカシアスとおれに注目している。


  「まさか、アベルくんの契約していた悪魔様だったとはね……。それにしても、アベルくんとカシアス様って似ているわね!」


  カレンさんがおれたちを見てそう語る。


  おれとカシアスが似ている?


  そういえば、見た目は二人とも黒目黒髪の男だし、成長したらおれもカシアスみたいになるのだろうか?

  もちろん、悪魔のように翼は生えないだろうがそれでも身長が伸びて大人っぽくなったらカシアスと……。


  いやいや!

  こいつのようなイケメンとは似ても似つかない!


  おれがフツメンなのに対してカシアスは顔が整い過ぎている。

  10年後に隣にいるのを考えたらちょっと虚しくなったぜ。


  だが、カシアスはカレンさんの言葉を不快に思うことはなかったようだ。


  「貴女はとても見る目があるようですね」


  カシアスの微笑みにカレンさんが戸惑う。


  「はっ、はぃ。ありがとう……ございます」


  イケメンの微笑みは重い罪にした方がいい。

  そんなことを思わせるテンプレ的な展開だ。


  そして、おれは思わず口に出してしまった。


  「カシアス、否定していいんだぞ! おれと同じみたいなんてお前も嫌だろ?」


  おれはカシアスにそう伝える。

  しかし、カシアスはおれの意見を否定した。


  「そんなことはありませんよ。私はこの姿がとても気に入っているのです。違う姿にもなれますが、しばらくはアベル様と同じこの格好をさせてください」


  カシアスは偽りのないような笑みでそう告げる。


  おれはカシアスの言葉の意味がわからなかった。

  だが、不満そうではないということはわかったので素直に頷いておく。


  「そうだ! これから昼食にするのよ! よかったらみんなも食べていってよ」


  エプロン姿のカレンさんがおれたちにそう告げる。

  どうやらカトルフィッシュの四人と食事をする予定だったようだ。


  「カレンさんの料理、久しぶりに食べたいな」


  サラもこう言っていることだし、ここはご馳走になろうか。



  こうして、おれたちはカレンさん手づくりの特製スパゲッティをご馳走になったのであった。


  やはり、カレンさんの手料理はおいしい!

  レストランが開けるレベルだぜ。



  そして、このメンバーで食卓を囲むのは4年ぶりだ。

  近況も含め、ひさびさに腹を割って色々と話した。


  みんなはテスラ領の魔術学校で働いてどんなことがあったのか。

  そして、カルア王国に引っ越したおれたちにどんなことがあったのか。


  他愛もない雑談からはじまり、おれたちの敵である存在についても話した。


  おれたちの追っている悪魔についてわかったこと。

  そして、その仲間である悪魔と戦ったこと。



  どうやら、国王ダリオスの死や伝説の精霊ハリスさんの死は既にこちらまで情報として届いていたようだ。


  ハリスさんの話になった時は罪の意識で胸がズキズキと痛んだ。

  だが、それを察してくれたカシアスが話題を変えてくれた。



  こうして、おれたちは昼過ぎから日が落ちるまで長らく語ったのである。

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