131話 姉弟対決 セアラ=ローレン vs アベル=ローレン

  「さぁ、いよいよこの好試合も最後の3番手同士の試合がはじまろうとしています! ここで勝利した方のクラスがベスト8へと駒を進めることになります!」


  「果たしてそれは1年Aクラスか!? それとも1年Fクラスか!? 戦いの行方ゆくえはどこへ向かうのでしょうか!」


  「1Aガンバレー!!」


  「Fクラス負けるなー!!」


  会場の雰囲気としては両クラスへの応援は五分五分といったところだろうか。

  最初はあれだけAクラス一色だった観客たちの声援がここまで変わったのはネルとケビンのおかげだ。


  ビビりのおれとしてはだいぶやり易くなった。

  本当にありがたい。


  「それで、セアラ選手とアベル選手の情報はないんですか?」


  解説の女が実況の男に尋ねる。


  「えーっと、はい! それではまもなく始まる試合に出場する両選手の紹介をしたいと思います!!」


  ウオォォォォ!!!!!


  「まずは、セアラ=ローレン選手! 出身はエウレス共和国の中等魔術学校であり、主席で卒業しているそうです!」


  「その可愛らしい姿から想像できませんが魔法、剣術共に才能があるそうです。しかも、本職は魔法剣士ではなく精霊術師であり、その実力は既に召喚術師クラスだとも言われています!」


  男子生徒がサラのプロフィールを紹介してくれる。


  「じゃあ、彼女はあれですか。本校800年の歴史において最高得点で入学してくる神童で、剣術も魔法も使えるけどその正体は召喚術師! しかも、ローレンっていう名前でエウレス共和国の出身ってもしかして……」


  「はい! おそらく七英雄ライアン様とフレイミー様の末裔だと思われます!」


  「あー、私たちとは住む世界が違うんですね。私はこの試合アベルくんを応援したいと思いますよ」


  女解説者は何かあきれたようにそう話す。


  「いやいや! ダメですってパーシャルさん! 解説は中立の立場からお願いしますよ!!」

 

  実況の男が慌てて彼女を説得しようとしている。


  「わかってますって、冗談ですよ冗談。それで、今度はアベルくんの方を教えてください」


  「はい! そんなセアラ選手に対抗するのは1年Fクラスのアベル=ヴェルダン選手です! 彼もまたセアラ選手同様、外部からやってきた精霊術師だそうです!」


  「精霊術師? 彼は剣を持っていますが剣士じゃなかったんですね。それより、ヴェルダンってもしかして……」


  ここで再びパーシャルという解説の女子生徒が息を呑む。


  「はい! 彼は貴族であるヴェルダン家の息子だそうです! 中等魔術学校には通っておらず、特別選抜でFクラスに入学したそうです! 当時、面接官でもあり現在彼の主担任であるドーベル先生のコメントでは『あらゆる理論を身体で理解している天才』とあります」


  「えっと……ごめんなさい。それはどういうことですか?」


  「おそらくですが、アベル選手はセアラ選手とは違い、入試の成績がそれほどよかったわけではないのです。筆記が200点満点中の2点、実技が200点満点中の200点満点とあるので、おそらくドーベル先生はこのことを話しているのでしょう」



  おいっ!?

  おれの黒歴史である入試得点を2万人の前で公開するな!!


  おれは顔を真っ赤にして実況席をにらむ。



  「へぇー、彼も変わった子なんですね。それにしてもヴェルダン家の天才……。この試合、天才と呼ばれている七英雄様たちの末裔同士がぶつかり合う熱戦になりそうですね!」


  「はい! かつて人間界を救うために共闘した七英雄様たち! そして、800年の時を超えて今! 彼らの末裔たちによる熱い試合が繰り広げられていようとしています!!」




  ◇◇◇




  ハリスさんや精霊たちの準備がようやく終わったようだ。

  試合場で起こる衝撃から観客たちを守るための防御結界は大きさも厚さも二倍以上になっており、より頑丈になったというイメージだ。

  これなら安心して試合が行えるだろう。


  それに実況の人たちの盛り上げのおかげで観客たちのテンションも最高の状態で試合がスタートできそうだ。


  既に所定の位置につくおれとサラ。

  今からお互い手加減なしの試合がはじまろうとしている。


  おれは負けるわけにはいかない!!


  そして、ハリスさんが手を挙げた。

  これは彼女がかけ声をかければ試合がはじまるという合図。

  おれたちは感覚を研ぎ澄ませ、耳に集中力を集める。

  そして——。



  「試合開始!!!!」



  ハリスさんが声を上げた。



  「さぁ、ハリス様によって合図がなされました!! いったいどのような試合展開になるので……」



  実況の声が途切れた。

  それもそのはず……。


  サラは試合開始早々、一つの魔法を使った。


  「業炎ヘルフレイム!!」


  その瞬間、目の前が——。

  いや、結界内全体が業火の蒼炎に包まれたのであった。



  ——ベンチにて——



  「はっ……?」


  一瞬で目の前が蒼くなったことに戸惑うネルとケビン。



  ——特別応援席にて——



  「えぇーー!?」


  何ひとつ理解できないがとんでもないことが起こっているとわかるミラたち。



  ——貴族エリアにて——



  「ほほぅ……」


  セアラの魔法発動の瞬間を見て感心するマルクス。



  ——実況解説にて——



  「なっ!? 何が起こっているのでしょう!? 炎が! 蒼い炎が結界内を包み込んでいます!! これは魔法なのでしょうか? 我々には内部の様子が何も見えません!!」


  「なんなのよこの魔法は……もしもこれを彼らが使っているのだとしたら彼らはいったい……」



  試合場を包み込むようにして張られた球状の防御結界。

  ついさっきまで内部が鮮明に見えていたその球状の結界が、今は蒼く輝き炎を灯しているのだ。

  多くの者がこの状況についていけていなかった。



  おれは燃えさかる結界の中で、自分自身も炎に包まれて身を守っていた。

  火属性の防御魔法で炎の衣を創り出してそれに身を包んでいたのだ。


  自分の魔力によって生み出した炎なら自分を傷つけることはない。

  おれとしては炎の衣に包まれているのは快適だった。


  だが、いつまでもこうしているわけにはいかないだろう。

  反撃に出る前にまずはこの結界内の炎を何とかしないとな。


  「氷界アイスブリザード!!」


  冷気が一気に結界内を包み込み、サラが生み出した蒼炎と相殺する。

  おれは氷属性魔法を使いサラが創り出した蒼炎の空間を破壊する。



  「おぉぉっと!? まるで霧が晴れるかのように結界内の炎がかき消えてゆきました!! これは、二人の選手の魔法による現象なのでしょうか!?」



  ウオォォォォォォオ!!!!!!



  「すげぇー! なんかわからんがすげぇーよ!!」


  「セアラちゃーん! がんばってー!!」


  「アベルくーん! がんばれー!!」



  会場は今までに類を見ない壮大な魔法の威力に大きな盛り上がりを見せる。

  まさに七英雄の末裔たちとして恥じない戦いの幕開けだ。



  「いやー、今までなんとか解説してきましたが今のはまったくわからないですね……。おそらく、最初の炎を使ったのはセアラ選手。そして、その炎を消したのがアベル選手だと思われます」


  「しかし、どんな魔法を使えばあれほどの広範囲に、あれほどの効力をもたせられるのか検討が付きません……」



  あの解説の女もなかなかに良い眼と知識を持っている。

  だが、おれとサラが規格外の魔力を保有しているという想像ができていないようだ。

  まずはそこを認めなければいくら考えても答えは出てこないだろう。


  「さすがアベル! そう簡単に倒れたりはしなかったみたいね」


  目の前にいるサラがおれに話しかけてくる。


  「流石に、いきなりあの炎は驚いたけどね。でも、今のはサラにとっても苦しいものになるんじゃない?」


  サラが試合開始早々に放った業火の蒼炎は結界内の酸素を大幅に消費してしまった。


  熱によるダメージは防げていたのだが、流石に酸素は守らなければと思いおれは炎を鎮火させたのだ。

  だが、空気が薄くなるのはサラにとっても苦しい状況になるのではないか?


  すると彼女は笑って答える。


  「元々私はだらだらと試合を続けるつもりはないの。さぁ、勝負しましょ!!」


  サラが右手に剣を握りしめ、おれに接近してくる!

  その速度はネルやケビンよりも早かった。



  ガキィーーーーン!!!!



  おれは彼女の攻撃を自分の剣で受け止めた。

  おれの剣とサラの剣が交わる。



  ギィリギィリギィリッッッ!!



  「けっこう、やるんだな」


  おれがサラと剣を交えたのはこれが初めてかもしれない。

  毎朝の特訓だって模擬戦は魔法がメインだし、昔からサラに付き合わされる特訓といえば魔法についてのものだった。


  おれは想像以上に剣の扱いが上手いサラに感心していた。

  そして、一度距離を取る。


  「私はパパから剣術これを教わり終える前に別れることになってしまった……。だから、パパから全てを教わっていたアベルがうらやましかった」


  突然のサラの告白。

  確かにおれは剣術の才能もあり、同じだけの訓練をしていてもサラより上達するのが早かった。

  そのためカイル父さんから教われることは全て学んだ。


  今ではアイシスに剣術を鍛えてもらっているおれだが、カイル父さんに教えてもらった基礎の型や身体運びは今でもおれに根づいている大事なものだ。


  そんなおれに対してサラはカイル父さんから基礎を全てを教わる前に別れることになってしまった。

  だからこそ、カイル父さんに全てを教わったおれに対してうらやましいと感じているようだ。


  「別にアベルを憎んでいるわけじゃない。だけど、嫉妬してしまっているのも事実! だから、ちょっと力が入るかも」


  サラとおれと剣の打ち込みをしながらそう語る。

  そんなサラは剣術に関しておれといい勝負をしていた。


  その剣に蒼い炎をまとって斬りかかってくるサラ。

  それに対し、紅い炎をまとって対応するおれ。


  至近距離での激しい炎のぶつかり合いが繰り広げられていた。



  「すごい! すご過ぎる!! 目にも留まらぬ速さで両者、剣を交えています!! その姿はまるで、紅蓮の英雄騎士ニーア=ルード様を彷彿ほうふつとさせます!!」


  「これって精霊術師同士の対決なんですよね……。ちょっと私、魔法剣士として自信を失くしてしましますよ」



  「いけぇー! やっつけろ!!」


  「アベルくーん! がんばってーー!!」


  「二人とも頑張れ!!」



  激しく戦う二人の姿に、会場は熱狂していた。

  そんなとき——。



  「ん? んんんっっ!?」


  「どうしたんですかグラーツ先輩?」


  実況の男が何かにうなる。


  「アベル選手のプロフィールを見ていたのですが……」


  「はい。何かあったんですか?」


  実況の女が冷静に尋ねる。


  「彼の生年月日を計算すると13歳になるんですけど……」


  「えっ……」



  「えっ? どういうこと?」


  「プロフィールが間違いなの?」


  「そもそも13歳で高等部に入れるのか? 」


  実況のこの発言に会場中が騒ぎ出す。


  「あら、バレちゃったみたいね弟くん」


  サラがおれと剣を打ち合いながらそんなことを言ってくる。

  だが、今はそんなことどうでもいい。


  空気が薄くてツラいし、何より熱い!

  冷気で一応冷ましはしたが、それでもさっきまで燃えていた痕跡が残っているせいもあるし、とんでもない運動量に汗もすごい出てる。


  「年齢なんてどうでもいいだろお姉さん! それより今は勝負だ!!」


  「それには賛成ね!」


  今はただの剣の打ち合いだけではなく魔法も駆使した近距離戦になっている。

  冷静に防御魔法も使って相手の攻撃魔法を防ぎながら剣で攻めるのだ。

  これが結構キツい。



  「どうやらアベル選手は中等部二年生の年代のようですね。顔が幼いとは思っていましたが、まさか早期入学者だったとは……」


  「3年Aクラスのレイ=クロネリアス選手は14歳の早期入学の生徒であり彼は1年分の早期入学。その点、アベル選手は2年分の早期入学と考えるとこの実力も頷けますね。だけど、ヤバ過ぎません? ほんとにあれが中等部2年と同い年!?」



  この発言に、観客席にいる中等部の生徒たちのアベルへの見方が変わる。


  「アベル先輩って本当はおれたちとタメなのかよ!? こりゃ応援するっきゃないな!」


  「アベル先輩カッコよすぎっす! 頑張ってください!!」


  そして、それは1年Fクラスの生徒たちも同様だった。


  「アベルって年下だったのかよ」


  「だからアベルくんってあんなに可愛かったのね!」


  「ねぇねぇ! 真剣なアベルくんとのギャップやばくない?」


  「「「がんばってー、アベルくーん!」」」


  クラスの女子たちからは黄色い声援が送られるのであった。



  「何そんなニヤけるのよ? ムカつく!!」



  クラスの女子たちの声援に笑みを溢すおれ。

  そんなおれに向かって、サラが特大の土属性魔法を撃ち込んでくる。

  家一個ほどはある巨大な岩石がおれに降り注ぐ。


  おれはその岩石に向かって土弾アースショットを撃ち込みそれを粉砕する。

  おれの周りに庭石ほどの岩石がぼろぼろと降ってきたが、それらがおれに当たることはなかった。


  ふぅ……危なかったぜ。


  「そろそろ終わりにしないか?」


  おれはサラに提案する。

  お互い息が苦しくなってきている。


  おれも判断力が低下していっているのが自分でもわかる。

  これ以上続けたら何かしでかして勝てなくなってしまうかもしれない。


  「そうね……じゃあ、私の本気、見せちゃおうかな……」


  そう言って、不敵に笑うサラにおれは何だか嫌な予感を感じた。


  あれ……おれってサラより強いんだよな?

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